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「消費税」の嘘 弱い者いじめの税金 不都合な真実を暴く=ジャーナリスト・斎藤貴男
https://mainichi.jp/sunday/articles/20190911/org/00m/020/001000d
019年9月13日 05時00分(最終更新 9月13日 05時00分) サンデー毎日
「社会保障の充実のために、消費者が公平に負担する消費税を増税する」。政府やマスコミが喧伝するこのスローガンはすべて嘘だ!―こう喝破する硬骨のジャーナリストが、弱者のわずかな富を強者に移転する消費税の本質と、社会保障に背を向けて自己責任論に収斂する政府を徹底批判。
もう8年ほども前になる。私はNHKの土曜朝の解説番組「週刊ニュース深読み」に出演した。テーマは、当時の民主党政権で浮上していた「消費税増税」について。番組は局アナによる解説と、大蔵省(現・財務省)の出身で増税は当然とする森信(もりのぶ)茂樹・中央大学法科大学院特任教授、これに反対する私の主張を軸に進行した。と、同席していたNHK経済部の財務省詰め記者が、おもむろに消費税率を国別に比較したフリップを持ち出した。
スウェーデンの25%を筆頭に、仏、英、独などヨーロッパ諸国が軒並み20%前後、日本は5%(当時)という、ありがちな棒グラフ。ちなみに諸外国では同じ税制を「付加価値税」と呼ぶ。記者が「ほら、日本にはまだまだ増税できる余地がある」と、胸を張った。私は思わず、
「どうしてアメリカが入ってないんですか?」
記者はそそくさとフリップを引っ込めた。司会者も話題を切り替える。不自然きわまりない展開が、さしたる注目を集めもしなかったのが残念だ。
実は米国には付加価値税が存在しない。少なからぬ州や市にある「小売売上税」は、日本人観光客には似ても見えるが、国税ではなく地方税で、しかも小売り段階でのみ課せられる仕組みが決定的に異なる。共和党の大統領が付加価値税の導入を求めた時期も幾度かあったが、徴税当局が「不公平すぎる」として通さず、現在に至っている。
日本の政府やマスコミが、こと税制に関する限り、米国の“ベ”の字も出したがらない所以(ゆえん)だ。何でもかんでも新自由主義で弱肉強食の米国に同化させてきた日本が、こと消費税率についてだけはスウェーデンを見習おうというのは、一体どういうわけ?
と、私はそう言いたかったのだ(言った気もするが)。実際、とりわけ小泉構造改革以降のこの国では、「北欧のような福祉国家に」なんて口にしようものなら即、“左巻き”のレッテルを貼られるのがオチだった。私のテレビ出演は、それが最後になった。
実際は大企業や富裕層の減税の財源
「2000万円問題」。金融審議会の市場ワーキンググループがさる6月、金融サービス業者向けに、“下々のここらへんの不安に付け込んだら儲(もう)かりまっせ”の趣旨で報告書をまとめた。それにより、北欧とは比ぶべくもない日本の社会保障の貧しさが、公にされた。
第一報を受けて、すぐに連想した記述がある。今を去ること30年余の1988年、ある不動産会社が出版した宣伝本の一節だ。
―日本銀行の試算によれば、現役を退いた高齢夫妻の老後は公的年金だけでは賄えず、平均でざっと1500万円の貯蓄が必要です。だから皆さん、当社のワンルームマンションに投資して、安心な老後に備えましょう―。
バブル経済真っ盛りの時代。週刊誌の記者だった私は、その本を地上げ絡みのネタ元にしていた同社幹部にいただき、思うところあって、大切に保管してきた。
消費税は翌89年、“高齢化社会への対応”を謳(うた)って導入された。その後も社会保障の充実やら安定化やらが掲げられては、3%から5%、8%へと増税が繰り返され、この10月には10%の大台突入が予定されている。
何なのだ、これは。老後の不安は解消されたどころか、不足金額の平均が500万円も増えた。消費税など糞(くそ)の役にも立っていない証拠だと言いたいが、ちょっと違う。こんな数字をご存じだろうか。
財務省の資料によれば、88年度における法人税の基本税率は42%だった。が、翌年に消費税が導入されてからは減税に次ぐ減税で、現在は23・2%にまで引き下げられている。
やはり財務省のデータ「一般会計税収の推移」もわかりやすい。税収全体に占める税目別の割合を比較すると、消費税と法人税がほぼ反比例している様子がわかる。この間には所得税の累進性もずいぶん緩んだ。99年からの8年間は累進の上限が年間所得1800万円超で、少し大きな会社の部長さんも、大財閥のオーナーも、同じ37%の所得税率だった。
だから、消費税には意味がなかったということではない。ただ、一般に刷り込まれた宣伝と、大企業や富裕層の減税の財源にするという本当の目的とが、まるで正反対だった。要は官民一体で吐(つ)きまくられた大ウソに、おめでたい日本国民が騙(だま)されまくってきた、というだけの話なのである。
問題は使い道ばかりではない。消費税はそれ自体が、弱者のわずかな富を、強者に丸ごと移転する特質をたたえた税制なのだ。
多くの人々は、これを消費者が負担する税だと思い込まされている。だが実態は、“そうなる部分もあるし、ならない場合もある”という複雑怪奇、ヌエのようなシロモノである。
関連法規によれば、消費税とは、(1)原則すべての商品・サービスのあらゆる流通段階で課せられ、(2)年商1000万円超の事業者を納税義務者とする税である。つまり小売り段階だけでなく、商取引のことごとく(医療や福祉サービス等の例外はある)で発生、ただし、消費者には納税義務がない。
もっとも、(2)のタテマエは、納税義務のある事業者が商品やサービスの販売価格に消費税分を上乗せ(転嫁)し、その金額を顧客から預かって、しかるべき計算を施して税務署に納める、というストーリーだ。消費税増税に賛成の人も反対の人も、多くはこのシナリオが現実にそのまま当てはまると信じて疑っていないようである。
電力や水道、鉄道のような公共料金については、その理解で構わない。政府や自治体がコスト+利潤+消費税を計算して決めるものだ。では公共料金以外の、市場原理に委ねられた商品やサービスはどうか。
能力に応じて負担する原則に反する
消費税が導入された当時はバブルで売り手市場だったから、消費者を含む買い手が負担させられるのが常だった。しかし現代は、いや、この国はもう30年近くもの間、ずっとデフレ経済の下にある。
そんな中で、隣に家電量販店を建てられた電器店は、下請けの町工場は、利益を出した上に消費税を預かる値決めなどできっこない。彼ら弱い立場の事業者は、だからといって納税義務を免れることもなく、滞納を続ければ差し押さえを食らい、破滅させられてしまう。
だから借金してでも消費税を納めれば、帳簿上は“転嫁できた”形になる。訳知り顔はこれを称して、「そら見ろ、転嫁できているじゃないか」と居丈高になるのだが、それは利益を削り、自腹を切っての納税を強いられた結果でしかない。私は商売というものの実質を語っている。
もちろん、あからさまな下請けいじめは2021年3月末までの時限立法「消費税転嫁対策特別措置法」に引っかかる。とはいえ公正取引委員会といえども日本中の全取引に目を光らせることは不可能だ。取り締まりが過ぎれば自由競争の否定にもなりかねない。
第一、強い立場の側は直ちに違法になるような言い方をしない。相手に言わせるよう仕向ける。「○○君が『お金をもらってほしい』というから受け取りました」などというのは、同級生を自殺に追いやった生徒が、裁判などでしばしば口にするセリフではないか。
子どものいじめと同じでないのは、加害者が必ずしも悪党とは限らないことだ。消費税の負担を誰でもいいから押し付けなければ自分が潰れるという恐怖心が、まっとうな人間に弱い者いじめをさせてしまうというメカニズムに消費税は満ちており、世間の多くはこの構造に無知である。
私が消費税に関心を持ったきっかけも、この“転嫁”の問題だった。ある同業者が死ぬほど働いて年収1000万円を超え、消費税の納税義務者になった2000年代半ば。
その男は、印税に消費税を乗せてくれない出版社が珍しくないのに気がついたという。物書きのプロだと本の価格に部数を掛けた数字の10%が印税、というのが出版界の慣例なのに、印税率を事前の相談もなく勝手に下げられたことになる。
「きちんと乗せてくださいよ」と連絡すると、「ウチはそういうの、やってないから」と。どうして裏金を寄越さないのか、と脅してでもいるかのような返事をされたそうだ。
彼は仕事の電話が怖くなった。初めての編集者に、たとえば「ウチの雑誌にこれこれのテーマで400字詰め原稿用紙20枚書いてください。原稿料は1枚5000円、合計10万円です」と頼まれると、「面白そうですね。あ、消費税が5%ですから、それに5000円乗せてくださいよ」と念を押す。
でも、税金のことなど知らない編集者は怪訝(けげん)そうな声。やむなく説明を始めると、電話の雰囲気が一変したとか。「なんだ、こいつは。いつも偉そうなことばかり書いてやがるくせに、1枚当たり250円余計にくれだとよ。ゼニに卑しい野郎だなあ」と思ってるらしい様子がモロに伝わってきて……と、あの頃の彼はよく涙ぐんでいた。
「もういいや、今回は俺が泣くよ!」
で、結局はそうなるのだという。1年は長く、したがって“泣く”ケースは数十回にも及んでいく。この話を聞かされるたびに、私は思った。あーあ、これが松本清張や司馬遼太郎だったら、消費税の5%や50%、黙っていても乗せてくれるのだろうに、と。
すべては力関係。消費税とは常に弱い立場の側がより多くの負担を強いられる税である。憲法14条「法の下の平等」に呼応した「応能負担(能力に応じて負担する)原則」という言葉があるが、消費税は「応不能負担」の税とでも言うべきか。毎年新たに発生する滞納額全体の約6割を消費税が占めるのも、要は無理があり過ぎるせいだ。
社会的弱者の負担が大きな税を社会保障の財源にしようとすること自体が、そもそも転倒しているのだ。スウェーデンだってそうじゃないかと言われそうだが、ヨーロッパはローマ帝国の時代から間接税中心の社会である。19世紀プロイセンの労働運動指導者フェルディナント・ラッサールが『間接税と労働者階級』(大内力の訳で岩波文庫版がある)を著しているように、間接税によって階級社会が固定化されている面もある。かの地の福祉国家とは、その前提の上に、長い時間をかけて築き上げられた姿なのだ。今、日本で消費税増税を行うことは、この社会の格差と階級化を促進することにほかならない。
目に余る社会保障の削減・縮小
ついでに述べておくと、消費税率が8%に引き上げられる4カ月前の2013年12月に可決・成立した「社会保障制度改革プログラム法」は、この領域における政府の役割を〈政府は、住民相互の助け合いの重要性を認識し、自助・自立のための環境整備等の推進を図るものとする〉と規定している。徹底的な自己責任論であり、政府は努力義務しか持たないと定めている。8%への増税後も年金の減額や支給の先送り、生活保護費の減額、要介護認定「3」以上でないと特別養護老人ホームに入居できないなど、社会保障の削減・縮小は目に余ったが、安倍晋三政権は今月下旬にもさらなる負担増を打ち出すための有識者会議を設置する方針だ。
何が“社会保障の充実のための増税”であるものか。消費税に関わる政府やマスコミのコマーシャルは、何もかもがウソなのだ。例の2000万円問題も、いずれ、よりいっそうの大増税の口実にされることだろう。
ポイント還元や軽減税率など、増税に伴う景気対策と称されている諸政策にも、問題は山ほどある。もともと歪(ゆが)んだ税制の上に建て増しを重ねれば、歪みはさらに広がり、やがてひしゃげて倒壊する。それが明日の日本社会だ。何よりもまず問われなければならないのは、この歪んだ税制の、そもそもの本質なのだ。
なお、マスコミが多用する「消費増税」という表現は誤っている。すべての商取引で立場の弱い者が負担させられるという本質を覆い隠し、消費者だけが公平に負担しているようなイメージを植え付ける「消費税」というネーミング詐欺の機能を増幅するからだ。「消費税増税」が正しい。本当は「ミカジメ税増税」と言いたいところだ。国家が弱者からむしり取る税金だからである。
(ジャーナリスト・斎藤貴男)
さいとう・たかお
1958年生まれ。ジャーナリスト。監視、格差、強権支配をルポルタージュによって批判してきた。『機会不平等』『戦争経済大国』『決定版 消費税のカラクリ』『ちゃんとわかる消費税』など著書多数
#消費税増税 は本当は「ミカジメ税増税」と言いたいところだ。国家が弱者からむしり取る税金だからである。ジャーナリスト #斎藤貴男 氏が糾弾する「#消費税」の噓とはーー。詳しくは発売中の #サンデー毎日 9月22日号を。https://t.co/hpbgTCg4Iz
— サンデー毎日編集部 (@tsunday3) 2019年9月15日
いい記事ですね。⇒「消費税」の嘘 弱い者いじめの税金 不都合な真実を暴く=ジャーナリスト・斎藤貴男 https://t.co/yI3vrTbyF8
— 金子洋一・前参議院議員(神奈川県選出) (@Y_Kaneko) 2019年9月13日