「火事場泥棒ならぬコロナ場泥棒の所業だったのだが、これまでさまざまな悪法を強行してきた安倍氏も、今回は読みが狂ったのかもしれない」。松尾貴史さんが検察官の定年延長を巡る諸問題について、コラムでつづりました。https://t.co/YC6VWJT8Gw
— 毎日新聞 (@mainichi) May 24, 2020
松尾貴史のちょっと違和感
検察庁法改正案の採決断念 国民の怒り、読みが狂ったか
https://mainichi.jp/articles/20200524/ddv/010/070/020000c
2020年5月24日 02時05分(最終更新 5月24日 02時19分) 毎日新聞
松尾貴史さん作
今国会で不自然な形と、要領を得ない答弁の連発で進められていた検察庁法の改悪は、何とか採決を断念させることができたようだ。
コロナ禍の最中に、安倍晋三首相の主観では必要至急だったのかもしれないけれども、客観的には不要不急の検察庁法改正案をなぜか急いで強行採決してしまおうという風情を見せていた政権は、折しも在宅を強いられていた人たちが多く注視することになって、その意図が丸分かりになってしまうという流れとなった。ネット上で反対の声がこれまでにないほど湧き上がり、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグがつけられたつぶやきが700万件も上がって、普段は政治的な発言におっくうな有名人たちも多くが怒りを示した。違うハッシュタグの意思表示も含めれば1000万件、2000万件を数えているかもしれない。いわゆる「ツイッターデモ」と呼ばれる状態になったのだ。
緊急事態宣言のもと、街に出にくいので集会やデモは起こらないと高をくくっていたのだろうか。火事場泥棒ならぬコロナ場泥棒の所業だったのだが、これまでさまざまな悪法を強行してきた安倍氏も、今回は読みが狂ったのかもしれない。
日々の生活に追われ、通常の社会活動のなかでは物理的にも心理的にもプレッシャーが多いのか政治的な意思表示をしづらいが、在宅でじっくり調べたり考えたり、あるいはネットに触れる時間や機会も多くなり、声を上げやすかったのかもしれない。
安倍氏はなぜか、国家公務員の定年延長が問題にされたかのような言い回しをするのだが、定年延長に反対の声はない。多くの国民が怒ったのは、検察庁法改正案に書き加えられた、役職延長に関するギミック(策略)であって、政権による恣意(しい)的な人事が行われることによって、検察の独立性が大きく壊されることが問題なのだ。
それを、他の国家公務員の定年延長法案と抱き合わせて一括で通そうとし、分割や修正の要求に応じず、必要かもしれない部分まで一緒くたに取り下げてしまった。「反対した人たちのせいで大事な法案全体が通らなかった」と、後で野党への攻撃材料に使うもくろみかと疑ってしまう。
「恣意的な人事の懸念は、ない」と述べる安倍氏だが、元加計学園客員教授が文部科学相、元加計学園監事が最高裁判事、加計学園理事長が後援会幹事を務める厚生労働相など、その「実績」は正視できないほどではないか。
聞き手を桜井よしこ氏が務めるインターネット番組の中で、安倍氏は「黒川弘務東京高検検事長の定年延長は法務省からの提案」と話していた。しかし、これよりも前に、法務省から、東京高検検事長に名古屋高検検事長の林真琴氏を就任させる人事案を示されたが、官邸が潰したとの報道もある。そして安倍氏の周辺はこれを隠していた。
さらに、安倍氏は黒川氏と会ったことがないという趣旨の話もしている。しかし、過去の首相の動静にはっきりと2人で会った記録が残されている。また、また、またまた、官僚たちが「国難がつく嘘(うそ)」につじつまを合わせなければならない無理難題の出題がなされた様相だ。もううんざりではあるけれど、安倍氏の言葉の真偽を追及する面倒な作業が新たに生まれてしまった。
新聞やテレビのニュース番組で、「著名人から『抗議』の投稿が相次いだから」だと解説するものもあったけれど、直接政権を動かしたのは、普段は沈黙している一般の人たちが爆発的に声を上げたからだろう。表に出ている世論調査ではなく、「実際の数字」を自民党や官邸は目にし、驚愕(きょうがく)したのかもしれない。
新聞や報道番組が、そもそも批判すべきは批判するという役割を、厳しく果たしていくことが求められるのではないか。「司法、立法、行政の三権分立を壊す」というが、第4の権力とも言える「報道」は、官邸の影響を受けてはいないか。厳しく足元、いやトップをも見つめていかなければいけない。(放送タレント、イラストも)