トランプがしかける「貿易戦争」 本格化すれば世界混乱?
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180904-00000056-sasahi-int
AERA dot. 9/5(水) 16:00配信 月刊ジュニアエラ 2018年9月号より

6月に行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、ドイツのメルケル首相(中央)をはじめ、各国の首脳がアメリカの貿易政策を批判した(写真:Getty Images)
米中間で勃発した「貿易戦争」に、世界中が巻き込まれようとしている。なぜこうなったのか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞GLOBE副編集長・五十嵐大介さんの解説を紹介しよう。
* * *
トランプ米大統領は7月6日、中国がアメリカの技術を不当に奪っているなどとして、中国からアメリカに輸入される製品340億ドル(約3.8兆円)分に高い税金(関税)をかけ始めた。トランプ氏はさらなる関税をかける姿勢を示す一方、中国側も仕返しに踏み切り、世界の二大経済大国である米中が「貿易戦争」に突入した。
対象はハイテク製品や電子部品など818品目で、25%の関税を新たにかけた。第2弾として、160億ドル分の輸入品にも高い関税をかける方針だ。
さらにトランプ政権は7月10日、中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分に高い関税をかけるとして、6031品目を発表した。農産物や衣類など身近な製品を含む幅広い品目が対象で、10%の関税上乗せを検討し、8月末以降に判断するという。実施されれば、高関税の対象は約2500億ドルと、中国からアメリカへの輸入総額の約半分にのぼる。アメリカの消費者にも影響は大きい。
これに対して、中国側も反撃に出た。7月6日、アメリカからの輸入が多い大豆や食肉、自動車など545品目に、アメリカと同額の輸入品340億ドル分の高い関税をかけた。
トランプ氏が貿易分野で強硬姿勢に出るのは、今年11月の中間選挙に向け、支持者にアピールをしたいからだ。トランプ氏は2016年の大統領選挙で、「中国やメキシコから安い製品が入ってきて、仕事を奪っている」と主張。製造業が衰退したラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる中西部の州で白人労働者らによる支持を伸ばし、勝利の原動力となった。
中国への高関税に先立ち、トランプ政権は3月以降、中国だけでなく、EUや日本、カナダ、メキシコなど幅広い国からの鉄鋼やアルミ製品に対しても、高い関税をかけ始めた。EUやカナダなどは高関税で反撃に出たが、日本は「(仕返しの)応酬はどの国の利益にもならない」(世耕弘成経済産業大臣)として、仕返しには踏み切っていない。トランプ氏は、自動車の輸入品に対しても高関税を検討しており、実際に発動されれば、アメリカへの輸出が多い日本にとっても打撃となる。
トランプ氏は2国間の「ディール(取引)」を重視しており、今後は中国との交渉で何らかの合意ができるかがポイントとなる。報復合戦がエスカレートして本格的な貿易戦争になれば、米中両国だけでなく、世界経済にも影響を与えるのは確実だ。(解説/朝日新聞GLOBE副編集長・五十嵐大介)
【キーワード:関税】
外国からの輸入品に対し、自分の国の製品を守るためにかける税金。世界の貿易ルールを決めている世界貿易機関(WTO)では、加盟国・地域に一定率以上の関税をかけないよう定めている。トランプ政権が始めた一方的な関税はWTOのルール違反とみられており、報復合戦が広がれば、WTO自体の存在意義も揺らぐ。