蓋を開けてみれば皆悪党 日産西川社長は逮捕されないのか
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2019/09/07 日刊ゲンダイ 文字起こし
あらゆる悪事をゴーンになすりつけ(C)日刊ゲンダイ
やはり同じ穴のムジナだったのか。ゴーン事件で世界をア然とさせた日産自動車が再び大揺れしている。
前会長のカルロス・ゴーン被告(金融商品取引法違反などの罪で起訴)を切り捨てた西川広人社長らが株価に連動した報酬制度を使い、報酬を不正受領していた事実が明るみに出たのだ。西川氏は「運用は事務局に一任していた。運用の仕方に問題があった」「適切に処理されていたと認識していた」などとトボケ、意図的な不正を否定。「しかるべき金額は会社に返納する」としているが、その説明に説得力はない。この影響で5日に予定されていた3年ぶりの社債発行は延期。西川氏への辞任圧力が強まるのは当然だが、最大の疑問は西川氏は逮捕されないのか、である。
不正報酬の概要はこうだ。西川氏を含む複数の役員経験者が株価に連動する報酬を金銭で受け取れる権利「ストック・アプリシエーション権(SAR)」の行使日をずらし、カサ上げされた不正な金額を受領。西川氏のケースでは、2013年5月14日から同22日にずらしたことで株価が1割ほど上昇。約4700万円を上乗せして受け取った。日産は4日の監査委員会に社内調査の結果を報告し、西川氏らの不正の疑いを確認。9日の取締役会で報告され、社内規定への適合性や処分が判断される見通しだという。
ケリー氏が告発「お金が必要」の打診
不正発覚の端緒となったのが、ゴーン氏とともに逮捕・起訴された前代表取締役のグレッグ・ケリー氏だ。月刊「文芸春秋」(7月号)に掲載された「西川廣人さんに日産社長の資格はない」と題したインタビュー記事で、13年春ごろに西川氏が「お金が必要なので、なるべく早く報酬を引き上げてほしい」とケリー氏に求め、日産に住宅の代理購入を打診したと指摘。不正報酬の流れについて、こう告発していた。
〈実際に、日産が西川さんのために不動産を購入することはありませんでした。それは西川さんがその頃、SARの行使を一週間ずらすことで、とても大きな額の現金を手にしたことも関係があったと思います〉
〈彼は既に「行使日」を決めていました。ところが行使日が過ぎた後、株価が上昇したため、行使日を一週間後にずらせば、相当な儲けが出ると考えたのです。そして私の知る限り日産史上初めて、行使日を後ろにずらしました。SARによって利益を得た後、「会社に不動産を買ってもらいたい」という提案は取り下げられました〉
〈行使日を一週間ずらすことによって約四千七百万円が上積みされ、トータルで約一億五千万円の利益があったと記憶しています〉
西川氏は現在、渋谷区内の約200平方メートルのマンションで暮らしている。登記簿によると、購入は2013年7月だ。
経済ジャーナリストの井上久男氏は言う。
「日産の元役員によると、日産ではSARの権利行使には2段階のステップを踏む。担当部署にメールで申請し、その後、改めて自筆署名入りで申請する仕組みだといいます。西川社長は〈意図的なことはしていない〉と主張していますが、そんな言い訳は通じないでしょう。日産社内でも西川社長に対する反発は広がっている。ひと言で言えばズルい、に尽きる。恥ずかしい、もういい加減にしてほしい、西川社長は潔く辞めてほしいという声が上がっています」
日の丸を背負って正義の味方を気取りながら、その実、日産を食い物にしていたのだから突き上げは必然である。
「西川社長の方が悪質」と激怒(C)日刊ゲンダイ
留任で調整中も、特別背任罪に問われる可能性 |
「1人に権限が集中しすぎた」「権力の座に長くいたことの弊害が見えていた」――。西川氏は口を極めてゴーン氏を罵ってきた。「残念という言葉を超えて、強い憤りと落胆を覚えている」とまで言ってのけていたのが、蓋を開けりゃ全員悪党。不正報酬でそれが浮き彫りである。にもかかわらず、西川氏はこの期に及んでも「カルロス・ゴーン被告体制時代の仕組みを変えていく」とあらゆる悪事をゴーン氏になすりつける往生際の悪さ。カネを返せばチャラになると踏んでいるのか。最悪でも内規違反による処分で収束できるとタカをくくっているのか。西川氏本人に不正の意思がなく、違法性もないことから留任方向で調整中――との報道もある。
元特捜検事で弁護士の郷原信郎氏は言う。
「西川社長をめぐる不正報酬はリッパな犯罪です。会社法違反、金商法違反との指摘は当然で、特別背任罪に問われる可能性もある。日産から多額のカネを不当に受け取っていながら、なぜ法的に問題がないと言い切れるのか。検察から言質でも取っていない限り、軽々には口にできないはずです。検察も西川社長が延命しないと困る事情でもあるのでしょうか。だとしたら、正義もへったくれもない。ゴーン氏を追放したクーデターの正当性に重大な疑問が生じたのは言うまでもありません。取締役会に不正が報告された時点で、西川社長が辞任するのは当然です」
まるで開発途上国ではないか。盗人が盗人を追放するために仕組んだ前代未聞のクーデターに検察・政府も加担。揚げ句がこのテンマツである。
首に鈴をつけられないお手盛り取締役会
当面の焦点は取締役会だが、西川氏の息がかかっていると言ってもいい。
日産は6月、取締役の過半数を社外取締役が務める「指名委員会等設置会社」に移行し、指名委員会委員長に元経産審議官の豊田正和氏が就任。役員報酬を決定する報酬委員会委員長に元産業構造審議会メンバーでレーサーの井原慶子氏、監査委員会委員長に日本興業銀行出身でみずほ信託銀行元副社長の永井素夫氏が就いている。
「日産は新体制でガバナンス強化をアピールしていますが、ちゃんちゃらおかしい。メンバーを見れば、西川社長サイドのお手盛りなのは一目瞭然です。3委員会のうち2委員会のトップは経産省に近い人物。日産は経産省から天下りを受け入れていて、持ちつ持たれつの関係です。それに、旧興銀は日産の元メインバンクです。取締役は西川社長、ルノーのスナール会長、ボロレCEOを含む11人。そのうち7人を社外取締役が占めていますが、豊田氏、井原氏、永井氏が就き、取締役議長はJXTGホールディングス特別理事の木村康氏。JXTGの母体でもある旧新日鉱グループは戦前の日産コンツェルン発祥の企業です。こうした面々による取締役会が西川社長のクビに鈴をつけられるはずがありません」(井上久男氏=前出)
世界に恥をさらした日産の惨状と“国策捜査”の呆れる結末。西川氏に対する東京地検特捜部の不起訴処分をめぐり、東京都内在住の男性が6月に検察審査会に審査を申し立てた。
代理人を務める前出の郷原氏はこう言う。
「今回の一件は大詰めを迎えている審査に大きな影響を与えるとみています。そもそも、ゴーン氏やケリー氏が受け取っていない役員報酬の有価証券報告書への記載で起訴される一方、社長として有報の作成提出を実行した西川氏がシロなのは市民感覚から言ってあり得ない。不正報酬はなおさらでしょう」
ゴーン支配から西川支配にスイッチしただけの日産に自浄作用は期待できない。公正公平な司直の手でオトシマエをつけるほかないんじゃないか。