日銀の資産規模がGDPに迫る異常な膨張、海外からは「無謀」の声
https://diamond.jp/articles/-/178342
2018.8.30 加藤 出:東短リサーチ代表取締役社長 ダイヤモンド・オンライン

日本銀行の資産はどこまで膨らんでいくのか、日銀の関係者は総裁も含めて誰も予見できていない Photo by Ryosuke Shimizu
「日本銀行は世界の他の中央銀行を上回る金融緩和策を行っている。これを勇敢というよりも無謀だと見なしている人は正しい」
国際決済銀行(BIS)の元チーフエコノミスト、ビル・ホワイト氏は4年近く前の2014年11月、すでにそのように述べていた。
日銀の資産規模が日本の名目国内総生産(GDP)を抜いたと最近報じられた。8月10日時点の日銀資産は548.9兆円。対する名目GDPは17年度(今年3月まで)で548.6兆円、今年4〜6月期の年率換算では551.2兆円だ。よって「日銀資産が名目GDPを抜きつつある」という表現が、より正確かとは思われる。
とはいえ、日銀資産が異常な膨張を示していることは間違いない。名目GDPに対する日銀資産の比率は、リーマンショック前の07年で13%、白川方明前総裁時代の終盤で33%だった。その後、13年4月から黒田東彦現総裁の下で、インフレ目標を目指して日銀は、市場から国債や上場投資信託(ETF)などを大量に買い取り始めた。その結果、同比率は100%に達するまでになった。
米国の場合、この4〜6月期の名目GDP(年率換算)に対する現在の米連邦準備制度理事会(FRB)資産の比率は21%だ。最も膨張していたジャネット・イエレン前議長時代でも26%程度である。
戦時中と比較するために日本の名目国民総生産(GNP)に対する日銀資産の比率を見てみると、膨大な軍事費を日銀マネーが支えていた終戦間際の1945年3月でも40%台前半だった。一方、現在の同比率は約96%だ。戦争を行っているわけでもないのに、今の日銀資産は異様な姿になっている。
FRB、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行はすでにかじを切って金融政策の正常化へ向かっている。しかし、日銀は、インフレ率が2%を安定的に超えるようになるまで資産をまだまだ膨張させていくつもりだ。
だが、日本の物価がそうなる時期は全く見通せない。多くの日銀幹部は、黒田総裁の任期が終わる23年春になってもインフレ率は2%を超えないかもしれない、と予想し始めているだろう。
つまり、日銀資産がどこまで膨張するのか、総裁も含めて誰も予見できていない。日銀資産の対名目GDP比100%は通過点でしかない。「日銀は勇敢というよりも無謀」というホワイト氏の指摘が思い出される。
FRBは12年暮れに国債等について限度を決めずに買い続ける量的緩和策第3弾を決定した。だが、資産が膨張し過ぎると出口時に巨額の損失が生じるとの懸念から、ベン・バーナンキ元議長は、早くも5カ月後の13年5月に同政策のテーパリング(縮小)を市場に示唆する。当時インフレ率はまだ目標の2%に達していなかった。
長期的には、日銀が国債などを買い取りながら資産を膨張させていくと、財政規律上の感覚まひが多方面で深刻化する問題も懸念される。8月25日号でも触れたが、気を付けないとそれはベネズエラの状況に近づいていくことになる。
最近、筆者は講演会場で、「なぜ日銀はインフレ率2%を目指すのか」という質問を頻繁に受けている。不思議に感じている国民は多いといえる。カナダでは5年ごとに望ましいインフレ目標に関する議論が行われている。今の超金融緩和策の副作用も多々心配されているだけに、日本でもインフレ目標の在り方をあらためて議論するべきではないだろうか。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)