「集団免疫戦略 真似しないで」 スウェーデンの医師・科学者が意見投稿 2020年8月8日
スウェーデンの医師・科学者ら25人が連名で、「スウェーデンは集団免疫に期待したが、効果はなかった。私たちのマネをしてはなりません」と題する意見投稿を、米紙『USAトゥデイ』(7月21日)に掲載した。「スウェーデンのCOVID-19へのアプローチは、死と悲しみと苦しみをもたらした」「集団免疫までの犠牲が高すぎる。私たちは世界に感染病で何をしてはいけないかの手本を示しただけだ」と訴えている。
スウェーデンの新型コロナ感染対策は、唯一「集団免疫戦略」をとるモデルとして日本のメディアでも報道されてきた。一度感染した者は回復すると免疫を持つが、そのような免疫保持者が一定割合をこえると、その後の感染拡大が自然に封じられる。スウェーデン当局は、新型コロナウイルスの場合、40%の感染でこの水準に達すると試算し、他のヨーロッパ諸国がやったような都市封鎖を実施しなかった。
この共同意見は初めに、アメリカ国民に訴える動機に関連して、「スウェーデンは、難民の受け入れや地球温暖化対策などの分野で光の道標とされ、世界的な人道問題に関しては、しばしばリーダー的な存在とされてきた。COVID-19のパンデミックにおいても、スウェーデンは独自の“ソフト”なアプローチを採用し、ロックダウンをせず、おもに自主的な制限を導入し、マスクの使用を控えることで、世界の関心を集めている」とのべている。
「(アメリカではこのような対策が)リベラルなものとして認識されており、米国の抗議行動では“スウェーデンのようにやろう”の書き文字や掛け声が見られる。しかし、対策が緩やかなところでは死亡率がピークに達している。アメリカでは、早期にロックダウンから抜け出した地域が苦しんでいるが、他の国でも同じことが起きている」
意見は続けて、スウェーデンの公衆衛生当局が当初同じ戦略をとっていた国が方向転換していくなかでもこの方向を突き進んだことにふれ、「幼い子どもたちへの教育義務を掲げて、検査の重要性は長い間無視されてきた。加えて当局の目標は、感染を最小限に抑えることではなく、むしろそれを遅らせることで、医療崩壊を招かないようにすることだった」とのべている。
さらに、「スウェーデン人の抗体を持っている割合は10%未満だと推定されている。それなのにスウェーデンの死亡率は危惧される状況にある。スウェーデンの人口100万人当りの死亡者数は556人だが、それは米国の425人を上回るものとなっている(7月20日現在)。また、スウェーデンの死亡者数は他の北欧4カ国を合わせた死亡者数の4・5倍以上、人口100万人当りの死亡者数の7倍以上にもなっている」ことを明らかにしている。
メディアが伝えるところでも、スウェーデン当局は個人の「自己責任」を基本に、体調が悪い時には自宅で過ごし、公共の場では社会距離を保つよう国民に推奨するだけで、ほとんどの就業が通常通りにおこなわれ、レストランやバー、学校が閉鎖されることはなかった。また、PCR検査の件数が少ないことから、無症状のまま未検査の感染者が多いことが隠されてきたことが問題になっている。
その一方で、感染の犠牲が高齢者に集中したことが、この国の「高度社会福祉政策」の実態を浮き彫りにすることになった。スウェーデン政府が「医療崩壊を防ぐ」と称して、「高齢患者をむやみに病院に連れて行かない」とのガイドラインを現場に通達していたことに批判が集中している。
スウェーデンの人口は約1000万人だが7月末時点で、死者が約6000人に上っている。その9割は70歳以上の高齢者で、その半数以上が介護施設・老人ホームで息をひきとっていることも明らかとなっている。保健当局によると集中治療室(ICU)に運ばれた患者のうち70歳以上は約22%、80歳以上は3・5%のみだった。
このため、「高齢者は集中治療室に入れてもらえない。命の選別だ」との批判が全国的に高まった。また、「集団免疫戦略」が経済的にもダメージを与えたことも露呈し、4月には、スウェーデンの科学者2000人以上が公開書簡に署名し、政府に対して都市封鎖の再検討など感染対策の転換を求めるまでになっていた。
OECD(経済協力開発機構)は6月、スウェーデンの今年のGDP伸び率について、第二波の感染が来ない場合でも6・7%減と、アメリカ並みに落ち込むと見込んでいる。米紙への投稿意見に名を連ねたルンド大学のマーカス・カールソン上級講師(数学)は「文化や人口密度、気候が似た他の北欧諸国の10倍の人が死に、経済的利益もない。まったくの惨劇だ」と指摘。「集団免疫には5万人の死者が必要だろう。これはあまりにむごい実験だ」と批判している。
ところで、スウェーデンにおけるPCR検査数は100万人当り約8万件(世界第50位)だが、驚くべきことに日本の検査数はそれを大きく下回る約6000件(世界第158位)でしかない。スウェーデンの医師・科学者らの訴えは、隠された形で同じ危険な道を歩んできた日本の新型コロナ対策への警鐘となっている。
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