この投稿でとりあげるのは、東京新聞が先日実施した、東京都知事選を見据えての世論調査である。「本紙世論調査——共同通信、東京MXテレビと3社共同で実施」とうたったもので、その結果は6月29日の朝刊で概要が、30日の朝刊で詳細が報道され、もちろんネットにも掲載された。
すでに阿修羅にも下記投稿がなされており、大体のところを知ることができる。
<東京新聞、1面トップ!>都民の51%「五輪の中止・再延期を」 都知事選巡り東京新聞世論調査
http://www.asyura2.com/20/senkyo273/msg/727.html
(記事本文およびコメント欄)
さて本投稿が指摘するのは、タイトルにあるように、この世論調査にはどうにも辻褄の合わない数字が並んでいる、ということである。ぼんやり眺めているだけだと気がつかないかもしれないが、ちょっとだけ注意深く見て、そしてちょっとだけ考えてみれば、小学4年生、5年生くらいでも気がつきそうな、そんなとんでもなくレベルの低い辻褄の合わなさである。
具体的には、回答した人たちの中の「各政党ごとの支持率」と、「それぞれの政党の支持者が、都知事選で誰に投票するつもりでいるか」の数字の間に、ひどい食い違いるがある、という話である。
まずこの世論調査のやり方を、次に引用しておく。
【調査の方法】6月26~28日、都内の有権者を対象にコンピューターで無作為に選んだ番号に電話をかける方法で行い、実際に有権者がいる家庭につながった1457件のうち1030人から回答を得た。各設問の回答の比率は小数点以下第2位で四捨五入しており、総計が100%にならない場合がある。
1030人から回答を得たそうだ。
次に、「主な質問と回答」から、「◆普段どの政党を支持していますか。」の部分を抜き出しておこう。
主な質問と回答【都知事選世論調査】
2020年6月29日 20時37分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/38633
(単位は%。データの並び順は全体、男性、女性)
◆普段どの政党を支持していますか。
自民党 32.7 38.8 26.9
立憲民主党 7.2 8.8 5.6
国民民主党 2.0 1.9 2.0
公明党 3.8 3.4 4.1
共産党 3.8 3.2 4.5
日本維新の会 0.9 1.1 0.7
社民党 0.4 0.2 0.5
NHKから国民を守る党 0.3 0.5 0
れいわ新選組 1.7 1.9 1.5
その他の政党・政治団体 0 0 0
支持政党はない 44.6 37.0 52.3
分からない・無回答 2.6 3.2 1.9
個人的には「れいわ」が意外と健闘しているなとは思ったが、まあ大体こんなもんだろうなという支持率が並んでいる。
そしてもう1つのデータは、
誰に投票? 野党支持層は分散【都知事選世論調査】
2020年6月29日 20時36分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/38679
にある画像で、例えば「ふだんは自民党を支持している」と答えた人たちがどの候補に投票するつもりでいるのかをパーセンテージで示したグラフである(本投稿の一番上に表示されているはず)。
さてこのグラフを精査しよう(ちょっと大げさな言い方だが)と思ったきっかけは、小池とは対極の存在とも言うべき山本太郎を出した「れいわ」の支持者の中に、小池に投票する人が“7.5%も”いるのか、という驚きだった。7.5%といえば1割近い数字じゃないか。実際に何人が小池に投票する予定だと答えたのか、知りたいと思った。
そこで、この調査の回答者数1030人と、れいわの支持率1.7%から、れいわ支持者の実数は17人か18人くらいだろうとまず見当をつけた(1030×0.017=17.51)。
そして、全体でそのくらいの人数なら、小池に投票するのは1人だけだろうな、と。
で、1を17で割ってみた。答えは0.0588、つまり四捨五入して5.9%だ。18で割ったらもっと小さくなる。7.5%になんてならないじゃないか。
唐突ですがここで小学校の算数の問題です。
「ここに20人の人がいます。その中に黒い服を着ている人が1人、青い服を着ている人が2人います。黒い服を着ている人は全体の何%ですか。青い服を着ている人は全体の何%でしょうか。計算式と一緒に答えなさい」
計算式は省いて答えだけ書くと、もちろん、5%と10%になる。これが3人なら15%となり、つまり1人増えるごとに5%ずつ増える。2人増えれば10%だ。これが、全体の人数が10人の場合なら、1人増減するごとに10%ずつ変化するわけだ。
ここに至って、頭のいい小学生でなくとも気づいた人が大半だろうが、1人の増減によって7.5%変化するというとき、全体の数は10と20の間のどこかにあるはずだ。
で、1を0.075で割ってみる。答えは13.33333…だ。全体で13人ということか。
でもこれだと「れいわ」の支持率は1.3%くらにしかならない。おかしい。
(すでに話が思ったよりだいぶ長くなったので省略するが)ここでれいわ支持者のうち、山本太郎に投票する予定だという「62.3%」の実数を求めてみる。そして「それ以外の候補に投票するか無回答」の30.2%の実数も。
結論から言うと、以上の3つのパーセンテージをぴったりと満たす全体の数は「53」が最小なのである。
53人のうち
山本太郎に投票するのが33人(33÷53=0.6226…)
小池に投票するのが4人(4÷53=0.0754…)
その他が16人(16÷53=0.3018…)
これで53人である。
れいわの支持者が53人ということは、1030人のうちの5.1%である。
なんだ、ということは実は「れいわ」は立憲に次ぐ、野党第2党ということになるじゃないか。
こりゃ、れいわの分をどこか他の党につけかえやがったな、なんてひどいことをしやがる、
と憤ると同時に、このことをれいわサイドに伝えてやろうかとも思った。励ましの意味でも。
と最初は考えていた。
ところが話はそう単純ではなかったのだ。
国民民主のグラフを見てみよう。
国民民主の支持率は2%ということなので、全体の実数は21人というところだろう。
さっきの算数の問題で、「全体が20人の場合は1人増減するごとに5%ずつ動く」と書いた。当たり前の話である。
ああそれなのにそれなのに、国民民主のグラフを見ると、山本太郎への投票が19%とある一方では、その他への投票または無回答が18.1%とあるじゃないか。なんなんだ、この0.9%の差は? おかしいじゃないか。
全体が100人の場合、1人の増減は1%の違いとなって表れる。
したがって、0.9%の違いというのは、100人より少し多いあたりに出てくるとわかる。
そして国民民主の場合は、全体を105人と考えると完全に辻褄が合う。
山本に投票する人が20人(20÷105=0.190…=19.0%)
小池に投票する人が66人(66÷105=0.6285…=62.9%)
その他または無回答が19人(19÷105=0.1809…=18.1%)
合計105人である。
他の党についてはやっていないが、たぶんそれぞれに辻褄の合う「全体の数」はあるのだろう。
だが少なくとも1030人という回答者と、それから割り出した各政党の支持者数とは完全に食い違っているわけで
これを東京新聞などはどう説明するのだろうか。
1030人というのが間違いでした、とでも言うだろうか。だがそれは通らない。
例えば国民民主の105人というのが2%の支持率だと主張することは全体で5千人もの人に聞き取り調査をしたことになるが、メディアがそんな大規模な調査をしたなんて金輪際聞いたことがない。
(山本太郎が出馬会見で、れいわは3000人を対象とした情勢調査をしたが、それは他の党が2000人くらいなのと比べても多い数だと言っていた。)
結局、少なくとも「各政党への支持率」と、「予定している投票先」は全く違うデータに基づいて作られたものとしか思えないのだが、違うのだろうか。
あまりにもとんでもない結果に、自分はどこかで間違ったのだろうか、という気にもなるのだが、いやいや、少なくとも「示された回答者数と政党ごとの支持率」から、あのような「投票先のパーセンテージ」は絶対に出てこないことは示せたと思う。
すべての生データを開示するしか選択肢はないのではないか。
しかし、ひどすぎないか。
この世論調査の全体を統括した人間は、小学生程度の算数もできないのか。
「投票予定先」としておかしなデータが使われていることに気づかなかったのか。
それとも意図的なものなのか。絶対にバレるまいと思ったのか。
次のような「お断り」がなおさら虚しく響く。いくら委託先を選ぼうとも、委託元が腐っていてはなんにもならないのだ。
【お断り】本紙と共同通信、東京MXテレビの3社による電話調査は、調査の信頼性を確保するため、幹事社の共同通信の担当者が調査に立ち会い、オペレーターと回答者のやりとりを確認しました。また調査終了後には詳しいデータの提供を受け、内容をチェックしました。産経新聞とフジテレビの合同調査で今月、調査会社から業務の一部を再委託された業者の不正が発覚しましたが、本紙などの委託先は別の調査会社で、再委託がないことも確認しています。