小池氏「卒業証明書」不提示は、「偽造私文書」“行使罪”との関係か
2020年6月6日 郷原信郎が斬る
虚言に塗り固められた小池百合子という女性政治家の「正体」を見事に描き切った石井妙子氏の著書【女帝 小池百合子】は、政治家に関連する本としては異例のベストセラーとなっている。黒木亮氏は、ネット記事での追及を続けている。
これらによって、小池氏の華々しい経歴と政治家としての地位の原点となった「カイロ大学卒業」が虚偽である疑いは一層高まり、都議会本会議での追及も行われている。
虚偽事項公表罪による刑事責任追及の「壁」
前回記事【都知事選、小池百合子氏は「学歴詐称疑惑」を“強行突破”できるか】では、「カイロ大学卒」の学歴が虚偽である疑いが指摘されている中で、小池氏が都知事選挙に立候補し、これまでの選挙と同様に、選挙公報に「カイロ大学卒業」と記載した場合に、告発が行われるなどして検察の捜査の対象とされ、公選法違反(虚偽事項公表罪)で処罰される可能性について検討した。
検事がエジプトに派遣されて司法当局の大学関係者への事情聴取に立ち会うという「海外捜査」によって、「カイロ大学卒業の事実があったのか、なかったのか」という客観的事実が明らかになる可能性もあり、石井氏の著書に登場する小池氏のカイロ時代の同居人の女性の証言、小池氏の著書での記述や発言に重大な矛盾があることなど、小池氏の説明を疑う証拠は豊富であり、刑事事件の捜査で真実が明らかになる可能性も十分にある。
しかし、検察が虚偽事項公表罪を適用する上で最大のネックになるのは、黒木氏が【徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽〈5〉カイロ大学の思惑】で指摘しているように、カイロ大学の権力を完全に掌握しているのは軍部・情報部で、日本からのメディアの取材に対して、カイロ大学が卒業を認めることを繰り返してきた背後には、カイロ大学文学部日本語学科長のアーデル・アミン・サーレハ氏らハーテム人脈を頂点とするエジプトの軍部・情報部と大学の権力階層構造があるという政治的背景だ。
カイロ大学側が「小池は卒業した」と言い通せば、その説明がどんなに怪しくても、「カイロ大学卒業」が虚偽であることを立証するのは容易ではない。そういう意味では、虚偽事項公表罪による刑事責任追及には、高い「壁」があると言える。
「卒業証明書」偽造をめぐる疑惑
「学歴詐称」疑惑に関連する、もう一つの犯罪の容疑と言えるのが「卒業証明書」偽造疑惑だ。この問題について、黒木氏は、6月5日の《【最終回】小池百合子「カイロ大卒」の真偽 卒業証明書、卒業証書から浮かび上がる疑問符》と題する記事で、「卒業証明書」の偽造の疑いについて総括している。
小池氏は、前回の都知事選の際、フジテレビの2016年6月30日放送の「とくダネ!」で、唯一文字が判読できる形で「卒業証明書」を提示した。黒木氏は、その番組のスクリーンショットから、小池氏の卒業証明書は、最重要要件である大学のスタンプの印影がいずれも判読不明であることなど、証明書として通用しない代物だと指摘している。また、文章が男性形で書かれていること、4人の署名者のうち2人の署名しか確認できないことなど不自然な点が多々あることを指摘している。
また、石井妙子氏は、【小池百合子都知事のカイロ大学『卒業証書』画像を徹底検証する】(文春オンライン)で、『振り袖、ピラミッドを登る』の扉に掲載された卒業証書のロゴとフジテレビで放送された卒業証書のロゴが異なることを指摘している。
これらの指摘のとおり、小池氏の「卒業証明書」が不正に作成されたものであったとすると、小池氏の行為にどのような犯罪が成立するだろうか。
まず、国外犯処罰との関係では、刑法3条で、有印私文書偽造は日本国民の国外犯処罰の対象とされているので、小池氏が犯罪に関わっているとすれば処罰の対象になる。しかし、偽造行為があったとしても、40年も前のことなので、既に公訴時効が完成している。
そこで問題になるのは、「卒業証明書」について、偽造有印私文書の「行使罪」が成立しないかという点だ。4年前のフジテレビの「特ダネ」での提示は、「行使」と言えるので、卒業証明書が「偽造有印私文書」に当たるのであれば、公訴時効(5年)は完成しておらず、処罰可能ということになる。
「偽造有印私文書」とは
「偽造有印私文書」に該当するか否かに関して重要なことは、「卒業証明書」の作成名義が誰なのか、そして、その作成名義を偽ったと言えるのかどうかである。
広い意味の「文書偽造」には、「有形偽造」と「無形偽造」がある。有形偽造とは、作成名義を偽るもの、つまり、名義人ではない者が勝手にその名義の文書を作成することである。無形偽造とは、名義人が虚偽の内容の文書を作成することである。公文書については、「虚偽文書の作成」も処罰の対象となるが、私文書については、作成名義を偽る有形偽造しか処罰の対象にならない。つまり、小池氏が提示した「卒業証明書」が、その証明書を作成する権限を持つ人が署名して作成したものであれば、卒業の有無について虚偽の内容が書かれていても、「偽造有印私文書」にはならないのである。
「卒業証明書」の「作成名義」
では、小池氏の「卒業証明書」の作成名義が誰なのか、この点については、黒木氏の上記記事だけからはわからなかったので、ロンドン在住の黒木氏に直接連絡をとって尋ねたところ、以下のように解説してくれた。
小池氏の卒業証明書の右上にはカイロ大学の文字が下にあるカイロ大学のロゴ(トキの頭を持ったトト神)があり、大学の文書として発行されています。
書いてある文章自体は、「文学部は日本で1952年7月15日に生まれた小池百合子氏が1976年10月に社会学の専攻・ジャイイド(good)の成績で学士を取得したので、彼(男性形)の求めにもとづき、関係者に提出するためにこの証書を発行した」と書いてあります。
要は大学の用紙を用いて文学部長が発行したという体裁になっています。
その下に、右からムハッタス(specialist)、ムラーキブ(controller)、ムラーキブ・ル・アーンム(general controller)の署名欄があり、スクリーンショットでは真ん中のムラーキブのところしか署名が見えません。その右のムハッタスの署名欄の線が滲んで見えるので、もしかするとサインがあるのかもしれません。
また3つのサインの下にアミード・ル・クッリーヤ(学部長)の署名欄があり、一応サインがありますが、当時の学部長のサインではありません(もしかしたら代理サインとかかもしれませんが、まったく読めません)。
黒木氏の上記解説からすると、「卒業証明書」が、「カイロ大学文学部長」の作成名義の文書であることは間違いないようだ。問題は、その学部長の署名欄に、学部長ではないと思える人のサインがあるということだ。それが、学部長として卒業証明書を作成する権限を有する人のサインであれば、仮に卒業した事実がないのに卒業したと書かれているとしても「無形偽造」であり、「偽造有印私文書」には該当しない。
もし、学部長欄の署名が、学部長として証明書を作成する権限がない者によるものであったとすれば、学部長の作成名義を偽ったということであり、「有形偽造」に該当し、「偽造有印私文書」に該当することになる(「有印」には、印章だけではなく署名も含まれる)。
「卒業証明書」についての「偽造有印私文書行使罪」の成否
小池氏の「卒業証明書」については、以下の4つの可能性が考えられる。
(1)カイロ大学で正規の手続で作成発行された文書
(2)カイロ大学内で、大学関係者が関与して、非正規の手続ではあるが、学部長の権限を有する者が作成した文書
(3)作成権限のないカイロ大学関係者が、大学の用紙を使って文学部長名義で不正に作成した文書
(4)カイロ大学とは無関係な者が、正規の卒業証明書の外観に似せて不正に作成した文書
このうち、(1)であれば何ら問題はないが、そうであれば、小池氏が、卒業証明書の提示を拒否することは考えられないので、この可能性は限りなく低いと考えるべきであろう。一方、(3)、(4)のいずれかであれば、「偽造有印私文書」に該当することは明らかだ。
問題は(2)の場合だ。この場合は「無形偽造」と考えられるので、「偽造有印私文書」に該当するとは言い難い。偽造に関する刑事責任を問われることはないということになる。しかし、卒業証明書を提示すると、その作成手続が正規ではないことが問題にされ、正式に卒業していないことが証明される可能性が高い。それが、小池氏が提示を拒んでいる理由とも考えられる。
(2)か(3)(4)かで、刑事責任の有無が異なるが、その点は、黒木氏が指摘する「学部長の署名欄」のサインが誰によるものか、その人が学部長の代理権限を持っていたのかによって判断が異なることになる。
結局のところ、小池氏の「卒業証明書」が、刑法上の「偽造有印私文書」に該当するのか否かは、現時点ではいずれとも判断ができないが、黒木氏の記事及び解説からすると、少なくとも、「カイロ大学の卒業証明書」として使用することに重大な問題がある文書であることは疑いの余地がない。
「卒業証明書」の“現物”の提示が不可欠
そのような重大な問題が指摘されているのであるから、小池氏が、今回の東京都知事選で、都知事という公職につくべく再選出馬を表明するのであれば、その「卒業証明書」の“現物”を提示することが不可欠だ(TVの映像による公開などでは、いくらでもコピーや切り貼りが可能なので、それが偽造であるかどうかが確認できない)。
もし、小池氏が提示しようとしないのであれば、出馬会見の場に参加した記者は、提示を強く要求し、提示がなければ会見を終了させないぐらいの強い姿勢で臨むべきだ。それを行わず、やすやすと小池氏の出馬会見を終わらせるようであれば、その会見に出席した記者達は、「東京都民に対する職責を果たさなかった記者」としての非難を免れないということになる。
一方で、小池氏が、卒業証明書を提示し、それが実は、上記の(3)か(4)であることが明らかになった場合には、その提示行為が「虚偽有印私文書」の「行使罪」に該当することになる。小池氏が、これ以上「卒業証明書」の提示を拒むのであれば、新たな「犯罪」に該当するリスクを避けたいからと推測されても致し方ないだろう。
いずれにしても、公訴時効が完成していない4年前のフジテレビ番組での提示の行為がある以上、「学歴詐称」による公選法の虚偽事項公表罪に加えて、「偽造有印私文書」の「行使罪」で告発される可能性は十分にある。
これまで、小池氏の「学歴詐称」疑惑について、現地取材も含め、長年にわたる取材を重ねてきた黒木氏は、もし、小池氏について、「学歴詐称」の虚偽事項公表罪や、「卒業証明書」の私文書偽造・行使事件について、
検察が捜査することになった場合には、まだ開示していないものも含め、手元にある資料をすべて提供し、全面的に捜査に協力し、必要があれば裁判で証言する
と明言している。
6月18日の東京都知事選挙の告示まで2週間を切ったが、小池百合子氏は、近く再選出馬を表明することは確実と見られている。
【前回記事】でも書いたように、「小池都政」には、豊洲市場移転問題を始めとする欺瞞がたくさんある。小池氏のような人物に、今後4年間の東京都政を委ねてもよいのか、改めて真剣に考えてみる必要がある。
新型コロナ感染対策でのパフォーマンスに騙されることなく、「小池百合子」という人物の正体を十分に認識した上で、都知事選に臨むことが、東京都の有権者にとって必要なのではなかろうか。