※サンデー毎日 2020年2月23日号 各紙面、クリック拡大
「倉重篤郎のニュース最前線:立憲・国民合流破談 志位和夫・共産党委員長の覚悟 野党共闘の灯は消さない」
— 志位和夫 (@shiikazuo) February 11, 2020
綱領改定と野党共闘について「サンデー毎日」でお話しました。「灯は消さない」というより「炎を燃え上がらせる」という決意です。https://t.co/66aUYFTtSr
倉重篤郎のニュース最前線
立憲・国民合流破談 志位和夫・共産党委員長の覚悟 野党共闘の灯は消さない
https://mainichi.jp/sunday/articles/20200210/org/00m/070/004000d
2020年2月11日 05時00分(最終更新 2月11日 05時00分) サンデー毎日
<逃すまい!「桜問題」の好機を…>
激白90分「新共産党宣言」
中国の覇権主義を明確に批判
安倍政権打倒のために、自ら路線変更して野党共闘への道を開いた共産党が、中国を覇権主義国家として批判するなど、さらなる変化を遂げている。「桜を見る会」問題でも独自の調査力を発揮した共産党だが、志位和夫委員長は現在の政治危機をどう批判し、どのような共闘を構想しているのだろうか―。
この欄では、何人かの方に政局の定点観測子になっていただいている。
一人は田原総一朗氏だ。歴代首相のみならず安倍晋三首相ともサシで取材する田原氏ならではの同時代証言を何度か紹介してきた。小沢一郎氏も然(しか)り。平成の30年間、政局ど真ん中で日本の政治を動かしてきた視座から何が見えるのか、節目節目で話を伺ってきた。
もう一人、意外と思われる人物を挙げるとすれば、共産党の志位和夫委員長だ。立憲民主でも国民民主でもなくなぜ共産党トップなのか。以下の事情による。
戦後政治史の一つの特徴として、安全保障環境の激変期には必ず政界再編が起こり新しい政治体制が生まれている。米ソ冷戦が始まった時は、自由、民主両党の合併、左右社会党の合体という自社55年体制が生まれた。冷戦終焉(しゅうえん)時には自民党が分裂し、変則保守2党による連立政権時代が幕を開ける。そして、今何が起きているか。中国が飛躍的に台頭、米国がジリジリと後退していく「新冷戦」とでもいうべきこの10年の変化に日本の政治勢力はどう動こうとしているか。
最初に反応したのは安倍首相率いる自民党だった。中国を軍事的に抑止し、米国を東アジアに引き留めるために、集団的自衛権行使を一部解除したほか、地球上どこでも米軍のために後方支援(補給)できる新安保法制を強行採決、米兵器爆買い、沖縄新基地造成、護衛艦の空母化に踏み込み米国の歓心を買っている。日米安保体制の強化、さらなる一体化で乗り切ろうというもので、自公連立という安定多数の枠組みが9条の縛り、専守防衛路線からの逸脱を可能にさせた。
野党で動いたのは共産党だった。その新安保法制の成立(2015年9月)直後に従来の純粋野党路線を捨て、政権奪取のために野党共闘を推進する路線に大転換、この5年間三つの国政選挙で野党共闘の軸として存在感を高めてきた。その背景には日米安保体制に唯一距離を置いてきた政党としてこの局面での対米従属への根源的批判がある。
その共産党が1月の党大会(14〜18日)で16年ぶりに党綱領を改定、安保環境激変のもう一つの当事者である中国に対し、社会主義を目指す国として認定した記述を削除し、その大国主義、覇権主義を激しく批判した。ここでもまた時代環境に対し一歩先んじようという大きな政治判断が行われた、と見られる。
その志位氏に聞く。
綱領改定からいきましょう。04年に「社会主義をめざす新しい探究が開始され、(中略)二一世紀の世界史の重要な流れの一つとなろうとしている」と書き込んだ記述を今回削除した。その意味は?
「日中両共産党関係史を遡(さかのぼ)ると、1960年代後半、『文化大革命』時代に毛沢東が日本共産党に対し、武装闘争路線を押し付ける乱暴な干渉をしてきたことがあった。我々はそれを拒否したが、中国側は、『アメリカ帝国主義、ソ連修正主義、日本反動派、日本共産党が日中両国人民の四つの敵だ』と我々を非難、断交状態となった」
「関係正常化は98年だった。私も書記局長として不破哲三委員長と北京に行き、江沢民総書記、胡錦濤政治局常務委員(いずれも当時)らと会談した。彼らは、『文革』時の干渉の誤りを認め、両党共同コミュニケで『真剣な総括と是正を行った』と明記した。中国共産党が他党に対して誤りを公然と認めた世界で唯一の例ではないか。我々はその態度に真剣さ、誠実さを認め、それが2004年の綱領改定の記述につながった」
「ところが10年ほど前からいろいろ問題が出てきた。彼らは東シナ海、南シナ海で乱暴な覇権主義的行動を取り、核問題でも核兵器廃絶という人類的課題に背を向けている。香港やウイグルなどでの人権侵害も深刻化した。いずれも社会主義とは無縁の行動であり、中国を社会主義を目指す国だと判断する根拠はもはやなくなった」
綱領をバサッと削った。
「21世紀の世界をどう見るかという基本認識に関わってくる大切な決定だった。もちろん、最も危険なのはアメリカ帝国主義、特にイラン司令官殺害のように先制攻撃を平気でやるトランプ政権だと思っている。ただ、経済規模で米国に並ぼうとしているもう一つの大国・中国で、深刻な大国主義、覇権主義、人権侵害の問題点が噴出しており、世界にとって看過しがたいと考え綱領上明確にした。日本共産党に対する誤解や偏見をなくすことにつながるし、野党共闘にもプラスになると思う」
野党の皆さんの評価は?
「野党の党首懇親会で概略をお見せしたら『これはいい』と言う声も出た。中国に対しても言うべきことはキチンと言う姿勢が評価されたと感じている」
今、野党連合政権構想が必要
肝心の中国からは?
「3年前の党大会時に『中国に新しい大国主義・覇権主義の誤りが生まれている』という批判を大会決議案に入れたことがあった。その時大会直前に程永華駐日大使(当時)が党本部に私を訪問、『決議案から中国批判の部分を削ってほしい』と言ってきた。中国共産党中央委員会の指示での訪問ということだった。私はきっぱり拒否し、批判の理由を全面的に話し、2時間議論した。最後はわが党の立場を中国指導部に伝えるよう要請し、伝えますということで別れた。日本共産党からの批判は自分たちにとって痛手だという思いがあったのだと思う。中国の存在が世界の中で大きくなっているだけに、間違いを正論で正すことは大事だ」
その後はない?
「昨年10月、着任挨拶(あいさつ)に来られた孔鉉佑大使に対して、尖閣諸島の領海侵入、香港での人権侵害と二つの問題について、わが党の批判的立場を伝えた。議論になったが、大使は本国に伝えると述べた」
結構思い切った判断だ。
「中国を、社会主義を目指す国とする綱領の規定は、何としても変えないと現実に合わないと考えた。変えて良かった。中国が『社会主義』となると、『中国に比べると欧米の方がまし』ともなり、資本主義の矛盾も社会主義の本来の良さもよく見えてこない」
さて、路線転換してからの5年間。どう総括する?
「野党共闘が一定の成果を上げた。3回の国政選挙を戦い、参院選1人区では16年に11議席、19年に10議席獲得、改憲勢力を3分の2割れに追い込んだ。これがなければ今ごろ改憲強行という流れになっていたかもしれない。17年衆院選は(希望の党による分断という)逆流が起きて思うような結果を出せなかったが、共闘はつなぐことができた」
選挙協力は実績ありだ。
「ただ問題はここから先だ。共闘を飛躍、バージョンアップさせるには、野党連合政権構想を皆で作ることが必要だ。これがないと、国民から見て選挙協力はいいけど、安倍政権を倒した後は一体どうするの、となる。共闘に政権ビジョンがなければ国民が希望を託そうとはならない。それをやってこそ初めて野党の本気度が伝わる。この政権合意がまだできていない」
昨年8月、あなたが話し合いスタートを呼びかけた。
「立憲、国民、社民、れいわ4党と党首会談を行い、安倍政権を倒し、政権を代え、立憲主義を取り戻す。そこまでは合意した。ただ、共産党と政権を共にするという合意には至っていない。政権を一緒に作るという政治的意志の確認が大切だ。そうすればその政権が実行する政策について話し合える。一致点、不一致点の整理・仕分けもでき、選挙協力も進む。政権を作る意志、実行する政策、そして選挙協力。これを三位一体として進めていく必要がある。この半年で半歩進んだが、もう半歩進めたい」
共産党も政権内に入る?
「政権を構成する一員になる、ということだ。ただし、その形態は閣内、閣外協力と両方ある」
共産党内に抵抗は?
「ないと思う。丁寧に議論してきた」
安倍首相の噓はモラル崩壊の極致
立憲、国民民主党内にはまだ抵抗がある。
「一歩一歩共闘の実績を重ねていくことが大切と思っている。昨年11月の高知県知事選では、共産党県委員の松本顕治さんをオール野党で支援していただいた。中村喜四郎さんが『共産党をオール野党で担ぐ選挙ができ、そこに野党党首が皆応援に来た。自民党にとって一番の脅威になると思う』と言ってくれた」
次の半歩は何か?
「国会での野党共闘、選挙共闘を積み重ねる。例えば(7月5日投開票の)東京都知事選。野党共闘で戦うのは党首間で合意している。(不戦敗は)絶対にしない。大事な戦いだ。これできちんとした共闘をやって成果を得られれば、半歩どころか情勢が急変する。勝てば安倍政権も終わる」
安倍政権の命運は「桜を見る会」の追及とも関連してくる。
「首相答弁は破綻状態だ。最大論点は安倍氏が『桜を見る会』を私物化して国民の税金で買収していた疑惑だ。安倍事務所はただ推薦しただけで最後は内閣府・内閣官房で取りまとめたと抗弁するが、わが党の宮本徹衆院議員が明らかにしたように政府から正式に招待状が届く前に安倍事務所から案内が来ていた。公職選挙法違反の疑惑はいよいよ否定できないところまで来ている」
「安倍首相は、噓(うそ)をつき続ければ、そのうちに国民も噓に慣れ、最後はうんざりして諦めるだろう、とモラル崩壊の極致のようなことをやっている。『桜疑惑をいつまでやっているんだ』という攻撃もあるが、ここで決して噓に慣れてはいけないし、諦めてもいけない。目先を変えさせず、事実を突き続ける。噓を平気でつく人が権力のトップにいて、その噓に合わせて官僚が忖度(そんたく)して噓をつく。こんなことを許していたら日本の民主主義は土台から腐る。材料はまだまだある。最後まで追及し、首相をやめてもらうつもりだ」
安倍政権の寿命は?
「政権としては末期だと思う。疑惑を抱えているだけではない。内政・外交も行き詰まっている。対米、対ロ、対中、3方面の覇権主義にぺこぺこ外交だ。トランプ大統領の言いなりに中東まで自衛艦を出す。プーチン大統領に対しては4島返還さえ放棄して2島で結構だと一方的譲歩、それもうまくいかない。中国の習近平主席に対しては、国賓招待先にありきで、尖閣問題でも香港問題でも言うべきことを言わない」
今年は安保改定60年の節目だ。日米安保体制を一貫して批判してきた共産党ならではのイニシアチブは?
「在日米軍は日本防衛の軍隊なのか、というそもそも論が重要だ。在日米軍主力の海兵隊は、日本を前進基地としてベトナム戦争やアフガン、イラク戦争など海外に殴り込むための部隊だ。空母を軸とした第7艦隊もまたベトナム、アフガン、イラクに使われた。在日米軍の主たる任務は日本防衛ではなく、海外遠征にある。なぜ税金をつぎ込むのかということになる」
「野党共闘という側面から言うと、新安保法制廃止、日米地位協定の改定、辺野古新基地工事の中止では一致している。我々は日米安保条約の廃棄という抜本的な方策を持っているが、あまりに異常な対米従属を正そうという方向で野党間で一致点が確認されてきたことは重要だ。イージス・アショアのような武器爆買い反対でも一致すると思う」
格差は資本主義下で解決できるのか
立憲と国民の統合問題。結果不調だった。
「他党のことにコメントはしない。この問題がどうなろうと協力していくという方針には変わりない」
小沢一郎氏とは?
「連絡を取り合っている。協力していく」
中村喜四郎氏も野党共闘に熱心だ。
「中村さんと初めてお会いしたときの話が印象的だった。安倍政治は保守の立場から見てもひどすぎる、何としても終わらせなければいけない、とのことだった。彼は私心なく今の状況を憂え、変えたいと考えている。私も信頼している」
自民党竹下派にいた二人が両脇から野党共闘を支えている。不思議な構図だ。
「いいじゃないですか。それくらい自民党がおかしくなっているということだ。私はどちらともお付き合いさせてもらっている」
今、一番言いたいことは?
「世界の大局を見ると、貧富の格差、気候変動、この二つの大問題が果たして資本主義体制下で解決できるのか大きな疑問が突き付けられている。米国の世論調査会社が社会主義と資本主義のどちらがいいかという調査を行っているが、最近は拮抗(きっこう)している。特に若者や女性の中では社会主義志向がメジャーになりつつある。社会主義が新しい形で復権しつつある」
くしくも最後は前号の斎藤幸平氏の論と近づくことになった。人類を存続の瀬戸際まで追い込んでいる気候危機は、資本主義という枠組みをもってしては回避不能だ、との認識である。この問題については、さらなる深化のために斎藤氏と田原総一朗氏による討論を近日中に誌面化する予定である。ご期待願いたい。
ところで志位氏の目下最大の懸案は、都知事候補のタマ探しであるようだ。五輪が終わるまでは解散総選挙がないということになれば、最大の政治決戦は都知事選である。志位氏の野党共闘束ね役としての真価が、また問われる場面になる。
共産党の志位和夫委員長=国会内で2020年(令和2年)1月6日午後3時1分、川田雅浩撮影
しい・かずお
1954年生まれ。衆院議員。日本共産党委員長。政治状況を見極めて党の主張を柔軟化し、野党共闘の中心人物となる
倉重篤郎・本紙専門編集委員
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員