ブリテン島人の起源
雑記帳 2019年04月16日
ブリテン島における新石器時代農耕民の起源
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_26.html
ブリテン島における新石器時代農耕民の起源に関する研究(Brace et al., 2019)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ヨーロッパにおける初期農耕は、アナトリア半島起源の農耕民集団(エーゲ海集団)によりもたらされました。このアナトリア半島農耕民集団は、ヨーロッパで中石器時代以来の在来狩猟採集民集団とじょじょに混合していった、と明らかになっています(関連記事)。ただ、地域によっては混合・同化が早期に進行した、と推測されています(関連記事)。
本論文は、ゲノム規模の解析により、ブリテン島における中石器時代〜新石器時代の人類集団の遺伝的構成を検証しました。年代は紀元前8500〜紀元前2500年で、中石器時代の6人と新石器時代の67人が対象とされました。ブリテン島における農耕の開始は紀元前4000年頃で、ヨーロッパ大陸部と比較して1000年ほど遅れています。まず明らかになったのは、中石器時代のブリテン島の狩猟採集民は、ヨーロッパ西部狩猟採集民集団と遺伝的に類似している、ということです。
しかし、ブリテン島の新石器時代農耕民集団は、遺伝的にはおもにアナトリア半島農耕民集団起源で、中石器時代以降の在来の狩猟採集民集団との混合はほとんどなかった、と明らかになりました。また、ブリテン島の初期農耕民集団は遺伝的にイベリア半島の農耕民集団と類似しており、ブリテン島最初の農耕民集団が西岸で確認されることから、ブリテン島への農耕民集団の到来は、アナトリア半島からヨーロッパ中央部を経ての英仏海峡経由という最短の海路ではなく、より広大な航海距離を必要とする大西洋経路だったのではないか、と推測されています。
また本論文は、石器時代におけるヨーロッパの人類集団の色素沈着水準も検証しており、かなりの多様性があった、と推測しています。1万年前頃のブリテン島の人類の肌の色は濃かった、と推測されています(関連記事)。しかし、ヨーロッパに農耕をもたらしたアナトリア半島農耕民集団の肌の色は中間的で、目は茶色だった、と推測されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
英国の新石器時代のヒト集団の起源
ブリテン新石器時代のヒト集団は、イベリアの新石器時代のヒトと共通の遺伝的類似性を有しており、これらの集団と現地の中石器時代の狩猟採集民との間にはほとんど混血が生じていなかったことを明らかにした論文が、今週掲載される。この知見は、地中海沿いの経路をたどった大陸の新石器時代の農耕民によって、ブリテン島に農耕がもたらされたことを示している。
ヨーロッパ大陸の農耕は、エーゲ系の新石器時代の農耕民とともに、2本の主要な経路を通って伝来した。一方は地中海沿いの経路、もう一方はヨーロッパ中部を経由してヨーロッパ北部へ向かう経路である。この拡大する集団は、途上で現地の中石器時代の狩猟採集民と混血した。ブリテン島では、紀元前4000年頃に新石器文化が出現しており、これはヨーロッパ大陸の隣接地域で農耕への移行が起こってからほぼ1000年後のことであった。しかし、ブリテン新石器時代のヒト集団の起源は、これまでよく分かっていなかった。
今回Mark G. Thomas、Ian Barnesたちは、ブリテン島で発見され、紀元前8500〜2500年と年代決定された中石器時代の6個体と、新石器時代の67個体に関して、ゲノム規模のデータ解析を行った。その結果、ブリテン新石器時代のヒト集団は主にエーゲ系の新石器時代の農耕民の血を引いており、イベリアの新石器時代のヒトに近いことが明らかになった。また、ブリテン中石器時代のヒトと流入したブリテン新石器時代のヒトとの間には、実質的な混血の証拠がほとんど認められないことも判明した。ブリテン島では、この血統の変化は農耕への移行と共に起こっていた。ヨーロッパの他の地域とは異なり、農耕への移行は、現地の狩猟採集民との間に見いだされる混血には影響されなかった。著者たちは、ブリテン島とイベリアの間で認められる新石器時代のヒトの遺伝的類似性は、大陸の農耕民が主として地中海沿いの経路をたどってブリテン島に移住したことを示していると主張している。
参考文献:
Brace S. et al.(2019): Ancient genomes indicate population replacement in Early Neolithic Britain. Nature Ecology & Evolution, 3, 5, 765–771.
https://doi.org/10.1038/s41559-019-0871-9
https://sicambre.at.webry.info/201904/article_26.html
http://www.asyura2.com/20/reki5/msg/295.html