上の写真の記事については後述する。
筆者のテクでは写真は一番上に置くことしかできないのでご理解を。
さて、韓国駆逐艦によるレーダー照射事件の映像を防衛省が公開した。
それによると、クルーが機長に「FC(火器管制レーダー)を検知」などと報告している様子がわかり、韓国駆逐艦が火器管制レーダーを照射したのは間違いなさそうだ。
ただしその一方ではクルーが「砲はこちらを向いていない」と機長に報告し、
すぐに続けて(同じクルーかどうかは不明)「砲の向首は確認していない」と報告している。
「砲はこちらを向いていない」にかぶせるように言ったこの「砲の向首は確認していない」とは、「砲はこちらを向いているようには見えない」ということだろう。
このことからは、少なくとも、一部で言われたような「発射寸前の状態」ではないことが推測される。
そしてその推測を裏付けるかのように、機長もクルーもいたって冷静だ。
ただ淡々と必要な仕事をこなしているという印象を受ける。
ここで、事件発生当初からの日本側の反応を報道から振り返ってみよう(…は省略を示す)。
産経デジタルは
…火器管制用レーダーは「攻撃予告」ともいえる危険な行為だ。…
照射された側が先に攻撃したとしても、国際法上は何ら問題が生じないほどの事案だ。…
「攻撃直前の行為だ」。岩屋毅防衛相は21日夜のBSフジ番組で、レーダー照射に危機感を示した。
火器管制用レーダーは…「ロックオン」に用いる。発射ボタンを押せば攻撃可能な状態だ。防衛省幹部は「米軍なら敵対行為とみなし即座に撃沈させてもおかしくない」と語る。
次に毎日新聞は“レーダー照射「あとは引き金引くだけ」 政府に強い衝撃、日韓悪化避けられず”という見出しのもとに
…
岩屋毅防衛相は21日、記者団に「韓国側の意図ははっきりと分からない」としつつ、「極めて危険な行為だ」と批判した。レーダー照射は「あとは引き金を引くだけ」の危険な状況で、防衛省関係者は「韓国軍との間で聞いたことがない。驚いている」と憤った。…
と報じた。
今日明らかになった現場の自衛隊員の冷静さとは対照的に、岩屋防衛大臣以下、防衛省の幹部らが、まるで今にも戦闘が始まるかのようにいきり立って興奮しまくり、そしてその興奮は報道陣にまで伝染しているという印象を受ける。
確かに、火器管制レーダーの照射というのは、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」の合意に反するものであるから、ある程度問題視されるのは当然だろうが、それにしても防衛省界隈は大げさに騒ぎすぎではないのか。現場の自衛隊や自衛隊OBからの声があまり報道されないのも不思議だ。
そしてここでさらに不思議に思う。いつも自分は自衛隊の最高指揮官だと威張り、自衛隊を「わが軍」とまで呼ぶあの人は、なぜ登場してこないのかと。
ここで冒頭の写真の出番となる。これは、東京新聞が23日の朝刊に掲載した記事で、たまたま紙の新聞を見たのだがネット上には見当たらないので写真で貼ることにした。
大体は他社と似たようなことが書いてある中に、他社とは違うことが書いてある部分を抜き書きする。
――
「韓国との関係は修復困難だ」(政府高官)と悲観論が広がった。
安倍晋三首相は今回の事態に強く反発しているとみられる。
官邸筋は「韓国は当分相手にできない。当分の間突き放す」と強調した。首相の意向を代弁した発言とみられる。
――
すごい内容だ。短い記事の中に「首相」という言葉が2回も出てくる。他社では全くないのに。
そして安倍は今回の事態に「強く反発して」いて、「韓国は当分相手にできない。当分の間突き放す」とまで言っていると。
これは別に東京新聞だけがつかんだネタだとも思えないが、他社はどうして書かなかったのか。ネットにないだけで紙には書いたのか。全くの想像になるが、空気の読めない東京新聞は書いたが、他社はヤバすぎて記事にできなかったのではないか。つまり「総理はひっくり返りそうなほど怒り狂ってるようだぞ。ちょっとそっとしといた方がよさそうだ」と。
いずれにしても貴重な東京新聞の記事からは安倍が怒り心頭に発している様子が伝わってくる。「なにーっ! ロックオンされただと? そりゃつまりミサイル発射寸前ってことじゃないか! おのれ韓国、なめやがって、ただじゃすまさんぞ」とバウカヨと同じ理屈で(なにしろバカウヨの総大将なので当然だ)、大騒ぎしたのだろう。
そして当然その怒りは官邸はもちろん、防衛省にも伝わる。別に何を指示するわけでもない。かつてNHKに言ったように、「勘繰れよ!」と言う必要さえないだろう。忖度というやつがある。
かくして防衛省は、安倍元帥閣下を満足させるために、現場の自衛隊の反応以上に強硬な態度を韓国側にぶつけたのであろう。
(ただ防衛省が、最初の反応の割には冷静に韓国側と協議しているらしいのは評価できる。)
報道はその後も防衛省サイドの話が中心となり、自衛隊という「現場」の反応を伝えることはほとんどなかったように見える。少なくとも筆者が接した範囲では。
ただかろうじて航空自衛隊OBの田母神氏が、「“レーダー照射イコール発射寸前”ではないのだから、騒ぐことはない」という理路整然とした一連のツイートを投稿した程度だった(これもマスメディアは報道していないのではないか)。
この件に関連した田母神氏の最後のツイートがきわめて印象的なので引用しておく。
田母神俊雄認証済みアカウント @toshio_tamogami 12月23日
今回の韓国の火器管制レーダーの電波照射について今以上に詳しく話すと自衛隊や日本政府に迷惑をかけることになるかもしれないのでこれ以上は言わない。今回ぐらいのことは世界中の軍が日常的にやっていることであり、電波照射をしてもミサイルが直ちに飛んでいかないような安全装置もかけられている。
https://twitter.com/toshio_tamogami/status/1076637077230342144
> 今以上に詳しく話すと自衛隊や日本政府に迷惑をかけることになるかもしれないので
意外と鋭い田母神氏は、ここで今回の騒動の火元にはっと気づいてしまったのではないか。こんなバカなことで騒ぎ立てるのはあの人しかいないと。
そして今日、防衛省は件の映像を公開したわけだが、何とそれは安倍元帥閣下の強い意思によるものだという。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018122800890&g=pol
時事通信
渋る防衛省、安倍首相が押し切る=日韓対立泥沼化も−映像公開
韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射問題をめぐり日韓の主張がぶつかる中、防衛省が「証拠」として当時の映像の公開に踏み切った。同省は防衛当局間の関係を一層冷え込ませると慎重だったが、韓国にいら立ちを募らせる安倍晋三首相がトップダウンで押し切った。日本の正当性を世論に訴える狙いだが、泥沼化する恐れもある。
防衛省は当初、映像公開について「韓国がさらに反発するだけだ」(幹部)との見方が強く、岩屋毅防衛相も否定的だった。複数の政府関係者によると、方針転換は27日、首相の「鶴の一声」で急きょ決まった。(以下略)
やれやれ、やっぱり安倍閣下が首謀者だったのである。
先日、「いずも」の空母化は自衛隊が望んだわけでは全くなく、政治主導で決まったことが明らかになり、それを東京新聞は“「背広を着た関東軍」ほどおそろしいものはない”と評した。
政治主導とは、もちろん、その背広を着た関東軍のトップにあらせられるあの「背広を着た元帥閣下」の主導ということである。
自衛隊が求めてもいないのに「いずも」を空母化したこの背広を着た元帥閣下は、自衛隊がさほど問題にしていないのに、そして最後には防衛省の反対を押し切ってまで、レーダー事件を韓国叩きに利用したのである。
内政にしても外交にしても、こんなヤツに任せていていいわけがない。