大手メディアが軒並み読み間違う、トランプ政権「次の一手」 インサイド情報は報道とは真逆だった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56829
2018.08.04 歳川 隆雄 ジャーナリスト 「インサイドライン」編集長 現代ビジネス
報道は「インサイド情報」と真逆…混迷の米事情
米ブルームバーグ通信は7月31日夜(日本時間8月1日未明)、米国と中国は全面的な貿易戦争の回避を目指し、交渉再開を模索している、と報じた。
同通信によれば、スティーブン・ムニューシン米財務長官と中国の劉鶴副首相の各代理が非公開協議を行い、正式な交渉を再開する方法を探っており、具体的な日程や議題、協議の形式はまだ固まっていないものの、さらなる交渉が必要との点でムニューシン、劉鶴両氏は一致しているというのである。
だが筆者は、米国人金融関係者の友人が奇しくも同日夜にホワイトハウスの国家経済会議(NEC。ラリー・クドロー委員長)幹部から米中貿易戦争の見通しについて受けたブリーフィングの内容を聞かされていた。
対中強硬派の一翼を担うラリー・クドロー氏(Photo by GettyImages)
それはブルームバーグ通信報道と真逆の内容であった。
まず、クドローNEC委員長(経済担当大統領補佐官)である。7月29日のCNNテレビの人気番組「State of the Union」に出演したクドロー大統領補佐官は米中の関税報復合戦について、次のように語っていた。
トランプ政権入りする前のテレビMC(アンカーマン)時代に「関税は増税と同じ」と批判していたことを質されると、「関税は正しい目的があれば良いことだ。その例が中国である」と開き直った上で、この間の欧州連合(EU)の対応を評価する一方で、世界の貿易枠組みが瓦解したのは国際ルールを無視した中国に責任がある、と断じたのだ。
ボスのクドロー氏が「中国悪者」論者である以上、部下のNEC幹部が米中高官協議再開を言い募るのは難しいのは当然である。加えて、現在のトランプ政権内で対中通商・貿易政策に関して発言力があるのはクドロー氏、ピーター・ナバロ大統領補佐官(通商担当)、そしてロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表の「対中強硬派トリオ」であることも無視できまい。
案の定、ドナルド・トランプ大統領は8月1日、さらなる対中エスカレート策を打ち出した。2000億ドル分(約22兆円)の家具、コンピューター部品、農産加工品など中国製輸入品の関税率を10%から25%に引き上げるようライトハイザーUSTR代表に指示したのだ。
大型人事もトランプ氏の「気分次第」?
誰もトランプ大統領を止めることができない。こうした中で、ワシントンの情報筋は新たな幹部人事が8月末までに行われると伝えて来た。
早くから次に政権を去る高官候補として名前が挙がっていたのは、ジョン・ケリー大統領首席補佐官(退役海兵隊大将)とジェフ・セッションズ司法長官の2人である。
ケリー首席補佐官については、一時期、ホワイトハウスに軍隊的規律を導入して情報漏洩阻止や秩序回復を目指して娘婿であるジャレッド・クシュナー大統領上級顧問や娘のイバンカ・トランプ大統領補佐官といえども大統領との面会には自分の許可を必要とするとしたことで、米メディアから拍手喝采を浴びたことがあった。
ところが、やり過ぎてトランプ氏から不興を買い、ケリー氏退任は時間の問題という見方が支配的になった。一方のセッションズ氏も内務長官として、ロシアゲート捜査で突っ走るモラー特別検査官やFBI(連邦捜査局)を制御できていないと落第点をつけられた。
大統領首席補佐官は本来、ホワイトハウスの運営すべてに責任を持つ権力ポストである。トランプ大統領がそのChief of Staff(大統領首席補佐官)の助言に耳を貸さないどころか、諌言する側近すべてを疎ましく思うのだから、もはや後任の大統領首席補佐官はイバンカ氏にすれば良いのではないかと言われるようになったほどだ。
それでも、ワシントンDCのベルトウェイ内(日本で言えば永田町と霞が関)関係者の間では、有力後任候補としてミック・マルバニー行政管理予算局長とニック・エイヤ−ズ副大統領首席補佐官の名前が取り沙汰されている。
共和党の減税策6ヵ月記念イベントで、イバンカ・トランプ氏と抱擁を交わすミック・マルバニー氏(Photo by GettyImages)
日替わりメニューとはよく言ったものだ。トランプ氏の朝令暮改のことである。日を置かずして今度は、「日本経済新聞」(8月2日付朝刊)が、複数の米メディアが報道したとして、トランプ氏がケリー氏に2020年11月の次期大統領選まで留任を要請したと報じたのだ。
では、ケリー大統領首席補佐官は月内に辞任するのか、それとも続投するのか。結論は、どちらになってもホワイトハウスの運営には変わりがないということである。ひとたびトランプ氏に不信感を与えてしまったケリー氏は今や人事権を含め巨大な権限を持つ大統領首席補佐官として機能していないのだから。