グーグル検索で「愚か者」から「独裁者」になったトランプ ホワイトハウス「完全崩壊」
山本大輔2018.12.24 14:21AERA#ドナルド・トランプ
11月下旬、メキシコとの国境にある壁に鉄条網を設置する米海兵隊員たち。中南米から米国に向けて大挙してきた移民キャラバンを例に挙げ、トランプ大統領は広範囲にわたる国境の壁建設の必要性を訴えている (c)朝日新聞社
11月下旬、メキシコとの国境にある壁に鉄条網を設置する米海兵隊員たち。中南米から米国に向けて大挙してきた移民キャラバンを例に挙げ、トランプ大統領は広範囲にわたる国境の壁建設の必要性を訴えている (c)朝日新聞社
連鎖する政府高官の辞意表明や予算案をめぐる対立、政府機関の一部閉鎖。マティス国防長官が辞表を出した12月20日以降も米政権を取り巻く混乱は続き、不安定さが際立つ中での年末となった。火種は自分自身なのに、率先して火に油を注ぐ言動を繰り返すトランプ大統領。火消し役不在の米国政治は、炎上したまま新年を迎える。
クリスマス前最後の週末だった12月22、23両日、トランプ大統領はフロリダでの休暇を延期し、ワシントンにいた。大統領が望むメキシコ国境の壁建設費をめぐる議会での与野党調整が決裂し、期限内の可決ができなかった予算案の対応を強いられたためだ。クリスマス休暇に入った上下両院で次の審議は27日までなく、その間の予算は失効。国務省など一部の政府機関が閉鎖状態に追い込まれた。
国境の壁のデザイン図まで投稿して壁建設の重要性を連日ツイートし、予算を通すよう議会に圧力をかけていた大統領だが、22日夜になって突然、思い出したようにマティス国防長官について書き込んだ。
「オバマ大統領に不名誉にも(中央軍司令官を)クビにされたジム・マティスに、私は再びチャンスを与えた。(中略)同盟国はとても重要だが、それは彼らが米国を利用しようとしない場合の話だ」
マティス長官は20日に提出した辞表の中で、大統領に国際連携の重要性を説き、同盟国に敬意を示すよう訴えていた。
このツイートの20分前には、長官の辞意表明につながったとされる米軍のシリア撤退についても大統領は言及。米兵を母国に戻す決断は通常なら評価されるのに、トランプ大統領だから批判されたとして、自身を「標的とするメディアのフェイクニュース」の問題だと強調した。
トランプ政権に関する複数の書籍や分析記事によると、報道を極度に気にするトランプ大統領は、メディア中毒になっているという。主要テレビ局で政治討論などの報道番組がある週末は、すぐにツイートできるようパソコンをそばに置いたまま、可能な限り毎週見るらしい。マティス長官へのツイートが突然復活したのも、直前の番組で議論となったからだ。トランプ大統領は23日朝、2019年1月1日付でパトリック・シャナハン国防副長官を国防長官代行とする人事を発表。AFP通信によると、長官の辞表に関する報道に気分を害したと伝えられており、19年2月末だった長官の辞任時期を2カ月前倒しさせた。
次のページシリア撤退をめぐる週末のツイートは、もう一つあった
シリア撤退をめぐる週末のツイートは、もう一つあった。
「15年にオバマ大統領に任命され、私は知りもしないブレット・マクガークが2月の任期を待たずに辞める。身勝手? 何でもないことをフェイクニュースが一大事に仕立てている」
マクガーク氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討で米軍が率いてきた有志連合の調整を担当する米大統領特使。ISの掃討は終わっていないと主張してきた。米メディアによると、マティス長官が辞意を表明した翌日の21日、ポンペオ国務長官に年内の辞任を伝えたという。ISを掃討したとしてシリア撤退を強行した大統領への抗議の辞任が連鎖した形だ。
マティス長官の辞意表明をめぐっては、米国外からも懸念が示された。ロイター通信がそのいくつかを紹介している。
「マティス氏は軍人のみならず外交官としても多くの尊敬を得ている」(北大西洋条約機構=NATO=報道官)
「マティス氏はトランプ大統領の最も悪い性質を抑制し、NATOおよび多国間主義を強く支持してきた」(欧州議会議員)
全てはトランプ政権の米国第一主義への懸念であることを理解せず、単にメディアに責任転嫁する大統領の姿勢が、国際連携や同盟を軽視する姿勢をかえって浮き彫りにしている。
大統領選挙中から広報を担当し、ホワイトハウス広報部長も務めたホープ・ヒックス氏は再三、「自分で自分を銃撃している」などとしてツイートの自粛を求めてきた。ツイートの原案作りや校閲なども提案したが、大統領は取り合わず、書きたい時に自由に書くという悪癖は止まらなかった。いつ、どんなツイートが出るのか、政権内部で知る人はおらず、ヒックス氏が3月に政権を去った後はツイートに苦言を呈す人物もいない。
報道は過剰に気にかけるのに、閣僚や政府高官の話には耳を傾けない。大統領は日常的に上がってくる重要課題の報告書には目を通さず、ブリーフィングにも興味を示さない。事前の周到な準備は「第六感」を鈍らせる。自身が要請した内容の最終文書にサインすることしか意義を見いださないのだという。
次のページホワイトハウスの内情を描写した暴露本にはこんな言葉が…
そんなホワイトハウスの内情を描写した暴露本『FEAR(訳書名・恐怖の男)』で、コーン前国家経済会議議長の言葉が紹介されている。
「あまりにも異常で混乱が激しく、いつまで政権にいられるか自信がない。現実的で意味あるブリーフィングをしても、大統領が聞く耳を持つことは絶対にない。最初から結論ありきだ」
同盟国との連帯や国際的な枠組みの尊重を訴えてきたコーン前議長やティラーソン前国務長官、マティス国防長官がたびたび直面した問題だった。それならば、と3者は時に協力し、大統領が求める文書の作成にわざと時間をかけたり、合同で企画した会議で大統領を囲い込んだりして、過剰な自国優先政策を阻止しようと躍起になってきた。
一方で、特に保護主義路線を推進するロス商務長官やナバロ通商担当補佐官は、国際協調派を排除した形で大統領と個別に政策を練ったり、大統領執務室にアポなしで自由に行き来したりした。ムニューシン財務長官は国際協調派に近寄ったり離れたりしながら、最後はトランプ大統領の言いなりだ。家族であることを武器とする長女イバンカ夫妻は、さらに自由な振る舞いを黙認されている。
それぞれが独断で行動することが当たり前になって、ホワイトハウスの秩序は完全に崩壊。全てを管理する権限を持ち、ホワイトハウスで最も重職であるはずの首席補佐官の存在は軽視され、プリーバス氏に代わって首席補佐官についていたケリー氏も年内で辞任する。そんな首席補佐官には誰もなろうとはせず、ケリー氏の後任には代行を置くというありさまだ。
政権発足から2年、国際協調派は次々と辞表を出し、政権に残ったのは米国第一主義派だけになった。マティス長官の辞意表明が各国に衝撃と懸念を与えたのは、政権に残る国際協調派の最後の一人だったからだ。結果的に政権内部から異論者の追い出しに成功したトランプ政権は、19年に向け、米国第一主義の牙を一層むき出しにする環境を整えたことになる。
18年7月、グーグルの画像検索で「idiot(愚か者)」と入力すると、トランプ大統領の写真が多く出てくることが話題になった。いま「dictator(独裁者)」と入力すると、ヒトラーなどと並びトランプ大統領の写真が複数枚出てくる。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長よりもはるかに多い。新年を迎えるにあたり、これが現実とならないことを祈りたい。 (アエラ編集部 山本大輔)
※AERAオンライン限定記事
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