「金権・猛暑の東京五輪」をメディアが批判しない理由?
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2019/09/08/0908-07.html
サンデー毎日 2019年9月 8日号
牧太郎の青い空白い雲/732
あと1年弱になった東京五輪。気のせいか、盛り上がらない。
なぜだろう?
「チケットが高すぎるから」という意見を聞いた。
2008年北京五輪のチケットは2400円〜6万円。庶民から見れば、このぐらいが"相場"かな?と思ったが......12年ロンドン五輪で2500円〜25万9000円。16年のリオデジャネイロ五輪では1800円〜21万円。
安いチケットは、それなりに格安。高いチケットはさらに高く!というのが"傾向"だった。
で、東京五輪は?
33競技339種目。約780万枚の観戦チケットが販売される予定だが、その半数は8000円以下。「手ごろな価格」と思いがちだが、人気種目はべら棒に高い。「開会式」の一番良い場所は30万円、そして第2位は「閉会式」の22万円。競技では陸上男子100メートル決勝のある日の「陸上」で、一番いい場所は何と13万円。
ホッケーの予選(A席4000円)や、近代五種決勝(A席4000円)などA席でも比較的安いところもあるが、人気がある「競泳」と「バスケットボール(5人制)」では、一番いい場所が10万8000円。「体操」は7万2000円、「野球」と「サッカー」は6万7500円。普段、不人気な「柔道」?でも5万4000円。金メダルが期待される種目は軒並み高額だ。
庶民というか、ともかく「普通の日本人」は"特等席"には手が出ない。びっくりしたのは、お一人635万円の特別チケットである。パッケージで開会式、閉会式のほか、陸上男子100メートル決勝など、複数の種目が「一番良い場所」で観戦できる。お金持ち専用チケットである。
要するに、チケット代で339種目に格差をつけた。お客にも「格差」をつけた。
知人は「テレビで見ればいいけど、これじゃあ、お金持ちだけの五輪だよな」と嘆く。
スポーツ好きの子供たちが「我が家の格差」を実感するなんて......ちょっぴり情けない気分である。
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金権オリンピックの最大の悪は「人も、動物も、猛暑の中で競技する」ことである。
40度近い暑さの7〜8月。熱中症が続発するだろう。マラソンなどは早朝に走らせたり、コースを遮熱性舗装したりするが、選手や観客、ボランティアが次々倒れるだろう(遮熱性舗装はかえって「暑さ指数」を高くするという研究結果があるぐらいだ)。
事実、猛暑を考慮してランの距離を半分の5キロに短縮した最近の女子トライアスロンでは、フランス選手が熱中症の疑いで救急搬送された。馬術競技では、選手たちが口を揃(そろ)え「馬の命が心配だ」と嘆く。
五輪招致で「日本のこのシーズンは気候温暖でスポーツには最も適している」とアピールしたそうだが、真っ赤な嘘(うそ)?だろう。それにしても、よりによってなぜ「猛暑の季節」を選んだのか?
答えは簡単だ。アメリカの3大テレビネットワークが「秋には、アメリカンフットボールなどスポーツイベントが目白押し。オリンピックは8月にしろ!」と要求したからだ。
アメリカのため、テレビのカネ儲(もう)けのため「酷暑の五輪」になってしまった。
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あいかわらず東京五輪には「危うい情報」が絡んでいる。安倍首相の「原発事故の汚染水は港湾内で完全にブロックされている」という嘘で始まった五輪。フランスの司法当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和・前会長を贈賄容疑で捜査したり......東京五輪には「嘘」と「不正」の臭いがプンプンしている。
本来なら「不正」を監視するのがメディアだが、今回だけはなぜか「五輪の闇」を追及しない。
その理由も簡単である。大手主要新聞社、毎日、読売、朝日、日経の4社が東京オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナーに、産経がオフィシャルサポーターになっているからだろう。「1業種1社」を原則とするスポンサー契約だが、なぜかJOCは国際オリンピック委員会と協議し、複数の新聞社との契約を"特例"として認めているのだ。
だから、新聞の「批判・検証」は幾分、抑え気味になるのだ。
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ここまで書けば「フクシマの復興のための東京五輪を批判するのは非国民だ!」と言われそうだ。でも、福島の人たちは本当に喜んでいるんだろうか?
「福島でやるんじゃない。福島から聖火ランナーがスタートするだけで、誰も喜んじゃいない」という地元の声も多い。
五輪をやめろ!と言いたいぐらいだが、せめて「貧乏人でも、快適に楽しめる祭典」にしようじゃないか。