2019年の中国を読む:「新皇帝」習近平の内憂外患
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2018年12月26日(水)17時35分 ミンシン・ペイ(クレアモントマッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長) ニューズウィーク
習近平国家主席は実は悩みが多い?(12月10日、北京の人民大会堂で) REUTERS
<独裁的な権力を確保した習近平に、難敵トランプとエリートの反乱が迫る。貿易戦争は続き、国民は軌道修正を望んでいる>
※2019年1月1/8日号(12月26日発売)は「ISSUES2019」特集。分断の時代に迫る経済危機の足音/2020年にトランプは再選されるのか/危うさを増す習近平と中国経済の綱渡り/金正恩は「第2のケ小平」を目指す/新元号、消費税......日本は生まれ変わるか/フィンテックとAIの金融革命、ほか。米中対立で不安定化する世界、各国はこう動く。
(この記事は本誌「ISSUES2019」特集より)
中国、とりわけ最高指導者の習近平(シー・チンピン)にとって2018年の滑り出しは上々だった。2017年11月には現代の「皇帝」然としてアメリカのドナルド・トランプ大統領を迎え、盛大にもてなしていた。これでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と同様にトランプを手なずけ、米中貿易戦争を防ぐことができると考えたとしても不思議ではない。
3月には国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正に成功。無期限に主席の座を維持することができるようになった。
ところがそこから事態は一転。習と中国の運気は悪化の一途をたどり始めた。
任期制限の撤廃は評判が悪かった。最後の終身国家主席だった毛沢東の記憶はまだ忘れられていない。新たな終身独裁者が誕生するという不愉快な見通しに、多くの国民、特に都会のエリートは怯えている。
そうした不安を解消する間もなく、習は2012 年11月に権力を掌握して以来の最も厳しい試練に直面した。トランプは意外と手ごわい相手だった。中国からの輸入品に追加関税をかけるという脅しは口先だけではなかった。
交渉はうまくいかず、米中は貿易戦争に突入した。2500億ドル相当の中国製品に、10〜25%の追加関税が課せられた。
さらに悪いことに、アメリカは全面的な対決姿勢に出た。北朝鮮とイランへの経済制裁違反を理由に、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)と米企業の取引を禁止。部品を購入できなくなったZTEは一時的に経営危機に陥った。
10月にはマイク・ペンス米副大統領が中国を激烈に批判する演説を行い、多くの人がそれを冷戦の開始宣言と受け止めたようだ。12月には米司法省の令状により、中国通信大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)副会長兼CFO(最高財務責任者)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)がカナダで逮捕された。
台湾の統一地方選挙で蔡英文総統の率いる民主進歩党が惨敗したが、大陸の圧力は緩むかも ANN WANG-REUTERS
■最大の危機は貿易戦争
2018年が終わりに近づくにつれ、中国の指導者たちは2019年がもっとよい年になることを願っているに違いない。
残念ながら、新しい年もトラブルの兆候は尽きない。最大の災厄は、米中貿易戦争のさらなる激化だ。2018年12月1日に両国は90日の休戦に同意した。だが2019年3月までに貿易協定を結ぶことができなければ、2000億ドル相当の中国からの輸入品に10〜25%の追加関税をかけるとトランプは宣言している。
南シナ海の南沙諸島で中国が建設した人工島 ERIK DE CASTRO-REUTERS
当面、3月1日までに貿易協定が整う可能性は低い。こんな短期間で複雑な貿易問題を解決することは困難だ。しかもアメリカ側の通商代表ロバート・ライトハイザーは対中強硬派だ。
アメリカは中国流の産業政策を批判し国有企業への補助金の停止を要求しているが、中国は同意しそうもない。アメリカが要求する厳しいコンプライアンスと制裁規定こそ、中国側には非常に不平等なものと映る。
貿易交渉が再び失敗すれば、その経済的な衝撃は中国のみならず世界中に及ぶ。まずは中国の経済成長率に影響が及び、現在の6%台から5%以下に低下する可能性がある。
金融緩和で成長を押し上げようとしても、公的債務がGDP比で300%に達していることから、効果は限定的だ。中国の国際収支は対米輸出の減少とともに悪化し、通貨・人民元の価値は中国から資本が逃げ出すにつれ、再び下落する。
習はあらゆる手を使ってこうした悪夢のシナリオを避けようとしている。彼が交渉の席で譲歩し、トランプとの貿易協定を結ぶことができれば、危機は一時的に回避されるだろう。
だが残念なことに、米中貿易戦争が休戦しても経済の悩みは解決されない。債務の大きさ、需要の縮小、競争力の低下からすると、中国の経済成長は今後も低迷するだろう。
■国民は軌道修正を望む
習の経済政策は綱渡りにならざるを得ない。経済の健全化には公的債務の削減と構造改革が必要だが、そこに踏み込めば短中期の成長は抑制される。
強引に進めれば多くの企業の資金は干上がり、製品への需要は減り、破産に追い込まれるだろう。一方、既に借金漬けになっている中国経済に一段の資金をつぎ込んで瀕死の企業を救済すれば、いずれ成長は止まり、将来の危機が深刻化する。
その間にも、アメリカは技術の優位性を保護するために、中国のハイテク産業にさらに圧力を加えるだろう。この点で2019年に注目すべきは、カナダで逮捕されたファーウェイの孟の運命だ。カナダ当局が彼女をアメリカに引き渡せば、中国はカナダに手厳しい報復をするだけでなく、米中関係に新たな危機が訪れる。
2019年に米中関係は底を打つまで悪化し続けるだろう。そして習は、アメリカに強力な対中連合をつくらせないように、外交政策に戦略的な調整を加えるとみられている。習の新たな微笑外交の標的は東アジア、特に日本だ。
北京のモーターショーで、中国の電気自動車メーカーNIOが発表したラグジュアリー車に試乗する中間層の市民 DAMIR SAGOLJ-REUTERS
2018年にも日本との和解を模索した習は、さらに日中関係の改善を図るだろう。2019年の日本への公式訪問は極めて重要なものになる。だが習がどれほど頑張っても、効果は限られる。安倍晋三首相は、象徴的あるいは戦略的な善意のそぶりにだまされそうもないからだ。
新たな微笑外交の一環として、中国は東アジアにおける攻撃的な領有権の主張を少し和らげるかもしれない。台湾への圧力も緩むはずだ。独立志向の与党・民主進歩党が2018年11月の地方選挙で惨敗を喫したことで、中国は安堵したからだ。
中国の軍部は南シナ海で人工島の建設を続けているが、海上で偶然に米中の紛争が勃発する可能性は減った。中国は無敵の米第7艦隊との交戦も、アメリカとの緊張関係を無駄に高めることも望んでいないからだ。
国内に関しては、2019年はひたすら苦境を切り抜けていく年になりそうだ。表面的には、政治は安定しているようにみえる。習の権力に差し迫った脅威を与えるものはない。だがエリート層には、習の絶大な権力に対する不安と疑念が広がっている。
習がこの6年で推進した政策は、約束した成果を上げていない。多くの国民が一定の軌道修正を望んでいる。そこには、習が展開する個人崇拝的な宣伝や思想統制を抑え、民間部門との信頼関係を再構築し、一帯一路構想のような壮大な戦略の規模縮小などが含まれるだろう。
だが12月18日に改革開放政策40周年記念大会で行った習の演説からすると、軌道修正がすぐに行われる可能性は低い。この演説で、習は2012年以来の自分の実績を擁護した。2019年にその流れを変えることは考えにくい。独裁者による自発的な路線変更は弱さの証しで、挑戦者に付け入る隙を与えることになってしまうからだ。
従って、国内政策で最も可能性が高いのは漸進的な調整であり、臨機応変な対応だ。全体として、中国が向かう方向が明確に示されることはない。習とその取り巻きは不測の事態に反応し、当座の対策でその場をしのごうとするだろう。
こうした応急手当ては、中国が2019年を乗り切る役に立つかもしれないが、この国が国内外で抱える根本的な危機の解決にはつながらないだろう。それどころか、危機は確実に深まっていきそうだ。
<2019年1月1/8日号掲載>
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— ニューズウィーク日本版 (@Newsweek_JAPAN) 2018年12月27日
2019年の中国を読む:「新皇帝」習近平の内憂外患。
— 💗山岸由花子💗 (@Love_Deluxe_YY) 2018年12月26日
独裁的な権力を確保した習近平に、難敵トランプとエリートの反乱が迫る。貿易戦争は続き、国民は軌道修正を望んでいる。https://t.co/rt7cqxmoC5
2019年の中国を読む:「新皇帝」習近平の内憂外患|ニューズウィーク日本版 https://t.co/IMdyQCTHGy習近平は来年3月まで米国との貿易協定を締結できるのか。知的財産の搾取、中国への進出企業から強制的な技術移転、国有企業への巨額の補助金、このような不公平な貿易が問題である。人民元が下落か。
— 渡部篤 (@watanabeatushi) 2018年12月26日