銀行を救うため、日銀が9月に「量的緩和終了」を発表する可能性 欧米に便乗する最後の機会だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56212
2018.06.22 宿輪 純一 博士(経済学)・帝京大学経済学部教授 現代ビジネス
ひとり現状維持の日銀が追っかける理由
6月12日から19日、先進国の中央銀行の金融政策決定会合が集中する「金融政策ウィーク」となった。
結果は、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は予想通り利上げし、欧州中央銀行 (ECB)も、今年末での量的緩和政策終了を決定した。一方、日本銀行は現状維持であった。
今後もFRBは金利を上げ続ける。ECBも量的緩和を終了する。これにはドイツで賃金が上昇し、一方、足元の景気減速は一時的という判断がある。この点では、ECBは後段で説明する中銀の”信念”に基づいて仕事をしたのである。
重要な理由があった。イタリアのポピュリズム政権誕生である。新政権が、ECBが保有するイタリア国債を債務免除にしろとか、疑似通貨(無利子の短期証券:代用通貨)を発行したいとか訳の分からないことを言い始めたからである。
まさにECBおよび中央銀行にとっての危機である。そのような甘えを断ち切るために、同じイタリア人のドラキや南欧の中銀総裁たちが、”信念”に基づき量的緩和終了を強引にすすめたのである。
筆者はさすがだと思った。政策金利については、来年夏までは現在の水準を維持することになる。
日本では政治的な圧力もあり、なかなか金利を平常化できない。政策協調を旨とする先進国の中央銀行間の“協定”も守れていない。しかし、政策転換の兆候は出始めている。
まず物価目標の2%の「達成時期」を外した。時期を外した目標に意味があるのであろうか。政府の年金などの社会保証の計算に物価上昇率1%とおいている。日本銀行のレポートでもそもそも景気が良くならないのだから、物価は上がらない、という趣旨であった。
さらに、最近、黒田総裁が盛んに使うのが「リバーサルレート」という言葉である。金利というモノは下げれば下げるほど、景気は良くなるはずである。しかし、副作用として銀行の収益を悪化させ、逆に景気が悪くなるというモノでもある。
金融庁のレポートでも、「地方銀行のほとんどは営業赤字」という趣旨のレポートも出されている。
金融政策の変更には納得性が必要になる。
日本では低賃金の労働者の存在、新興国の安価な製品、ネット通販の普及により、もう物価が上がる余地は少なく、一方、この「リバーサルレート」の副作用を強調し、「銀行救済」のために量的緩和終了を実行するというのが今回の論理である。
ECBが中央銀行の意地を見せており、日本銀行もせざるをえない。
機は熟した。少なくともFRBが金利を上げている間に日銀も金利を上げなければならない。言い換えれば、日銀だけが金利を上げると日本の“トラウマ”である「円高」の可能性が上昇する。これは避けたい。
そこで筆者は、次のFRBの“大きい会議”の今年9月に合わせ、日本銀行は「今年度末」に量的緩和の縮小を発表する可能性が高いと考える。
そして、ECBと合わせ「来年夏」にはマイナス金利の解除をしなければ、FRBの利上げが終わってしまうか可能性がある。
ちなみに今回のFRBの利上げについて、日本の報道の解説では「3月ぶり」とか書かれている文面を目にすることがよくあるが、なんともである。
FRBの公開市場委員会(FOMC、日銀の政策決定会合に相当)は年に8回ある。2カ月続きの大きい会議と小さい会議があって、このうち後半の方(3月、6月、9月、12月)の大きい会議でしか、金融政策の変更はしない。やっても年4回。「3ヵ月ぶり」ではなく、「連続して」が正しい。
それが中央銀行の仕事だから
金融政策を司る中央銀行の業務には、机上では分からない、現場には現場の理論がある。
しかも、金融論の教科書では、各国の中央銀行を同じように十把一絡げに書いてあるが、そうではない。各国の中央銀行ごとに性質が全くといっていいほど違うのである。
金融における誤解で一番多いのが中央銀行の仕事である。銀行の銀行として「決済システム」(日本であれば日銀ネット)の整備は大前提である。そして、金融政策については、端的にいってしまえば「金利を上げる」ことが仕事なのである。
景気というものは、人間のカラダと一緒で調子がいいときもあるし、悪いときもある。その景気が悪くなった時に金利を下げれるように、平時の時に“できるだけ”金利を上げておくのが本当の仕事なのである。
これを「平常化」という。そこを分かっていない方が多い。日本銀行を含め、中央銀行の金利の引き上げを「勝ち」、引き下げを「負け」という。
もっといえば、金融、特に国際金融の世界は、教科書に書いていない協定、つまり握りが多数存在する。そして、それは様々な金融危機を経て、出来上がってきたものである。
たとえば、1987年にブラックマンデーが発生した。当時は先進国として米国・日本・西ドイツ(!)が世界の経済を牽引するという「機関車政策」なるものを行っていた。そして金利も一緒に下げていった。このことも日本のバブルの原因の1つであった。
何度か書いてきたが、両大戦の後、ハイパーインフレを経験したドイツは、本能的にインフレを嫌悪している。87年も西ドイツは、インフレ率が上昇したため、“いきなり”利上げをした。
その結果、米国ニューヨークの株式市場からドイツを始めとした欧州に向かって資金が急に流れた。これが87年のニューヨーク株価大暴落「ブラックマンデー」の構造である。この反省から、それ以降、「先進国は金融政策を協調する」ことになったのである。
2000年代になって、世界経済が「平常状態」になると、先進国中央銀行は協調して一斉に金利をあげた。米国FRBは5.25%まであげて、不動産バブルの崩壊まで続いた。
日本銀行も福井総裁の時に当時すでに導入していた量的緩和を終了し、ゼロ金利を解除した。これは先進国の中央銀行として当然の仕事であった。
最近も、米国FRBを始めとして、欧州、英国、カナダを始めとした先進国が、FRBに協調し、利上げないしは、量的緩和の縮小に動いている。
また注意したいのは、各国のベースとなっているインフレ率の違いである。
米国は個人消費支出(PCE)物価指数を使用する。そのためインフレ率も微妙に違う。さらに物価上昇のプロセスとして賃金上昇率が2.7%に達している。
これらのことを総合し、今年下期に物価上昇率2.1%を超えてくる。そのため、今年は4回金利を上げ、来年は3回、再来年は1回と考えている。これは自動的なプロセスなのである。
しかしながら、一方で、15年末から始まった引締め局面も2年半に達し、打ち止め観測も浮上しているのも事実である。政策金利の目標は3%弱、つまりあと4回とも考えている。
日銀の正常化政策はすでに始まっている
まさに最近でた「コーポレートガバナンスコード」にあるように、財務省と日本銀行の日本国債の持ち合いは“自分も”出来るだけ解消しなければならない。
日本の当局にとって、次なる目標は、国債を海外に売ることである。日本国債の金利は低すぎる。
以前、財務省の海外IRに同行したことがあったが、各国中銀等は購入するには、長期金利、つまり指標となる10年物国債利回りが1%は必要とのことであった。
現在は0%の日本の長期金利を上げるためにも、短期金利である政策金利の利上げが必要なのである。
日本の長期国債の国外投資家保有比率は足元約6%である。米国や欧州の場合、国外が約半分を保有している。海外保有比率が情報するということは、現在の国債(財政)が失ったバロメータ機能が復活することも想定でき、これは自浄機能となる。
日本銀行と金融庁は関係者と協力し国債のメカニズムも改革している。決済期間を欧米並みのT+1(約定日の翌営業日決済)とした。
現在でも、国際証券決済機関ユーロクリア経由で海外投資家も決済できる。さらに、国債の決済システム「日銀ネット」の海外接続「グローバルアクセス」を推進して、さらに利便性を高めようとしている。
これら一連の日本銀行の行動は、「異次元」量的緩和後の経済正常化へ向けてのものなのである。つまり、ポスト量的緩和に向け、動きが始まっているのである。