共和党上院議員35人がトランプ弾劾に賛成か
情報機関職員が内部告発、ホワイトハウスの隠蔽工作も明らかに
2019.9.30(月)
高濱 賛
アメリカ 政治
ニューヨークで行われた米ウクライナ首脳会談。左がウクライナのゼレンスキー大統領
ウクライナ大統領をマフィアの手口で脅す
「ウクライナゲート」疑惑が炸裂した。
爆弾を投げつけたのは、トランプ政権の情報機関職員。米議会にお恐れながらと「申し立て書」を提出したのだ。
このホイッスルブローワー(内部告発者)は「明智光秀」か、それとも正義の愛国者か――。
申し立てを一言で表現すれば、「2020年米大統領選に向けてドナルド・トランプ大統領が外国を巻き込んだ『悪だくみ』を企てていた」ということになる。
米メディアは一斉に飛びついた。それを「ウクライナゲート」と名づけた。「爆弾」の中身はこうだ。
「ドナルド・トランプ米大統領が7月24、25の両日、電話でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にジョー・バイデン民主党大統領候補(前副大統領)に関する調査を要求していた」
「さらにロシアの軍事侵入に備えて米国からの武器支援が欲しいウクライナに『俺の言うことを聞けば支援してやる』とまで言っていた」
民主党が直ちに動き出したのは言うまでもない。今度こそトランプ大統領を弾劾に追い込める決定的な材料が出てきたからだ。
トランプ弾劾をこれまで虎視眈々と狙ってきたアダム・シフ下院情報委員会委員長は、「まるでマフィアの親分のような言い草だ」と吐き捨ているように言っている。
ハンター・バイデン氏の「汚職容疑」…
ハンター・バイデン氏の「汚職容疑」
トランプ氏がなぜ、バイデン氏に関する調査をゼレンスキー氏に要求したのか。
すでに旧聞に属するが、バイデン氏の息子ハンター氏(49)が役員をしていたウクライナの大手天然ガス会社「ブリスマ」に汚職容疑がかけられ、同国の検察当局が捜査していた。
当時副大統領だったジョー・バイデン氏は、同国の検察官が汚職収賄まみれなことを知り、解任を要求。
つまりハンター氏に容疑が及ばないようにウクライナ検察当局の捜査を妨害したというわけだ。
米国はウクライナにとってはロシア対策では不可欠な後ろ盾。それだけにトランプ氏だけでなく米要人は、こうした内政干渉的なこともできた。
ウクライナの新大統領は外交のガの字も知らない俳優出身。一般大衆の人気だけで当選したポピュリストだ。
トランプ氏は政敵を貶めるためにはありとあらゆる手段を使う。同氏がバイデン氏に関する「醜聞」を見逃すわけがない。
大統領になったばかりのゼレンスキー氏は、凍結されている米国からの軍事支援欲しさにトランプ氏の要求を一も二にもなく承諾した。
付け加えれば、目下のところこのバイデン氏を巡る「伝聞」を裏づける証拠は一切出て来ていない。
…
政府高官300人が弾劾を支持
トランプ大統領の行為のどこが弾劾に値する犯罪なのか。
米司法次官補(国家安全保障担当)だったディビッド・クリス氏は法律専門サイトにこう書いている。
「米外交にとって伝統的なツールは『飴とムチ』。国益を追求するために不可欠なツール(道具)だ」
「ところがトランプ大統領はそれを国益のために使うのではなく、自分のため、政治目的のために使ったのだ」
「国家が持つマシーナリー(権限)を自分の利益や政治目的のために使う行為は国家権力の乱用以外の何物でもない」
(https://www.lawfareblog.com/how-understand-whistleblower-complaint)
ブッシュ(子)、オバマ両政権で外交、国防、諜報活動に携わってきた政府高官300人が27日、共同声明を発表した。
その声明で元政府高官たちはこう宣言している。
「トランプ大統領の行為は著しく国益に反するものだ。我々は議会の弾劾手続き開始を支持する」
言うまでもないが、米議会が現職大統領を弾劾できる権限は、憲法修正20条に明記されている。
「国家権力の乱用」が立証されれば、トランプ弾劾の要件は十分に満たされる。
ペロシ下院議長の背中を押した 「ホィッス…
ペロシ下院議長の背中を押した
「ホィッスルブロワー」
米下院の6つの委員会はこれまで「ロシアゲート」疑惑や「司法妨害」(Obstruction of Justice=正義追及に対する妨害行為)を巡って解明を進めてきた。
議会だけではない。司法省も渋々特別検察官ポストを新設して2年余にわたり捜査を続けた。その結果、モラー報告を作成、公表した。
だが、結果は「大統領の厚い壁」に阻まれてしまった。
民主党が今一歩弾劾手続きに踏み切れなかったのは、過半数を占める下院では可決できても、共和党が多数派の上院*1では可決できないという政治状況があるからだ。
*1=上院の現勢力は共和党53、民主党45(無所属2を加えて47)。弾劾に必要な票は全議席の3分の2、67議席。
ところが今回、「ウクライナゲート」が急浮上するや、事実上の民主党の党首、ナンシー・ペロシ下院議長が弾劾手続きに入るための徹底調査を正式に決定した。
その理由は2つあった。
一つは、前述のクリス元司法次官補が指摘している「国家権力の乱用」容疑。
もう一つは米情報機関職員が内部告発者として米議会に「申し立て書」を提出したことだ。
米主要メディアの議会担当記者は筆者にこう説明する。
共和党議員たちはいつまで 「おんぼろ神輿…
「(リチャード・)ニクソン大統領のウォーターゲート疑惑以後、米議会は『大統領の犯罪』を監視するために2つの法的措置をとった」
「一つは上下両院で大統領の外交政策を徹底的にチェックする情報委員会*2を格上げしたことだ」
*2=上院情報委員会は1976年、下院情報委員会は77年に通常の委員会と同格の常任委員会に格上げしている。
「もう一つは政権内部に不正を暴く告発者が出てくることを奨励して立法化した『内部告発者保護法』(Wistleblower Protection Act)だ」
この法律の推進者の一人がペロシ氏だった。それだけに今回の「申し立て書」には感慨深いものがあったのだろう。
「政権内部からの不正告発者の登場がペロシ議長の背中を押した」(ペロシ氏周辺筋)のだ。
共和党議員たちはいつまで
「おんぼろ神輿」を担ぐのか
だが、現状では上院で3分の2を取るのは難しい。
かといって上院の共和党議員全員が100%トランプ支持ではない。与党共和党が選んだ大統領だから自分たちも恩恵を被っている。だから文句を言わないだけだ。
だが、トランプ大統領の「国家権力の乱用」がここまであからさまに暴露されるとなると、共和党内にも動揺が走って不思議はない。
「ウクライナゲート」発覚直後、かって共和党大統領候補だったミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出)は真っ先に「非常に当惑している」(Deeply troubling)と発言。
また共和党の良識派とされるベン・サッス上院議員(ネブラスカ州選出)もロムニー氏に同調している。
共和党議員たちがトランプ大統領という「おんぼろ神輿」をいつまで担いでいられるか。彼らもまた選挙という「洗礼」を受ける政治家だ。
百歩譲って、トランプ大統領があくまでウクライナ大統領との電話でバイデン氏の息子ハンター氏の汚職容疑の徹底捜査を要求していなかったという証拠がなかったとしよう。
内部告発者が暴露した 「もう一つの犯罪は…
内部告発者が暴露した
「もう一つの犯罪は隠蔽工作」
だが、内部告発者の議会に提出した「申し立て書」にはもう一つ重要な「嫌疑」が記されている。
「ホワイトハウス高官たちはことの重大性に気づき、やり取りをすべて記録しているコンピューター・システムから電話でのやりとりの一部を削除、あるいは極秘システムに移動させた」
「隠蔽工作」である。
かってニクソン氏がウォーターゲート事件では民主党全国本部への侵入だけでなく、事件が発覚した後、それを隠蔽しようとしたことが下院での弾劾決議案の重要なポイントになった。
今回もトランプ氏の「隠蔽工作」がクローブアップされることは間違いなさそうだ。
共和党の選挙戦略に長年携わってきた政治コンサルタント、マイク・マーフィ氏はテレビ・インタビューでこう言い切っている。
「上院での弾劾決議案採決が(記名投票ではなく)無記名で行われたら少なくとも30人の共和党議員は同決議に賛成するだろう」
「特に再選が危ぶまれているコロラド、メーン、アリゾナ各州選出の現職議員が寝返る可能性大だ」
さらに大胆な予想をする共和党員も出てきた。ジェフ・フレイク前上院議員(共和党、コネチカット州選出)だ。
「共和党の現職上院議員から聞いた話だが、無記名なら少なくとも35人の共和党上院議員が弾劾決議案に賛成すると言っていた」
(https://www.foxnews.com/media/jeff-flake-35-gop-senators-impeach-trump.amp)
ベット・サイトに「弾劾買い」殺到…
ベット・サイトに「弾劾買い」殺到
米各種メディアが常に注目している政局の先と先を占い、カネを賭け合うサイト『プリデクテット』(Predict it)がある。
ニュージーランド・ウエリントンにあるビクトリア大学が始めた世界の政治経済情勢を予測して参加者間でベットし合う(カネを賭け合う)取引サイトだ。
ワシントンに拠点を置き、ハーバードやエールなど米著名大学もパートナーになっている。
同サイトは27日現在、予測機関『ビアンコ・リサーチ』(Bianco Research)の情報を参考にした顧客の動向を次のように報告している。
「2019年内にトランプ大統領が弾劾される可能性は42%、弾劾されない可能性は14%」
「任期中(再選された後も含め)トランプ大統領が弾劾される可能性は64%、弾劾されない可能性は29%」
トランプ大統領は再度ツィッターで反撃している。
「(ウクライナゲートについて)完全な魔女狩りだ」「オレは何もやましいことはしていない」「内部告発したヤツは名を名乗れ」
ホワイトハウス担当の主要紙の記者によれば、今度ばかりはホワイトハウスで働く高官たちも浮足だっているという。
大統領の指示でウクライナとの交渉役を務めていたカート・ボルカー・ウクライナ問題特別代表は27日、辞表を提出した。
弾劾手続きを正式に決めた民主党は、情報委員会をはじめ6つの委員会が次々と高官や元高官たちを召喚する計画のようだ。
あるいは委員会を一本化して「ウクライナゲート聴聞会」を開くのか。ニクソン氏を弾劾・辞任に追い詰めた「ウォーターゲート聴聞会」の再来のような様相になってきた。
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文在寅氏、NYで米大統領に土下座外交
日韓関係ばかりか、米韓関係にも暗雲が立ち込めるなか、韓国の文在寅大統領は、1159キロの長旅を厭わず、ニューヨークに飛び、ドナルド・トランプ大統領と会談した。6か月ぶりの米韓首脳会談は1時間余にわたって行われた。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57772
伏兵に嵌ったトランプ大統領弾劾へ
ペロシ下院議長もついに動くが、実現へのハードルなお高し
2019.9.30(月)
堀田 佳男
アメリカ 政治
今年9月25日、国連総会に合わせて行われた米ウクライナ首脳会談(提供:Shealah Craighead/White House/ZUMA Press/アフロ)
ロシア疑惑を乗り越えたドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)は、まさかウクライナ疑惑で弾劾調査が始まるとは思っていなかっただろう。
弾劾という点では、トランプの周囲にいる複数の関係者が起訴されたロシア疑惑の方が危機感は強かったかもしれないが、ロバート・モラー特別検察官は今春「シロ判定」を下した。
今回、ナンシー・ペロシ下院議長はウクライナ疑惑で、連邦下院の6つの委員会にトランプの弾劾調査を命じた。だが同議長はトランプの弾劾には反対だった人物である。
今年3月の「ワシントンポスト・マガジン」とのインタビューでこう述べている。
「弾劾は国家を分断させます。やむにやまれぬ証拠があったり、圧倒的と言えるような超党派の力で弾劾を推し進められない限り、すべきではないと考えます」
なぜ態度を変えたのか。
ウクライナ疑惑はロシア疑惑よりも違法性が高く、超党派でトランプを弾劾できると判断したためか。
当欄では今後の弾劾の具体的な手続きと、トランプが弾劾される可能性を分かりやすく記したい。
米国史上、連邦議会が大統領の弾劾手続きに入ったのはトランプで4人目である(アンドリュー・ジョンソン、リチャード・ニクソン、ビル・クリントン、ドナルド・トランプ)。
だが誰一人として罷免された大統領はいない…
だが誰一人として罷免された大統領はいない。ニクソン大統領は途中で辞任したし、ジョンソン大統領は1票差で罷免を逃れている。
弾劾はまず連邦下院議員がトランプ弾劾の決議案を提出するところから始まる。
トランプ政権誕生後、すでにカリフォルアに州のブラッド・シャーマン議員やテキサス州のアル・グリーン議員などが、トランプ弾劾の決議案を出したが頓挫している。
というのも前述したように、ペロシ議長が弾劾に前向きでなかったため、下院の民主党議員の間で統一した政治勢力が生まれなかったのだ。
しかし今回、同議長は考えを改めた。
というのもトランプの内部告発者が、トランプとウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話内容を公開し、その内容が「違法行為」であると判断したことが大きい。
トランプがゼレンスキー大統領に対し、民主党ジョー・バイデン氏の調査要請をすることは大統領としての「職権の乱用」にあたるとした。
トランプが民主党レースで首位を走っているバイデン氏を蹴落とすことができれば何でもするとの思惑だったことは、容易に想像できる。
筆者も政権側が公表した5ページの電話内容を読んだが、実際はさらに深度のある内容が話されており、ペロシ議長は民主党の有力議員と会議を開いて弾劾を決意したわけだ。
その場で、「鉄は熱いうちに打て」と述べた…
その場で、「鉄は熱いうちに打て」と述べたという。年内に結果を出したい意向も漏らしている。
これまでの弾劾決議案が頓挫したのは、ペロシ議員が躊躇したからにほかならない。下院トップの人間が動かない限り、全体の流れは一本化されない。
しかし今回、同議員が本気モードに入ったことで、下院では弾劾決議案が可決される可能性が高くなってきた。
実際の数字を眺めたい。
連邦下院の定数は435。多数党は民主党で現在235人。共和党議員は198人。無所属が1人で欠員も1。
いわゆる安定多数が218なので、ペロシ議員が音頭をとれば、弾劾の決議案を通すことは難しいことではない。今年中に実現できるかもしれない。
下院を通過した決議案は連邦上院に移される。上院では裁判の形をとる。
最高裁判事が上院本会議場に来て、上院議員は陪審員の役回りとなる。下院では過半数で決議案を通過できたが、上院では定員100人の3分2以上の票が必要となる。
現在上院では共和党が多数議席を占めており53。民主党が45。2人が民主党寄りの無党派だ。
20人ほどの共和党議員がトランプに反対票…
20人ほどの共和党議員がトランプに反対票を投じない限り3分の2には至らない。ここに弾劾の難しさがある。
クリントン大統領の弾劾裁判では1999年、セクハラ問題での偽証罪と司法妨害罪の2点で争われた。
偽証罪では上院の民主党議員55人すべてが「無罪」の判断を下し、司法妨害罪では50対50で割れたが、3分の2である67票には届かず、クリントン氏は無罪となった。
ここで弾劾の法律的解釈を考察したい。弾劾は合衆国憲法第2条第2節に次のように記されている。
「大統領は反逆罪、収賄罪、その他の重罪または軽罪によって弾劾され、有罪の判決を受けた時は罷免される」
憲法上は軽罪によっても弾劾される可能性があるのだ。
クリントン大統領の偽証罪と司法妨害罪は、重罪と軽罪の両方に相当するとして裁かれたが、党派的な対立が解決せず、罷免には至らなかった。
トランプの場合も同様に、上院で弾劾裁判が行われても、現時点では罷免される可能性は低いと言わざるをえない。ペロシ議員の言う「圧倒的といえるような超党派の力」をどう生み出すのか。
共和党の上院議員が反トランプに回る時というのは、全米レベルでトランプ弾劾の機運が高まってトランプ支持では自身の選挙も危ない状況になるか、大統領選でトランプが負けることがほぼ確実視される状況でないかぎり、難しいかもしれない。
連邦下院アダム・シフ情報特別委員会委員長…
連邦下院アダム・シフ情報特別委員会委員長(民主党)は、トランプがゼレンスキー大統領に迫った内容を確認した後、米記者たちに述べた。
「私や同僚が思っていた以上に罪深い内容で、外国首脳に対してマフィアが使うような強圧的な態度をとった」
当件については今後、新しい情報が公開され、トランプを追い込む流れが強まるだろうが、政権側もトランプを擁護するために司法妨害なども含めてあらゆる手立てを打ってくるはずだ。
トランプの行状を見る限り、弾劾されるべき大統領であると考えるが、実際にはハードルは予想以上に高いのが現実である。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57764?page=5