「尖閣周辺への侵入頻度が激化」というフェイクニュース 永田町の裏を読む
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/260966
2019/08/29 日刊ゲンダイ
2020年習近平国家主席の国賓訪日を控え、尖閣周辺への出漁回避指示も出ている(出港準備で漁船に氷を積み込む中国・福建省の漁師ら)/(C)共同通信社
ネット上で「尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入頻度はますますエスカレート」しているのに「日本国内ではそのことをメディアが伝えていない」のはけしからんと憤激している論者がいた。私はかねてこの問題に関心を払い、発言もしてきているので、私の知らないところで何か重大な事態が起きているのかと驚いて、すぐに調べたが、そんなことは起きていなかった。
海上保安庁のホームページのトップメニューのひとつに「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」があり、それを開くと、中国公船が尖閣周辺の接続水域を航行していることが確認された月別の隻数、および領海に侵入した月別の隻数を示すグラフがある。このうち接続水域は領海12カイリのさらに外側の12カイリで、公海であるから、「入るな」と言える筋合いはない。そこで、後者の領海侵入を見ると、今年1〜4月は月3回計12隻の侵入が繰り返され、5月以降はやや乱れて4回14隻、2回8隻、3回12隻、8月は26日現在までで2回8隻となっている。昨年は2回で計7〜8隻という月が多かったので、それに比べれば多いが、一昨年以前とほぼ同じ水準であり、特に「侵入頻度はますますエスカレート」している事実はない。
野田政権が2012年9月に尖閣国有化という愚挙に出た直後から中国公船の領海侵入は一気に激増し、最大で月7回28隻にまで達したが、1年後の13年10月あたりからはだいぶ収まって月2〜3回10〜12隻を標準として推移するようになり、今もそのペースは基本的に変わりがない。
私は、この「月3回12隻」パターンが何を意味するのか知りたくて、かつて旧知の中国人記者に頼んで中国側の事情を探ってもらった。すると、「中国海警局には3分局があり、東シナ海は上海の東海分局の担当。分局の下に上海・浙江・福建の3総隊があるので、原則としてその3隊が月に1回ずつ尖閣海域に行く。目的は、我が国は領有権主張を引っ込めませんよというデモンストレーションであり、トラブルは避けたいので、事前に『明日は行きます』と日本の海保に通告している。また、領海内には3時間以上とどまらないようにしている」とのことだった。
つまり尖閣問題は事実上、棚上げ扱いということで日中間に暗黙の了解が成立しているのであって、「ますますエスカレート」などというのは「中国憎し」から出たフェイクニュースに違いない。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。
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— 桃丸 (@eos1v) 2019年8月28日
「尖閣周辺の侵入頻度がエスカレート」というフェイクニュース
— KK (@Trapelus) 2019年8月28日
尖閣問題は事実上、棚上げ扱いということで日中間に暗黙の了解が成立しているのであって、「ますますエスカレート」などというのは「中国憎し」から出たフェイクニュースに違いない
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