アメリカの支配力低下によってアメリカやサウジアラビアで権力抗争が激化
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2018.11.03 櫻井ジャーナル
サウジアラビアが揺れている。ドナルド・トランプ米大統領がサウジアラビア王制の脆弱さを口にしたのは今年(2018年)10月2日。アメリカ軍の支えがなければ2週間しか体制は維持できないと指摘したのだ。この段階でアメリカとサウジアラビアとの間に隙間風が吹きはじめている。 その10月2日、サルマン皇太子の人脈と対立関係にあるジャマル・カショーギがトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア領事館へ入ったまま行方不明になった。その日に殺された可能性が高いと見られている。この事件を明らかにしたのはトルコ政府だ。 モハマド・ビン・サルマン皇太子はトランプやイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と近いのだが、アメリカとの関係がギクシャクし始めていたことも確か。2017年10月にサウジアラビアのサルマン国王がロシアを訪問、防空システムのS-400購入で合意するなど関係を強めようとしている。その一方でアメリカの防空システムTHAAD(終末高高度地域防衛)システムの導入に関しては動きが鈍かった。 サウジアラビアはアメリカの支配システムを支える重要な柱のひとつである。リチャード・ニクソン大統領は1971年8月にドルと金との交換停止を発表、ブレトン・ウッズ体制は崩壊し、世界の主要国は1973年から変動相場制へ移行していく。この新しいシステムの中でドルを支える仕組みのひとつがペトロダラー。石油取引の決済をドルに限定し、産油国へ集ったドルをアメリカへ還流させるという仕組みだ。その中心にはサウジアラビアが存在している。 集まったドルを産油国は財務省証券や高額兵器の購入といった形でアメリカへ還流させる。日本の場合はドルと工業製品を交換、ドルは同じようにアメリカへ還流させている。日本の巨大企業は受け取ったドルを資産として手元に置き、政府は還流させるドルを集めるために庶民の富を使う。つまり、アメリカとの貿易で日本の大企業が儲かるほど日本の庶民は貧困化していく。その一方、アメリカ支配層を助ける仕組みを維持する代償として、産油国や日本のエリートたちは地位と収入を保証される。 権力基盤の弱い独裁者をアメリカ支配層は望んでいる。サウジアラビアも日本も支配層の権力基盤は弱く、アメリカ支配層なしに地位を維持できない。「2週間しか体制は維持できない」というトランプの発言はこうした状況を指摘している。日本でもアメリカ支配層の権益、戦略に逆らった「実力者」は排除されてきた。 21世紀にはいってウラジミル・プーチンはロシアを再独立させたが、当初は容易に再属国化できるとアメリカ支配層は考えていた。例えば、アメリカ支配層の機関誌的な存在であるフォーリン・アフェアーズ誌の2006年3/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文では、アメリカ軍の先制第1撃でロシアと中国の長距離核兵器を破壊できるようになる日は近いと主張されている。つまり、アメリカはロシアと中国との核戦争で一方的に勝てると見通している。ボリス・エリツィン時代に破壊されたロシアの経済や軍事力はプーチン政権になっても回復していないと見ていたのだ。 そして2008年8月7日、ジョージアのミヘイル・サーカシビリ大統領は分離独立派に対して対話を訴えてから8時間後に南オセチアを奇襲攻撃した。ジョージアは2001年以降、イスラエルの軍事会社(つまりイスラエル政府)から無人飛行機、暗視装置、対航空機装置、砲弾、ロケット、電子システムなどを含む武器/兵器を提供され、将兵は軍事訓練を受けていた。 このサーカシビリ政権の閣僚には流暢なヘブライ語を話せるふたりの人物が含まれている。ひとりは国防大臣のダビト・ケゼラシビリであり、もうひとりは南オセチア問題で交渉を担当しているテムル・ヤコバシビリだ。ケゼラシビリはイスラエルの市民権を持っていたことがあるという。それだけでなく、2008年1月から4月にかけて、アメリカの傭兵会社MPRIとアメリカン・システムズが元特殊部隊員を派遣、同年7月10日にはコンドリーサ・ライス国務長官がジョージアを訪問している。 つまり、2008年の奇襲攻撃はイスラエルとアメリカの支配層が準備万端整えて実行されたのだ。この奇襲攻撃はロシア軍の反撃でジョージア軍が惨敗しているが、イスラエル軍とアメリカ軍がロシア軍て通常兵器で衝突した場合の結果を暗示している。 その奇襲攻撃の翌月、アメリカの大手投資会社リーマン・ブラザーズ・ホールディングズが連邦倒産法の適用を申請した。当時、アメリカの金融システムは破綻状態だったが、この投資会社の倒産を利用して超法規的な救済を実行した。その尻拭いを強いられたのは西側の庶民だ。大きすぎて潰せない、大きすぎて罪に問えないということで、資本主義国は無法時代に入った。 おそらく、こうした危機を軍事侵略で切り抜けようとしたのだろうが、その目論見はロシアによって潰される。そのロシアに対する攻撃の一環としてバラク・オバマ政権はウクライナのネオ・ナチを利用して2014年2月にキエフでクーデターを成功させるが、クリミアやドンバスの制圧には失敗する。こうした様子を見ていた中国はこの年からアメリカから離反、ロシアと戦略的な同盟関係に入る。 アメリカ支配層が中東でダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)を売り出したのは2014年の前半。この年の夏から石油相場が暴落しているが、これはアメリカ政府がサウジアラビアの協力を受けて実行したと言われている。WTIの場合、2014年6月には1バーレルあたり100ドルを超していたが、2009年1月には30ドル台まで下がっている。 この相場下落でロシア経済を揺さぶろうとしたのだろうが、ロシアよりもサウジアラビア、アメリカ、イギリスの方が大きなダメージを受けた。2014年に390億ドルの財政赤字が生じ、15年には980億ドルへ膨らんだと言われている。伝えられるところによると、サウジアラビア政府から巨大建設企業へ支払われるべきものが支払われず、兵士や労働者の中には賃金を受け取れない人も出たという。兵士はインド、パキスタン、スリランカの出身者が多く、労働者の大半も出稼ぎだ。サウジアラビアはイエメンに対する直接的な軍事介入を始めたのは2015年3月のことだった。イエメンへの軍事侵略はイエメンに破壊と殺戮をもたらしたが、戦争の泥沼化でサウジアラビアも苦しむことになる。 アメリカ支配層に従属することでサウジアラビアの支配層は地位と富を保証されてきたのだが、アメリカの戦略によって、サウジアラビアの支配システムを揺るがす事態になっている。しかもアメリカ支配層の内部で対立が激化、それはサウジアラビアやイスラエルにおける権力抗争とも連動している。アメリカを中心とする支配システムが不安定化、通常では外に漏れてこない支配システムの暗部の一端が明るみに出始めた。 おそらく、韓国はアメリカを中心とする支配システムに見切りをつけたが、日本はあくまでもアメリカに従うつもりのようだ。 |