シリア政府軍はロシア軍の支援を受けてイドリブ制圧作戦を再開
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2019.08.21 櫻井ジャーナル
シリア政府軍は中断していたシリア西部のイドリブ制圧作戦を再開したようだ。この地域はトルコと接し、トルコ系の傭兵が活動している。その傭兵を支援するためにトルコからトラック29台、戦車5両、歩兵戦闘車2両が侵入、その車列の進行を妨げるためにロシア軍機が空爆。この車列を守るためにトルコからF-16戦闘機が飛来したが、これはロシア軍のSu-35に追い返されたと伝えられている。ジハード傭兵が停戦合意を守らない場合、反撃するともロシア側は警告しているようだ。トルコ政府は自国軍がロシア軍機からの攻撃を受けたことを認め、ロシアやイランと話し合う意向だとしている。 外国勢力のシリア侵略戦争が始まったのは2011年3月。アメリカ、イスラエル、サウジアラビアの三国同盟、イギリスとフランスのサイクス・ピコ協定コンビ、パイプライン建設を目指していたカタール、オスマン帝国の復活を夢想するトルコが手を組んでの軍事侵攻だった。 そうした国々は傭兵を雇ったが、いずれも戦闘の主力はサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団。その戦闘員は「ムジャヒディン」とも呼ばれている。そうした中にはチェチェンや新疆ウイグル自治区などからも戦闘員としてシリア入りしていたようだ。 ネオコン、つまりアメリカで大きな影響力を持つシオニストの一派は1980年代からイラクのサダム・フセイン体制を倒して親イスラエル体制を樹立、シリアとイランを分断した上で両国を壊滅させるという計画を持っていた。1991年当時、国防次官だったネオコンのポール・ウォルフォウィッツがイラク、シリア、イランを殲滅すると口にしたのはそういうことだ。 ムジャヒディンを傭兵として使い始めたのはズビグネフ・ブレジンスキー。ジミー・カーター政権で国家安全保障補佐官を務めていた当時のことで、アフガニスタンの体制を転覆させるために投入、さらにソ連軍の侵攻を誘い込んだのである。 このときにアメリカの情報機関や軍が傭兵に武器/兵器を提供し、軍事訓練する仕組みが整備された。ロビン・クック元英外相が2005年7月に指摘したように、CIAの訓練を受けた傭兵の登録リストが「アル・カイダ」である。アラビア語でアル・カイダはベースを意味、「基地」と訳す人もいるが、「データベース」の訳語でもある。 ネオコンの計画通り、2003年3月にアメリカ主導軍はイラクを先制攻撃してフセイン体制を倒すが、親イスラエル体制の樹立には失敗、「石器時代化」させた。 1970年代終盤に始められたアフガニスタンにおけるブレジンスキーの秘密工作では、サウジアラビアが戦闘員を送り込み、戦費を負担、イスラエルや王制時代のイラン、そしてパキスタンが協力。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年にニューヨーカー誌に書いた記事によると、そのうちアメリカ、イスラエル、サウジアラビアがシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラをターゲットにした秘密工作を始めている。その工作をバラク・オバマ政権も続けた。 2011年春の段階ではリビアと同じように、傭兵を投入して一定期間を経た後、アメリカ/NATO軍にシリアを空爆させてバシャール・アル・アサド体制を粉砕する予定だったのだろうが、これは2015年9月にロシア軍がシリア政府の要請で介入、難しくなった。 そのロシア軍はアメリカなどが送り込んだ傭兵を粉砕、ダーイッシュを含むアル・カイダ系武装集団の支配地域は急速に縮小した。イドリブは残された傭兵の支配地域だ。 そのほか、バグダッドとダマスカスを結ぶ幹線を断ち切る形でアメリカ軍が占領しているのがアル・タンフ。イギリス軍の特殊部隊も駐留、戦闘員を訓練して油断地帯のデリゾールなどへ送り込んでいるようだ。 アメリカ軍はバラク・オバマ政権時代にユーフラテス川の北側に約20の軍事基地を建設、クルドを使って支配している。アメリカがこの地域の占領に必死な理由のひとつは油田だ。 このクルドとの関係がトルコとアメリカの関係を悪化させる一因。戦略的に重要な位置にあるトルコを支配するために試みたクーデターは失敗、ますます両国の関係は悪化した。 アメリカがこの関係を修復しようとすれば、クルドと関係が悪化、ユーフラテス川の北側を支配することが難しくなる。そこでイドリブにおけるトルコとロシアの利害対立をアメリカは利用しようとしているのだろうが、トルコにロシアとの関係を悪化させる意思はなさそうだ。 |