NHK報道の中立性は、なぜ揺らいでいるのか?「文化・福祉番組部」解体論と報道の正義
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2019.05.11 文=深笛義也/ライター Business Journal
NHK放送センター(「Wikipedia」より/Kakidai)
3月13日、テレビを持っていなくて、ワンセグ付き携帯電話だけを持っている場合でもNHKとの契約義務があるという判断を、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は下した。NHKから契約を求められた、埼玉県朝霞市の市議会議員の大橋昌信氏が起こした、「ワンセグ付き携帯電話を所持しているだけでNHK受信料を払わなくてはならないのか」の確認を求める民事訴訟の判決である。
前回記事「NHK受信料、携帯所有者も支払い義務化へ…『不払いだと視聴不可』が実現されない理由」では、この判決をどうとらえるか、上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授から聞いた。今回は引き続き、しばしば問題となるNHK報道の中立性について水島教授に話を聞いた。
■17年『衆院選特集』問題
2017年の衆議院総選挙で、投票日前日にNHKは『衆院選特集 党首奮戦〜密着12日間の熱戦〜』を放送したが、政権与党である自民党に一番長い時間を使い、安倍首相が喋る場面も長かった。特徴的なのは、内閣総理大臣としての安倍晋三と、自民党総裁としての安倍晋三を、峻別していないという点だ。安倍首相が防衛官僚と思われる人物と、北朝鮮のミサイル発射のときにどう防衛するかということで、官邸で話し合っている様子が映された。これはまさに総理大臣としての業務だ。投票行動にも影響を与えるこうした放送は、公正中立を踏み外していると疑われても仕方がないのではないか。
「森友問題に関しては、検察が立件するかしないかというのは、やはり報道を受けての国民の世論というのをすごく気にするわけですね。籠池夫妻の詐欺なんだってことで、ワーッて世論が流れちゃったら、検察も無理する必要ないわけです。結果的にはそうなってしまった。もしNHKが相澤さんたちの報道の仕方をもう少し評価するかたちで報道していたら、『財務省は嘘つきだ』『国家財産を安くたたき売った』『税金をドブに捨てた』みたいな世論が盛り上がって、そんなの許していいのかということで、もっと違った展開になったかもしれません。
選挙に関しては、公共的な利益が関わっているわけですよね。司法がどう判断するかということも、公共の利益に関わっているわけですよ。そうするとどちらも、公共性がすごくあるケースです。そこで中立というと、どっちなんだという話になって、中立というのは本当に難しい。それによって縛られてしまうからメディア、ジャーナリズムの研究者のなかでも、アメリカがやっているように、公正中立なんて原則はやめればいいんだって人がけっこういるのも事実です。
ただそのアメリカでどうなっているかというと、シンクレア・ブロードキャスト・グループという巨大メディア企業がトランプ大統領と近い関係になって、トランプに都合のいいニュースを流したりしているわけです。そういうこともあって、やはり政治的公平を謳った放送法4条を守ろうという方向に、学者なんかも変わってきているというところはあります。中立というよりは、NHKは公共性をちゃんと果たしているのか、という整理の仕方が大事だと思います」
■NHKトータルで考える公共性
NHK制作局による組織改編によって、「文化・福祉番組部」が解体されるのではないかということも今、伝わってきている。
「文化・福祉班というのは、NHKのなかでは『ETV特集』というドキュメンタリーや、障害を持った人たちやホームレスなど生きることに困難のある人々にフォーカスをあてた『ハートネットTV』などの番組を制作してきた人たちです。NHKには報道番組班というのがあって、報番と呼ばれています。それに対して『ETV特集』をつくるのは番組制作班で、番制と呼ばれます。番制は反体制みたいな傾向が強くて、原発事故の検証なんかをすごく熱心にやってきました。
2011年5月には『ETV特集』で『ネットワークでつくる放射能汚染地図』が放送されました。3.11の福島第一原発事故から2カ月、放射線衛生学者の木村真三さんとともに、どれだけの放射能汚染があったのかを測定するとともに、避難した被災者の様子や行政の実態も明らかにしたものです。その頃、NHKを含めてテレビ局や新聞社などのマスメディアは政府の勧告に従って、原発から30キロ圏内には入っちゃいけないと記者たちに規制をかけていたわけです。日頃は政権批判をしているテレビ朝日やTBSも従順にそれに従いました。30キロ圏内で取材したフリーランスのジャーナリストらもいますけど、マスメディアではETV特集班だけが入った。この番組は、ギャラクシー賞、文化庁芸術祭賞大賞を受賞し、海外からもシカゴ国際映画祭ヒューゴ・テレビ賞などが授けられました。
そうして評価されたときに、NHKのETV特集班がいたから、マスメディアはかろうじて面目を保ったね、って言った人が何人もいたわけです。それを見たときに、NHKのニュースは偏っていたとしても、トータルで考えたら公共性を果たしているんじゃないかと考えられるわけです。報番と番制の垣根を取っ払って、皆、報番みたいにしちゃおうっていうのが文化・福祉番組部解体論という話なんです。侍みたいな人たちが文化・福祉番組部に集まっているということはあって、それが解体されるのはどうなんだっていうことで、そこのディレクターやプロデューサーは皆反対しています。まだ起きていないことなので断定はできないですが、懸念される事態であることは間違いありません」
さまざまな事例を見ていくと、NHKの中立性、果たしている公共性には疑問が生じてくる。
「どこでもって疑問とするかですよね。最近、専務理事に板野裕爾(ゆうじ)さんが返り咲くという人事案が公表されました。板野さんは籾井勝人(もみい・かつと)前会長時代に専務理事を務めたときに、会長の一番の理解者と呼ばれて、官邸とのパイプも太い人物です」
籾井前会長と言えば、「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」と中立性を捨て去るかのような発言をしたり、日本の歴史問題に関する発言が国会でも問題になり、与党の議員からさえ批判を浴びせられた人物だ。
「板野さんというのは、籾井さんの時代に籾井さんにべったりで通した人です。そういう人を事実上のナンバー3に持ってくれば、ゆくゆく自分は理事になれるかなと思っている局長クラスの人は、自然と顔色を窺うという構図は出来上がりますよね。今の会長も含めてですけど、NHKのガバナンスって相当、政治的に物事を考える志向が強くなっているという気がします。文化・福祉番組部解体とか板野さんの返り咲きとかを見ると、籾井さんの頃のような暗い組織に戻そうとしているのかと心配になりますね」
籾井前会長には、「(NHK受信料の支払いを)義務化できればすばらしい。法律で定めていただければありがたい」という発言もあった。今回の最高裁判決は、この発言に限りなく近づいた感がある。
(文=深笛義也/ライター)
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— Weed soul (@Roadside_weed) 2019年5月12日
NHKの中には良識ある人が大勢いるのに、トップが政権に忖度しているかぎり、NHKの報道、NHKがしない報道を注視する必要があります。
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政治に無関心!こんな形でツケが回ってきそうだ!
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