「仕事の49%がなくなる」衝撃レポから3年、AIは本当に仕事を奪ったか
https://diamond.jp/articles/-/200479
2019.4.22 秋山進:プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 ダイヤモンド・オンライン
AIはいま、どの程度、人間の仕事を代替しているのでしょうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
10〜20年後に日本の労働人口の49%の仕事がAIやロボット等で置き換えられるというレポートが2015年12月、野村総研とオックスフォード大学の共同研究によって発表され、大きな衝撃を与えたことをご記憶の方も多いだろう。今回からは特別編として、その研究リーダーである野村総研の未来創発センター長の桑津浩太郎氏と、本連載『組織の病気』著者である秋山進氏が2回に分けてAIと人間の今、そして未来を語り合う。前編は、前述のレポート発表後、実際に労働の現場でAI化はどう進んだのか、AIやテクノロジーの現状はどのように進展し、われわれはどのような状況に直面しているのかを解説してもらった。
AIはいま、どの程度
人間の仕事を代替しているのか
秋山 日本の労働人口の49%がAIやロボットで代替されるという衝撃的なレポートが発表されてから約3年。あれから、実際に私たちの仕事はAIやロボットに置き換えられているのでしょうか。
桑津浩太郎(くわづ・こうたろう)
野村総合研究所マネジメントコンサルティングコンサルティング事業副本部長 未来創発センター長 研究理事
京都大学工学部数理工学科卒業。1986年にNRI入社。野村総合研究所 情報システムコンサルティング部、関西支社、ICT・メディア産業コンサルティング部長を経て、2017年研究理事に就任。ICT、特に通信分野の事業、技術、マーケティング戦略と関連するM&A・パートナリング等を専門とし、ICT分野に関連する書籍、論文を多数執筆、近著に『2030年のIoT』(東洋経済新報社)
桑津 AIによる置き換えは、3年たってもあまり進んでいるとはいえません。置き換えるには、大きなジョブを小さなジョブに分ける。どのような種類の小さなジョブによって成り立っているのか分解する。そしてその小さいジョブは、判断することなのか、丁寧にすることなのか、チェックすることなのかを特定していく――。そういう根源的なアプローチが必要になり、非常に時間がかかるためです。
ただ、「AIが仕事を奪う」ことに対する危機意識と反感だけは爆発的に広がったといえます。世の中の実務は変わらないのに、意識は変わった。このままでは危ない。負けてたまるか、というわけです(笑)。
秋山 レポートのなかで置き換わると予測された仕事には、ブルーカラーだけではなく、ホワイトカラーの仕事もたくさん含まれていましたね。
桑津 例のレポートは、中間管理職がターゲットだったため、ホワイトカラー比率が高くなっています。ホワイトカラーの業務もプログラム化できますし、こういう条件ならこう判断するということの積み重ねで成り立っていて、結局、機械に任せられることが多いのです。
しかもAIの機械学習で、そのようにロジックを設定して学習させるのはすでに2世代も前の技術です。いまや、いちいち人間がロジックを決めるロジックベースではなく、ディープラーニングを用いた学習ベースになっています。原因と結果を学習させて、なぜそうなるかはわからないが結論にたどりつく仕組みだけつくれば、中身は極端にいえばどうでもいいわけです。
秋山進(あきやま・すすむ)
プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役
秋山 ルール作成にコストをかけるよりも、コンピュータにデータをたくさん読ませて、アルゴリズムのようなものを生み出すほうが結果的には安く品質も良いわけですね。
桑津 ええ。論理ではなく、インプットとアウトプットだけで、ブラックボックスなりに、それなりのものができます。結論がそうなった過程は示さなくていいし、そういうやり方で、判断できる仕事は多いのです。
AIによらず、大きなくくりのテクノロジーについて申し上げますと、例えば量子コンピュータがどうなるとか、バイオテクノロジーで実際われわれは何歳まで寿命がのびるのかといったことは、われわれも合理的には計算できません(笑)。ただ、ひとつはっきりした潮流があり、それはイノベーションの生まれるところが「発想」から「実装」へという流れになっていることです。
秋山 実際に生活や社会に適用する現場でアイデアが生まれている、ということですか。
桑津 ええ。ここ30年ほど、アメリカの西海岸から、ネットベンチャーが生まれ、新しい技術が世の中に出ました。それこそがイノベーションでしたが、現在は、実装の部分でイノベーションがたくさん生まれています。そしてその多くは中国発のものです。もちろん要素技術はアメリカ由来のものですが。
秋山 中国が実装の部分で本気を出したら、国で一気にやりきる勢いがあることもあって、データのスケールが違いそうですね。他国では、とてもまねできないのでは?
桑津 もちろん新たに生み出す技術の数が多いほうがいいとは限りません。例えば、エストニアの電子政府の試みがあります。国民はスマートフォン1つで、税金の支払い、医療データの閲覧、選挙の投票ができる仕組みが整っています。でも実はそれは、なにも新しい技術を使ったわけではなく、従来ある技術で十分できることです。日本だって、同じことをするのは技術的に可能です。
ただ、縦割り行政やデータを共有することへの社会の抵抗など、コンセンサスを得られなくて、そういう仕組みにできないことが問題です。従来からある技術を使って、社会的な理解を得てできるようにする、これもまた実装力です。AIにしても同じで、日本では技術がどうこうよりも、受け止め方や定義をどうするかで議論が停滞していると感じています。
「使ってやる」という気持ちで
AIと仕事をすることが大切
秋山 AIの責任能力についても語っておきたいのですが、例えば医師は、AIが示した判断に最終的にOKを出し責任を取るといいますが、さきほどおっしゃったように、ブラックボックス化すれば何を論拠にその判断を出したかわからないですよね。そうすると、責任をとることも実際には難しく、形骸化するのではないでしょうか。
桑津 実は、画像診断について複数の医師に尋ねてみたところ、やはり画像診断はAIでやってほしいと言っていました。人間は同じ画像を連続して何枚も見る作業に堪えられる動物ではない。同じような画像を何枚も見ていると全部同じに見えるのが人間の脳みそだというのです。それこそ機械が得意なことだと言っていました。
だから、画像診断でAIが医師の仕事を奪う以上に「自分の貴重な時間をもっとほかの医療行為や診療プロセスに使いたい」ので、AIのサポートはウエルカムであると。脅威とか反発と言う前に便利に使いたい気持ちの人もいると思うのです。奪われるのではなく、「使ってやる」くらいの気持ちをもつほうがいいのではないでしょうか。
秋山 疲労による間違いのリスクも低減しますし、例えば自動運転がもっと導入されれば、同様にドライバーの負担も減りそうですね。
桑津 いま飲酒運転は法律で禁止されていますが、自動運転が当たり前になれば、社会のルールも変わるべきです。お酒を飲んで車に乗っても責任は問われない社会にするほうがいいかもしれない。万一事故が起こったとき、刑事責任をどうするかとか、保険をどうするかと心配する人がいますが、それは技術革新が進んだその新しい社会の状況によって、ルールを変えていくべきでしょう。人間は撹乱要素になりますが、人間が運転するより自動運転のほうが明らかに事故率は下がるはずです。
秋山 一番悪いのは、中途半端に人が介在してかえってリスクが高まることでしょうか。
桑津 人の数は確実に減っているのですから、QOLを上げるためには、AIのサポートを入れざるを得ない。コンビニなどで人手が足りないなら、お店を閉めるよりは、無人店舗があるほうがよほどいいでしょう。どの分野も人が足りないのだから、介護に「ラストワンタッチ」のための人を寄せて、ほかは効率化する、などの判断が必要です。
無人化することで、従来と違うサービスレベルになるのが許せないとは傲慢です。デジタル革命が起こっているのだから、なんでも人手をかけて丁寧にという、古い規範は破壊せねばなりません。
世界を見回してもお手本はどこにも転がっていません。日本が一番の高齢化の最先端なので、高齢化による人手不足には、日本が自分で答えを見つけていくしかないのです。
秋山 「労働は神聖なもの」と思いすぎないで、代替できるものはどんどんしていけばいいと思いますが、AIやIoTの技術を取り入れていけばこんなに便利になるという事例はありますか。
バス停もスケジュールもない
「未来のバス」の姿
桑津 バスを例に、未来の話をしましょう。地方都市などが高齢化して、バスの運行が赤字になるところがたくさんあります。バスは決められた経路を通るのがこれまでの常識でしたが、これを自動運転に切り替えて、IoTで近隣の人の情報と連携すると、バスは、人々の希望を吸い上げて、登録点をランダムに移動して、もっとも効率的な経路で、人をピックアップしていくことになります。
人が「〇〇行きのバス」を選んで乗るのではなく、バスが人を選ぶようになる。バス運行の概念から、バス停とスケジュールがなくなるのです。
秋山 乗り合いタクシーみたいな感じになるのですね。シェアリングに関してはまだ規制がありそうですね。
桑津 それを議論してもしかたがないんです。デジタル革命が起こっているのだから、シェアリングはこの革命を機にOKにするということにしなくてはなりません。都市のインフラもこれまで以上にフレキシブルになるでしょう。
スマートシティーでは、ゴミ回収のルールも変わるはずです。ゴミ箱にセンサーをつけて、満杯であれば回収、空きがあれば満杯になるまで回収しないようにすれば、劇的にコストが下がり、労働生産性が上がります。
フランスではすでにこれが普通のようですが、日本ではゴミ集積所はつねにきれいであってほしい気持ちがあるでしょうし、技術的には可能でも、なかなか概念的な理由からそうはならず、ゴミ回収車は決まったルートをまわっています。日本の美意識みたいなものと合理的なものにどう折り合いをつけるのか、ルールをどうするかという意思決定の問題でもあります。
秋山 人手不足と技術発展を前提に、どのように社会を設計するかですね。
桑津 キャッシュレス問題にしても、日本はすばらしいシステムを持っているがゆえに無駄が多い面もあります。日本は紙幣の印刷技術が高く、きれいなお札が流通していて、お金の信頼性が高く、ATM網も完備されています。街頭のATMを壊してお金を盗む人もいません。しかしそれゆえ、現金主義から離れられない。しかもその現金主義を支えるシステムの維持費として、われわれの税金が使われており、高コスト体制ともいえます。
中国では、お金の信頼性が低いことや、街頭にATMを置いておくと盗難に遭うため、電子マネーが流通しやすかった背景があります。日本のほうが信頼性や安全性が高く、便利に現金が使える社会であったがために、キャッシュレス化は遅れ、中国は現金を流通させる危険を排し、キャッシュレス化に成功したのです。
これまでアジアでは、「雁行モデル」といって、日本、韓国、台湾、中国の順に時間差で新たな技術やビジネスが普及していく考え方がありました。しかし、現在、デジタル化の観点では、中国が先行し、韓国、台湾が続き、一歩遅れて日本が後を追う構図で、雁の群れの先頭を飛んでいたつもりが、いつの間にか後方に下がって必死について行くような状態になってしまっています。日本人は、そういう危機意識をもっと持つべきではないでしょうか。(続編は5月6日(月)公開予定です)
(取材・構成/ライター 奥田由意)
「仕事の49%がなくなる」衝撃レポから3年、AIは本当に仕事を奪ったか - 組織の病気〜成長を止める真犯人〜 秋山進 https://t.co/H4CSuZ3OBE
— ダイヤモンド・オンライン (@dol_editors) 2019年4月21日
従来からある技術を使って、社会的な理解を得てできるようにする、これもまた実装力です。
— ヒナジロウ@ダーマ神殿に行く (@hinajiro749) 2019年4月22日
「仕事の49%がなくなる」衝撃レポから3年、AIは本当に仕事を奪ったか #SmartNews https://t.co/lZg8E0aolC
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— 鯛 (@osakananotai) 2019年4月22日
AIに出来ないことは、責任を取ることだな。 https://t.co/jwL4TQM5gq
「置き換えるには、大きなジョブを小さなジョブに分け、どのような種類の小さなジョブによって成り立っているのか分解し、判断することなのか、丁寧にすることなのか、チェックすることなのかを特定していく、根源的なアプローチが必要になり、非常に時間がかかる」 https://t.co/FlI46lRnbL
— ニュース備忘録(フォロー返し無し) (@mambo2016) 2019年4月22日