ステルス遊説、野党罵倒、安倍礼賛…異様で不気味な参院選
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2019/07/13 日刊ゲンダイ 文字起こし シンパだけに囲まれていたい(C)日刊ゲンダイ 参院選はこの3連休から終盤に入るが、マトモな政策論争にはほど遠い選挙戦になっている。 安倍首相が遊説日程を明らかにしない異様さがクローズアップされ、その理由を党幹部が「日程を公表すると演説を妨害する人がやって来る」(萩生田幹事長代行)と言ってのけたのにはア然だった。話を聞いてくれるのは安倍シンパだけでいい、ということなのだろう。もっともこうした異様さはステルス遊説だけじゃない。 安倍の街頭演説の中身の酷さもハンパないのだ。政策はほとんどそっちのけで野党を誹謗中傷。「民主党の枝野さん」とわざと間違えるのもそうだ。 「あれ? 民主党じゃなくて、いま立憲民主党ですね。どんどん変わるから覚えるのが大変」 これで聴衆から笑いが起きる。本人は悦に入って、各所でこの話を繰り返す。あまりに子供じみている。 政権に就いて6年以上も経っているのに、国会や記者会見で、過去の民主党政権を「悪夢」と蔑んで喜々としているのと同じである。 コラムニストの小田嶋隆氏はこう言う。 「安倍首相はコアなファンを対象にして演説しているので、そうした人たちに受けるベタなネタばかりになる。演説する人と聴衆の『同質性』が高すぎ、ますます演説がネトウヨ化している印象です。野党を攻撃するにしても、『ひとつの理念でまとまれない』など、真正面から批判すればいい。中傷や揶揄になるのは、上から見下ろす感じをネトウヨが好むからでしょう。しかし、中傷演説は一般には受けないし、むしろマイナスで票を減らす行為。安倍首相はそれを分かってやっているのでしょうか」 異様な現象は他にも目につく。官邸のメディア操縦の一環なのか、選挙期間中にもかかわらず、安倍サマ妄信ヨイショ記事が巷に溢れているのだ。 JR山手線などの中吊り広告で、保守系月刊誌「WiLL」や「Hanada」が「税収はバブル期超えの過去最高!」「野党共闘に日本は任せられない」と政権にエールを送っていることを本紙(7月9日付)は伝えたが、月刊誌だけじゃなかった。安倍に近いジャーナリストや元官僚による“礼賛本”の広告もデカデカ掲示されているのだ。 政権への中間審判の意味合いのある参院選の時期に、政権にとってプラスになる記事や本の広告を出すことがどういう意味を持つのかは、誰でも想像できる。メディアなら普通は控えるものだが、安倍サマ応援団は「そんなの関係ない」のだろう。加えて、月刊誌の記事は菅官房長官のインタビューに基づくものだ。この時期に取材を受ける官房長官もどうかしている。 自民党は本部主導で野党嘲笑のネトウヨ冊子を全議員に配布するくらいだから、もはや政権政党としての当たり前の慎みや品性は皆無なのだろう。 安倍私党に成り下がった自民党 テレビはテレビで、ワイドショーがこぞって韓国に対する輸出規制問題を取り上げ、専門家が韓国政府を非難する。このタイミングでの安倍政権の韓国攻撃は“嫌韓”の右派やネトウヨを喜ばせる選挙対策なのは明らかなのに、テレビはそれに乗っかる始末なのである。 「安倍総理に感謝こそすれ、問責決議案を提出するなど愚か者の所業」――。三原じゅん子参院議員が本会議で行った“安倍崇拝演説”に代表されるように、反アベは決して許さないという「同調圧力」を政権政党自らが加速させる。防衛省の陸上イージス調査のミスを受け、イージス受け入れに難色を示す秋田県知事が「非国民」「辞職しろ」と攻撃されるワケである。 「安倍さんが政見放送にも三原じゅん子氏を抜擢したのには驚きました。幅広く支持を集めるなら、自分の対極にいる野田聖子さんらを起用したらいいのに。三原さんは北朝鮮のアナウンサーみたいな人ですよ。自民党は完全に安倍さんの『私党』になってしまいました。韓国への輸出規制もバカな話です。選挙目当ての短絡的な行動で、中長期で見れば日本企業も顧客を失い、得にならない。仮想敵をつくって盛り上がる高校生のヤンキー体質並みです。自民党はここまで薄気味悪い政党になってしまったのか、キモイ政党になってしまったのか、というのが実感です」(小田嶋隆氏=前出) 岸田政調会長が11日、神戸の街頭で「相手の批判に終始する情けない選挙はしたくない」と演説していた。 石破元幹事長も自身のブログで、党本部のネトウヨ冊子配布を「品位が感じられません」と批判していた。だが、こうした行動は党内少数派にすぎないし、安倍本人に面と向かって忠告するわけでもない。これでは安倍サマ政党のネトウヨ化は、とどまるところを知らない。 中吊りに“礼賛本”広告(C)日刊ゲンダイ
安倍が野党の悪口ばかり繰り返すのは、まっとうな政策論争ができない裏返しだ。 安倍は今度の参院選を「改憲について議論する政党か、議論しない政党かを選ぶ選挙」と言っていたが、改憲は争点になっていないし、安倍自身も街頭で具体的な改憲内容に触れることはない。 与党の公明党が改憲を争点化することに難色を示し、山口代表は「議論をまったく否定している政党はない」と公然と批判している。だから安倍は改憲で踏み込まない。それでも、勝敗ラインに設定した「自公で過半数」という低いハードルをクリアすれば、「有権者は議論する政党を選んだ」と言い張って、改憲に邁進するに違いない。 政策論争ができないもうひとつの理由は、過去の選挙でアピールしてきた「アベノミクスの果実を全国津々浦々に届ける」というフレーズにカビが生えてしまったからだ。経済評論家の斎藤満氏が言う。 「今度の参院選で自民党は『政治の安定』を訴えて戦っています。アベノミクスを前面に出して戦えなくなったからでしょう。アベノミクスの成果を過大に宣伝し、『道半ばなので続けさせて欲しい』と訴えるのが安倍首相の選挙演説のパターンでしたが、6年以上政権にいるのに、もはや『道半ば』は通用しない。今やアベノミクスの失敗は国民の多くが認めるところになりましたからね。アベノミクスは『行き詰まり』というレベルではなく、そもそも方向性が間違っていたのです。企業を儲けさせましたが、それは個人を犠牲にした結果の利益でした。消費増税に社会保険料を引き上げ、ゼロ金利で預金金利収入を奪い、円安でコスト高にして、年金はマクロ経済スライドで実質減額。これでは消費が増えるはずありません。企業から個人へのトリクルダウンではなく、まずは家計を豊かにして消費需要を拡大させることで、国内市場に良い循環をもたらす。そんな発想の転換が必要なのではないでしょうか」 礼節や品格が足りない 北方領土問題や拉致問題など「私の政権で解決」と言ってきた外交課題もまったく進まず、選挙なのにアピールできる成果がない。 その結果、野党に対する誹謗中傷でしか支持者に訴えかける材料がないのである。 秋田県知事への抗議のように、安倍批判を許さない過激勢力の増殖にも驚くが、そうしたネトウヨの先頭に立って、野党をこき下ろしている首相の幼児性は前代未聞だ。 政治評論家の森田実氏が言う。 「野党を中傷する安倍首相の演説は『ヘイトスピーチ』のようなものです。政治は大人が行うものなのに、安倍首相の言動はあまりに子供っぽく、程度が低い。総理大臣には礼節と品格が必要ですが、安倍首相にはそれが足りない。礼節とは相手を尊重する思想です。国のトップが礼儀知らずでは世の中が乱れていくばかり。日本は根底から崩れてしまいます」 何から何まで不気味で異様な選挙戦の元凶は安倍だ。有権者はいつまでこの男に好き勝手させるのか。投票日に向け、冷静な判断が必要だ。
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