紀州のドン・ファンと安倍首相に「ホラ吹きの品格」なし!
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2018/07/08/post-2047.html
サンデー毎日 2018年7月 8日号
牧太郎の青い空白い雲/675
「美女4000人抱いた"紀州のドン・ファン"が、55歳下モデルと結婚!」という記事を読んだのは、今年2月だった。
「昨年秋に羽田空港で転んだ私を優しく助けてくれたのがファッションモデルのSちゃんでありました。もちろん計算ずくの転倒でありましてコケるのも歳の功、亀の甲であります。『ありがとうねえ。お礼にお食事でもいかがですか?』。後日、Sちゃんを一流料亭で歓待した」
といったことが書いてあった。
「これまで美女4000人に延べ30億円を貢いだ」という野崎幸助さんは、京都・清水寺の舞台から飛び降りる仕草も見せ「キミと結婚できなかったらボクはここから飛び降りますよ」とプロポーズ。コックリ頷(うなず)くSちゃんの笑顔。気が変わると困るので、戸籍を取らせて2月8日朝に、市役所に一緒に行って電撃入籍した......というのだ。
スゲ〜男がいるもんだ。話半分としても、カネもオンナも人並み外れている。妙に感動した。
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その野崎さんが急性覚醒剤中毒で怪死した。享年77歳。他殺か......と警察に疑われた「55歳下の妻」が、最近になってメディアに洗いざらい話して「ドン・ファンの嘘(うそ)」が次々に発覚した。飛行場で会った!なんて真っ赤な嘘。「女衒(ぜげん)」のような人物に紹介されただけ。「絶倫」を自慢していたが、幼妻によれば、セックスなんてまるでない「夫婦関係」だったという。
カネを稼いだのは事実らしいが、一緒になったキッカケは作り話で、単なる「高級買春」ではなかったのか?
亡くなった野崎さんに失礼だが、僕にはそうとしか思えない。要するに、紀州のドン・ファンは前代未聞の「ホラ吹き」だった。
それにしても、こんな下品な嘘をついたのは、人一倍「孤独」だったのではあるまいか?
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人間は多かれ少なかれ「嘘」をつく。江戸時代の「うそくらべ見立(みたて)評判記」では、東の大関は「女なんてきらいだという若者」、西の大関は「早く死にたいという年寄り」。以下、「尼になりたいという娘」「惚(ほ)れましたという茶屋女」「元値じゃという商人」「生きておりますという魚売り」「この女は愚僧の姪(めい)でござる」......。思わず、頷いてしまう「愉快な嘘」がランクインしている。
「尼になりたい」失恋娘には、「いい男」を探してやろう!という心境にもなる。この種の"うそ"は、「ホラ吹き」ではない。まあ、社交上の「決まり文句」みたいなものだ。
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政治家の嘘はどうだろう?。
「ホラ吹き」なのか? 悪気のない「決まり文句」なのか?
当方から見ると、安倍晋三首相は朝起きると「嘘」、歯を磨いてから「嘘」、官邸に入ると「嘘」、昼飯を食べている合間にも「嘘」......。まあ、安倍さんに限らず、政治家は日常茶飯、社交儀礼の如(ごと)く「嘘」をつく。
それは許そう!と思っている。選挙に勝たなければ「おまんまの食い上げ」になるから、奇麗事を言うのは仕方がない。だから、国民は「嘘」と知りつつ、見ないフリをする。
森友疑惑でも加計(かけ)騒動でも「嘘」と知りつつ、知らないフリをした。「ホラ吹き」を首相に選んだのだから、仕方がない。
でも「嘘」にも限界がある。失礼ながら、安倍さんは「オレの嘘はバレない!」と思い違いしているのではないか。「あれだけ嘘をついても、安倍内閣の支持率は下がっていないじゃないか?」と自信満々なのだ。でも、国民は安倍流の「ホラ吹き」に疲れている。騙(だま)されるフリをするのに疲れた。
ホンのちょっと前まで北朝鮮に「最大限の圧力が必要だ」と主張していたのに、突然、猫撫(な)で声で「国交を正常化し、経済協力を行う用意がある」と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に秋波を送る。
世界は、恥知らずの「嘘」を嘲笑(あざわら)っているのではあるまいか?
何事も大袈裟(おおげさ)に言えば騙せる!と思うところは、紀州のドン・ファンに似ているのじゃないか?
「嘘」は孤独な男の悲しい習性だが、安倍さん、一国の指導者なんですよ! 「品格あるホラ吹き」になってくれ!