ブロック存続のための努力で、イタリアや他の反移民政権に譲歩したEU支配層
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2018年7月 1日 マスコミに載らない海外記事
公開日時: 2018年6月29日 14:24
編集日時: 2018年6月29日 16:27
Finian Cunningham
RT
欧州連合メルトダウンという悲観的予測にもかかわらず、今週の指導者サミットは、厄介な移民問題対処で、妥協による合意をまとめるのに成功したように見える。
とは言え“全員勝者”の微笑みの背後で、結局は、EUに、難民問題で、より強硬な政策をとるよう要求していたイタリアや他の政府が勝利したのは明らかだ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相は“ヨーロッパの解決策”を称賛した。ブリュッセルでの二日間にわたるサミット議長をつとめた欧州理事会のドナルド・トゥスク議長も、明らかな合意が得られたことを歓迎した。
マクロンとメルケルとトゥスクにとって、本当の懸念は、サミットで、加盟国間の本格的対立を生じることだったと憶測する向きもある。会談前、メルケルは、解決を見出すことが、EU存続の“運命を左右する”と警告した。EU懐疑派政府が対話に加わるかどうかさえ明らかではなく、28カ国が加盟するブロックが混乱状態になる恐れがあった。
移民を巡る何らかの機能する仕組みをEUが考え出せなければ、メルケルは国内政治危機にも直面していたのだ。彼女の連立相手、バイエルンを本拠とするキリスト教社会同盟が、メルケルが他のEU加盟諸国に、共通の方法をまとめ上げさせられなければベルリン政権を離脱すると脅していたのだ。
そこで結局、徹夜の“敵意に満ちた議論”後、EU指導者が“妥協”と“ヨーロッパの協力”を大いに称賛しているのは、実際は、ブロックが団結しているのに成功した安堵感なのだ。当面は。
サミット合意の文章は曖昧だ。この目標がいかに、あるいは実際に、実施されるのかは、まだ分からない。その場合、EU加盟諸国間でくすぶっている緊張と亀裂が再度沸き上がるだろう。
EUが、イタリアやオーストリアや他のポーランド、ハンガリー、チェコ共和国とスロバキアという、ヴィシェグラード4か国の反移民政権の要求の受け入れに動いたというのが目立った結果だ。これは、EU指導者が喧伝しているような“妥協”ではない。むしろ、EU懐疑派をなだめるための、ブリュッセル支配層とEU支持派政府による譲歩だったのだ。
新人のイタリア・ジュゼッペ・コンテ首相は、イタリアの要求に対処しないいかなる共同声明にも、イタリアは拒否権を発動すると事前に警告した。彼の恫喝は、特に、フランスとドイツに妥協を強いる上で、機能したように見える。
EUは、ヨーロッパ領に到着する前に、亡命希望者の手続きをするための“入国手続き施設”を北アフリカなどの地域の第三国に設置することに同意した。これは、イタリアとオーストリアが強く主張していたものだ。
オーストリアのセバスティアン・クルツ首相は、EUがこのアイデアを支持したことについて、こう述べた。“こうした、ヨーロッパ外の保護地域、安全地帯、入国センターなど、呼び方は様々なものを我々は長年要求してきたが、こうした考えがようやく勝利を得た。”
EU諸国内に、難民のための“手続きセンター”を設置するブリュッセルが財政負担する新たな概念もある。難民受け入れの上で最前線に立つ国として、国家経済に重い財政負担を負っていると、イタリアは苦情を言っていた。
合意後、コンテ首相は幸せそうに語った。“長い交渉だったが、今日からイタリアは、もう孤立していない。”
原則として、今後、イタリア領や、スペインやギリシャ領に入国する難民は、EU領に入国したものと見なし、亡命申請が認められた場合には、集団的責任で、受け入れ手続きをすることになる。
オーストリアやヴィシェグラード・グループに対する主要な譲歩は、今週のEU合意が、割り当てを基にした難民は受け入れないという彼らの主張を受け入れたことだ。調印された声明は、難民人数の分かち合いは“自主的に”行われるべきことを認めている。各国が移民受け入れを拒否することが認められることを意味している。ようやく先週、フランスのマクロンが、そうした国々に対する懲罰として、EU財政支援削減を課すよう主張した。
サミットの結論は、EUが加盟国に、移民を巡り国境警備を強化する権限を認め、イタリアや他の最前線に立っている国々が表明している、自分たちは不当な負担をさせられているという不平を、中央で、一層認識し、資金提供することだ。
とは言え、いわゆる最新の解決策が実際機能するかどうかは、これから試すことになる。提案されている北アフリカでの手続きセンター設置は、移民希望者に対する抑止力として機能する“人身売買業者のビジネスモデルを破壊するもの”としてもてはやされている。亡命に関わる国際法に違反するように見えるこの概念は、EUの法的、道徳的問題を引き起こしかねない。“強制収容所”に似ているという不愉快なイメージ問題もある。
EU内の難民自主的再定住は、実際にはどのように機能するのだろう? 負担分担が、イタリア、ギリシャやスペインによって、公正ではないと見なされた場合、フランスや、ドイツや他の内陸国家との緊張が盛り返しかねない。メルケルの気難しい連立政党CSUは、どう反応するがろう? 不可能な事をやろうとしているのだ。
とは言え、当面、EU懐疑派政府が、移民問題を巡る議論で勝利したように見える。ドイツのメルケルがかつて主張していた“門戸開放”政策は時代遅れのようだ。
EU指導者たちの明白な安堵感は、妥協案が見つかったことより、むしろブロックの致命的メルトダウンが避けられたことに起因する。これは、致命的な緊張のただの先送りにすぎないことが明らかになるかも知れない。
一様でない移民問題は、ブロック内で、分裂と緊張を引き起こしている問題の一つに過ぎない。これはEU国民間の他の不満に対する避雷針のようにも見える。公式数値で、ヨーロッパにやってくる難民の人数は、2015年の頂点と比較すると、過去二年間、実際急落した。この問題は、EU政権の現状に対する反対派を奮い立たせる手段として、EU懐疑派政党に利用されているという感覚もある。
ドイツ-フランスが支配するブリュッセルにより国家主権が損なわれているという感覚が、イギリスBrexitの大きな推進力だった。主権を巡る同様な不平は他のEU諸国や地域にも見られる。
EUの新自由主義経済政策を巡る憤りもある。各国の財政的自由に対する厳格な制限は、 ドイツに決定されていると受け取られているが、広範な大衆に過酷な緊縮政策を押しつけるものと見なされている。公共支出制限と国家債務支払いの一時停止への固執が、イタリア国民が“代替”EU懐疑派政党である五つ星運動と同盟に投票した主な理由の一つだ。
他の大きな不満の要因に、アメリカ率いるNATO軍事同盟、ヨーロッパの企業や雇用に打撃を与えている自滅的経済制裁というロシアに対する敵意へのEUの追従がある。EU加盟国内の一部の政党は、ワシントンの戦争商売をEUが理不尽に擁護することに対する大衆の不満を活用している。イタリアや他の国々は、モスクワ経済制裁を止め、ヨーロッパとロシアとの関係の適切な正常化に向かうよう要求している。
言い換えれば、今週の移民を巡る、EU指導者間の、最後の努力による見せ掛けの協定は、ブロックの決裂を脅かす亀裂を閉じようという必死の努力だ。EU懐疑派の不満をなだめるために、EU既存支配層が屈したのだ。しかしこの“解決”は、ブロックを脅かしているひびや割れ目を取り繕っているものに過ぎないことが明らかになる可能性もある。
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本コラムの主張、見解や意見は、もっぱら筆者のものであり、必ずしもRTのそれを代表するものではない。
Finian Cunninghamは、国際問題について多く書いており、彼の記事は複数言語で刊行されている。彼は農芸化学修士で、ジャーナリズムに進むまでは、イギリス、ケンブリッジの英国王立化学協会の科学編集者として勤務。彼は音楽家で、作詞家でもある。彼は約20年間、The Mirror、Irish TimesやIndependentを含む主要マスコミで、編集者、筆者として働いた。
記事原文のurl:https://www.rt.com/op-ed/431276-eu-summit-migrants-establishment/
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