「報酬」と「給与」の違い、知っていますか?
今さら聞けない「税金」と「節税」の話
2018.12.28(金) 河西 泰
正しい方法で、少しでも安くしたい――節税に対する経営者の思いだろう。しかし、田中卓也税理士事務所代表の田中氏(オールアバウト「税金」ガイド)は、中小企業経営者らが「節税」について正しい知識を得ず、会社の価値を高められていないケースが多い、と指摘する。中小企業が知っておくべき良い節税、悪い節税について考えてみた。(JBpress)
【→前回:その節税対策、むしろ損していませんか?】
役員報酬を増やす
「節税というと利益を圧縮するために、経費を増やそうという話になるのですが、経費を増やすには支出も伴うということも考えるべきでしょう」
前回のコラムでそう指摘した田中氏は、会社の価値を高められない節税が多いと言う。
では具体的に「節税」には、どんな考え方が必要で、その方法とはどのようなものだろうか。
田中さんは具体例を教えてくれた。
「税金を減らす方法として、役員報酬はなるべく高くすることをアドバイスしています」(田中氏)
「役員報酬」は損金として計上できるというのがポイントで、中小企業の節税対策ではもっともシンプルな方法である。
損金として計上できる役員報酬を高く設定すると、個人の所得税と住民税は上がるが、それ以上に法人税での優遇が上回り、一定の金額までは節税になることが知られている。
ただし、役員報酬については、「定期同額給与」というルールがある。要は毎月、一定の給与でないと損金にはならず、そのときの状況により増減させてはならない。
「いくつか注意点があるものの、ぜひとも活用したい節税対策」と田中さんは強調する。
この方法についてはもう一点、メリットがある。
「将来、会社に何かあった時に、自分で持ち出しをしてでも会社を立て直さなくてはならないことがあるかもしれない。その時のためにも、役員報酬は高くもらっておいてくださいと言っています」
所得を分散する方法
日本の税制の特長を利用した節税方法として、自分の妻に所得を分散するという方法もある。
中小企業の場合、妻が会社の仕事を手伝っているケースは少なくない。その場合には、社長に支払っていた給与の一部を妻に分けて支払うことで節税ができる。
この場合は、会社の経費という点では同じ世帯に入ってくるお金なので法人税の節税にはならないが、逆に個人で支払う所得税と住民税を減らすことができる。
日本の所得税が累進課税となっているため、一人で多くの給与をもらうよりも、二人で分けてもらった方が税の負担が小さくなる。同時に、給与からは「給与所得控除」を差し引くことができる。給与所得控除は、給与の額が大きくなるにつれてその割合が小さくなるから、分散させて二人で給与をもらうことで節税になるというわけだ。
先に挙げた「役員報酬」による節税との組み合わせで、「夫婦同額の役員報酬」という方法もある。
小規模企業共済の利用
田中氏は、別の方法も提案してくれた。
「これらとは違った方法の節税として、小規模企業共済をお勧めすることも多いです」
小規模企業共済とは、中小企業の役員などが退職や廃業した後の生活資金を準備する制度だ。
この制度は、小規模事業者の老後の資金の準備を促進するという主旨のもと、国により取り扱われている。
最大の特長は、掛け金が全額控除となり、最大で年間84万円控除できることだ。
また、この共済金を受け取るときは、一時金で受け取ると退職所得扱いとなり税金が軽減され、分割で受け取ると公的年金控除の適用があり、やはり税金が軽減されるというメリットもある。
「節税対策で民間の生命保険に入る中小企業の経営者も多いですが、それに比べて保証金額が小さいというデメリットはあるものの、受取金額、支払金額に対する必要経費算入額も大きいので、この小規模企業共済は相当に節税効果が大きいと言えます」
この小規模企業共済に加入したうえで、保証については足りない分を民間の生命保険で補う方法を田中さんは勧める。
働き方改革の落とし穴「報酬」と「給与」の違い
働き方の変化による「税金」についての知識も経営者には欠かせないだろう。
昨今の雇用体系として正社員ではなく、契約社員や業務委託というような働き方も増えてきた。
このとき、企業にとって重要なのは、報酬か給与かという点だ。報酬は源泉徴収しなくてもいいものがあるが、給与は源泉徴収しなくてはならない。そこで、税務調査で問われるのは次のような点だと田中さんは指摘する。
「たとえば報酬として、30万円を支払っていたとします。その場合、交通費や経費の負担も報酬の中からしなくてはならないのです。ところが、会社には席がある、パソコンも支給されている。交通費の請求を受けているということになれば、そもそもが、それは報酬なのか? 給与ではないのか? という追及を受けることがあります」
月30万円、年収360万円の報酬を支払っていた人が10人いたとして、それは給与ですと指摘されると、源泉徴収していなかった会社が悪いということになる。「その額は決して小さくないことを覚えておいてほしい」と言う。
相続の問題は5年先のことも考える
また、税金の問題を考えるときには相続の話には触れておかなくてならない。一番問題になりやすいのは、被相続人の納税義務は、相続人が承継する、という点だ。
「こんなことがありました。個人事業主であるお父さんが亡くなった。ところが亡くなる前の3年間、かなりいい加減な申告をしていたことがわかった。家族の誰も知りませんでしたが、税の徴収時効は5年もあるので、お亡くなりになったからといって、税務調査の対象を外れるということはありません」(田中氏)
当然のことながら、相続人は配偶者と子どもだ。いきなりの納税義務を言い渡されて遺された家族があたふたする姿は想像に難くない。
ちなみにこの場合、相続放棄をするという手段も考えられただろうが、それでも亡くなった3か月以内にしなくてはならないというルールがあることを知っている人は多くはないであろう。
こうした悲劇を生まないためにも、先々を考えた税金対策というのが、経営の鉄則であると言えそうだ。
そして何よりも、最初に節税ありきという姿勢を改め、キャッシュを残すことで得られるメリットについて考えることも経営上、重要な観点であることを覚えておきたい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55074
その節税対策、むしろ損していませんか?
中小企業が陥りやすい税金の落とし穴
2018.12.27 河西 泰
企業経営者にとって欠かせない節税対策。正しい方法で、少しでも安くしたい、というのは切実な願いだが、簡単ではない。そのパターンは、不動産の有無や業態によって大きく異なるし、加えて関連法律もさまざまに変わるからだ。来年には消費増税が決定し、ますます税金が気になってくる。中小企業が知っておくべき良い節税、悪い節税について考えてみた。(JBpress)
法人税を納めているのはたった3割?
平成31年度の税制改正大綱が12月14日に発表された。消費税率10パーセントを平成31年10月に確実に実施する、と明記された点にも大きな注目が集まった。
4年前の2014年に消費税率を5パーセントから8パーセントに引き上げた際は、駆け込み需要が大きくなり、その反動により個人消費がマイナス3パーセントまで冷え込んだ苦い経験もある。この教訓をいかに活かすことができるかが、今後の課題になる。
また、年の瀬の風物詩になっているのが「年末調整」。企業の経理担当者や中小企業の経営者にとっても一大イベントである。
こうして考えると「税金」は、毎日の生活から切っても切れない、でもできる限り払いたくないというモノ、というのが本音だろう。
そこで個人や中小企業の税務問題に詳しい、税理士でオールアバウト「税金」ガイドでもある田中卓也氏(田中卓也税理士事務所代表。 ”正しい決算、正しい申告だけで満足ですか”という理念をかかげ、事業計画の作成・サポートを中心に据えた革新的な事務所経営を行う)に中小企業の、特に経営者が節税するために必要な視点について聞きに行ったのだが――。
「節税対策ということがよく言われますが、国税庁から発表されている会社標本調査によれば、そもそも儲かっている会社というのは35パーセントちょっとしかありません。つまり、おおよそ65パーセントが法人税を納めていないという実態があります」
田中さんはそう指摘した。
会社の場合、お金を貸してくれる場所、つまり「対銀行」という側面が見逃せない。有利な融資を受けるために、毎月毎月の収支を黒字にしたいという会社がある一方で、利益が少なくてもいいと考える会社もある。
前者の「黒字にしたい」のは起業歴が浅く、これから信用を得なくてはならない会社だ。
後者の「収支が少なくてもいい、赤字でもいい」と考えるのは、すでにある程度の信用ができている会社に多い。
「納税というのは信用力の担保でもあるのです。ある程度の税金を納める、黒字に決算する、納税証明書を取らないとそもそも銀行の融資審査が通りにくいという実情がありますからね」
何のための節税か? キャッシュを残すことも大切
こうした現状の中で、そもそも利益にかかる「法人税等」について、実際にどれくらいが課税されるか把握していない経営者が多いと田中さんは指摘する。
簡単に説明しておくと、資本金1億円以下のいわゆる中小企業に対する税率は以下の通りになる。読者の皆さんは、どのくらい理解していただろうか。
国税庁資料より。詳しい注釈は以下より。 http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
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資本金1億円以下の中小企業の税率は、年間所得800万円以下の金額が15%、年間所得800万円超の金額は23.4%(平成30年4月1日以後開始事業年度は23.2%)。
中小法人以外の法人の税率は23.4%(平成30年4月1日以後開始事業年度は23.2%)。
要は年間所得が800万円を超えると、税率が10パーセント近く上がるという点がポイントになるようだ。
「節税というと利益を圧縮するために、経費を増やそうという話になるのですが、経費を増やすには支出も伴うということも考えるべきでしょう」
田中さんはそう警笛を鳴らす。
「100万円のお金を使って、経費にしたところで減らせた税金は約24万円です。逆に使わないで76万円残しておいたほうが効果的なことも多くあることを考えてほしいのです。どちらが会社に利益をもたらすのかをきちんと見極めるべきだと思います」
節税に目がいくばかりに、本来の目的である会社の成長が疎かになる。単純なことだが、見落としがちなのだそうだ。
田中さんは、そうした風潮に対して、もう一度、税金にまつわる正しい理解が必要だろうと言う。
では、具体的にどうしていくべきか。次回はいくつかのポイントを紹介する。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55044
夫の突然死、2年後に起こった悲劇「娘の就職も…」
中小企業の経営者が直面する未来の話
2018.10.25 河西 泰
事業承継はこれからもますます大きな問題になっていく(写真イメージ)。
事業承継はこれからの大きな課題となるだろう。
なかでも後継者不在は特筆すべき問題となっており、帝国データバンクが2017年に発表した『2017年 後継者問題に関する企業の実態調査』によると、国内企業の3分の2にあたる66.5%が該当するという。にもかかわらず、「この問題に向き合っている経営者は少ない」と指摘するのは司法書士で事業承継デザイナーを務める奥村聡さんだ。
事件は事業を引き継いで2年目に起こった・・・
50歳で印刷企業を経営する女社長であった佐藤さん(仮名)。
急死した50代の夫の事業を引き継ぎいだ。幸い、夫が残した遺産もあり、それを一人娘と分割して相続。その娘も大学を卒業し、大手上場企業に就職が決まる。あとは道半ばで倒れた夫のために事業を軌道に乗せよう――佐藤さんは、そう奮闘していた。
しかし現実は甘くない。
ネットやコンビニで気軽に印刷ができる昨今。経営は日に日に苦しくなっていった。
夫が経営していた当時からの数名の従業員には、「申し訳ない」と思いながら、徐々に辞めてもらうしかなかった。
それでも資金繰りに困ると、サラ金にまで手を出した。
いつかは負債を返せる――その思いもむなしく、事業を引き継いで2年、佐藤さんは事業を閉じるという選択をした。
※ ※ ※
「佐藤さんが私のところに相談にきたのは、このタイミングでした」
事業承継デザイナーとして全国を飛び回る司法書士の奥村聡さんは悔しそうに言った。「事業を閉じる」――それ以上の悲劇が佐藤さん一家には待ち受けていたのだ。
「このときのケースでは、社長が亡くなった時点で奥さんと娘さんで遺産相続をしていて、不動産を持ち合ったりもしていました。私のところに来た時点では、これ以上債権者に迷惑がかけられない、会社をやめたいというのが相談内容でした。そして、その時に初めて娘さんも連帯保証している事実がわかったのです」
「残念ながら・・・」奥村さんは続ける。
「佐藤さんも、有名な上場企業に入社したばかりの娘さんも、結局は自己破産するしかありませんでした」
実はこうしたケースは多いという。
「中小企業の社長の場合、公私の両面で経営にかかわっている場合がほとんどだということを忘れてはいけません。そして事業承継したあと、何年かして経営状況が悪化したときに、いろいろな相続問題が起きることが少なくないのです」
事前に措置を施しておけば残せるケースがほとんど
「事業承継において、相続の問題が絡むことは非常に多い。そして相続は、いいモノだけではなく、悪いモノ、つまり負債も引き継がれる。そのことに留意していないケースがとても多いのです。佐藤さんのケースでは、社長が亡くなった時点で、まず相続するかしないかを熟慮するべきでした。場合によっては相続放棄という方法も念頭に置くべきです。プラスとマイナスをよく考えて、マイナスのほうが多いのであれば家庭裁判所に申し出るのも一案です」
奥村さんは10年以上にわたり「事業承継」を扱ってきたスペシャリストだ。数百件に上る事例を目の当たりにし、つとに感じるのが、経営者たちの備えの甘さだ。
「佐藤さん一家の場合も、旦那さんがご存命の時点で”仕込み”を入れておければ、このような最悪のケースは防げたと思います。もちろん理想論ですが・・・、たとえば、あらかじめ会社を、良い部分と悪い部分で二つに分けていたら、負担が少ない良い部分だけを佐藤さんが経営することができたかもしれません。経営者の死亡時に、株式が相続以外の方法で他者に承継されるような”仕込み”も考えられます。そうすれば家族が相続放棄をすることになっても、議決権は行使できるので、迷惑をかけないかたちで会社を畳むこともできたでしょう。場合によっては売ることも可能だったかもしれません」
理想的な流れで言えば「経営者が50代後半になったら事業承継について動き始めてほしい」と奥村さんは指摘する。70歳を超えて急にこの問題に直面し、動き出すと多くの場合で「何らかの事情で進まな」くなることが多いからだ。
「早い段階で動き出した社長ほど、しっかり次の形まで持っていけるケースが多いのは間違いありません。きっちりとした事業承継後の形でなくても、自分に何かがあったらこうしてほしいという備えはしておくべきです」
経営者は万が一のときのケアを
「特に昨今強く感じているのが、佐藤さんのケースのような経営者である社長が急死する、もしくは不測の事態で動けなくなくなったときの準備の必要性です。事業承継というと後継者不在問題がよく挙げられ、急死問題はあまり指摘されませんが多発している印象があります。社長が突然亡くなったときのケアができていない。ほとんどの中小企業がそうだろうと思いますが、そのことが悲劇の上にさらに悲劇を生むケースが少なくないのです」
この準備を怠ると、本来なら事業自体を残せたかもしれないのに、もはや倒産という選択肢しか持ち得なくなり、無関係だった家族が破産せざるを得ない、そんな最悪のケースに直面する可能性が大きくなっていく。
「小さい会社の場合、従業員も家族も何も言われていないケースがほとんどです。従業員からは給料が払われないがどうすればいいか、という相談を受けたこともありますし、わけも分からず奥さんが駆り出されて、挙句に借金を背負わされて破産せざるを得ないケースなどもありました」
事業承継は経営者のマインドがすべて
ただし、現実にはその「備え」こそが難しい。
「そうは言っても、元気なうちに事業承継の決断をすぐに下せる経営者はなかなかいません。一昔前は息子に絶対継がせたいという経営者が多かったと思うのですが、今は価値観的にも自分の好きなことをさせてあげたいと考える社長(親)も多いようです。中小企業の場合、経営者の一存で物事を決めてきたことも多いでしょう。事業承継の問題も、答えは社長の心のなかにだけあるいうのが結論です。最終的には、社長がどうしたいのかというマインドの問題が大きいわけですね。周りにはいろいろ言う人がいるかもしれませんが、なかなか決断できない理由はそこではありません。分析していくと結局は自分の中にある考えがまとまらない、整理できていないから決定できないというケースがほとんどです」
事業承継で一番重要なのは経営者のマインドの問題になる。奥村さんは「そこが一番軽視されていて、見落としがちだ」と指摘する。なかなか前に進まない、一度進んだのにもとに戻るようなケースの場合、結局は、社長のなかでしっくりいっていないという理由がほとんどなのだ。
次回はそうしたマインドを乗り越えた事例(増える廃業、「社長の終わり方」が問われる時代)を紹介する。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54460
http://www.asyura2.com/18/hasan130/msg/344.html