石油は「アメリカの世紀」を終わらせるだろうか?
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2018年5月22日 マスコミに載らない海外記事
2018年5月19日
F. William Engdahl
New Eastern Outlook
1941年、アメリカ支配体制インサイダーのヘンリー・ルースによって、ライフ誌論説で、誇らしげに宣言された「アメリカの世紀」は、石油支配と、世界石油支配のための果てし無く続く戦争の上に築かれていた。今皮肉なことに、アメリカ大統領による、違法で、一方的なイラン核合意離脱のおかげで、意図的ではないにせよ、まさに「アメリカの世紀」という世界覇権崩壊で、石油が重要な役割を演じることになっているのかも知れない。
ドル依存から離れるため、様々な国々の最近の拡大しつつある措置の各要素それ自体は、石油の売買をドルのみでおこなうよう他の国々に強制するワシントンの能力によるアメリカ・ドル支配を終わらせるには不十分だ。それでも、ワシントンの力による一方的な挑発や制裁行動のそれぞれが、わずか四年前には、可能あるいは現実的とは思われなかった解決策を、他の国々が見いだすよう強いている。
ヨーム・キップール戦争の後の、1973年石油価格ショック以来、ワシントンとウオール街は、サウジアラビア率いるOPECが、アメリカ・ドルでしか石油を売らせないように動いた。それが、アメリカ通貨への需要が、事実上、アメリカ経済の内部状態や、政府債務や赤字と無関係になることを保障していた。ヘンリー・キッシンジャーや他の連中が、当時、オイルダラー・リサイクリングと呼んだ体制は、アメリカが世界に戦力を投射する能力の極めて重要な基盤であり、同時に、中国やメキシコやアイルランドやロシアなどのような場所にすら移転する過程で、アメリカの主要大企業が、国内課税や投資から逃れることを可能にしていた。現時点で、かなりの数の国々の集団がドルを放棄して、他の通貨に移行したり、バーター貿易をしたりすれば、アメリカ金利の急増と、十年前のものより遥かに醜悪になるはずの新たなアメリカ金融危機を引き起こしかねない連鎖反応の出来事のきっかけになり得る。
制裁マニア、アメリカ
2001年9月11日以来、アメリカ政府は、アルカイダのようなテロ集団への資金供与を取り締まるはずの金融経済制裁の使用を、アメリカの世紀防衛のための戦争の中心的武器へと転換する過程に従事してきた。過激な新たな形の標的を絞った経済制裁をロシアに課するというアメリカ財務省による最近の決定は、アメリカ国民が彼らと事業をすることを禁じるだけでなく、そのような事業を行っているアメリカ国民ではない人々にも経済制裁を課すと威嚇し、更に過酷な新アメリカ経済制裁をイランに再び課すことが続いている。
トランプ政権は包括的共同作業計画 (JCPOA)、イラン核合意から一方的に離脱し、イラン石油を貿易している他の国々も、11月までに取引を段階的に縮小しなければ、いわゆる第二次経済制裁で、彼らも経済制裁に直面すると発表した。アメリカ財務省は、イラン石油貿易に関与している可能性のある主要国際再保険会社や外国銀行も標的にしている。最新のイラン経済制裁に、2012年会計年度の国防権限法1245条を正当化に利用している。
根拠のないアメリカの動きは、中国、ロシアや、イラン自身を含む主要な国々、可能性としてはEUにも、これまでになかったことだが、ドル離れするよう強いているのだ。
中国元による石油貿易
今年3月、中国は、元に基づく石油先物契約を開始した。先物は、現在の世界石油貿易の主要要素だ。アメリカ・ドルではない石油先物契約としては、初めてのものだ。新たな対イラン・アメリカ経済制裁まで、ワシントンは、本格的に受け入れられるとしても、何年もかかるやっかい者同然に見なしていた。今や、ドルでのイラン石油販売を阻止するアメリカの取り組みは、上海の石油先物や、一部の人々がオイル元と呼ぶものの前払いに大きな弾みをつける可能性がある。
中国は、イラン石油の圧倒的な最大顧客で、イランの一日約250万バレルの最近の輸出総計のうちの一日約650,000バレルを輸入している。ブルームバーグの最近のレポートによれば、インドは第二位で、一日約500,000バレル輸入している。韓国は第三位で、313,000 bpd、更にトルコは第四位で、一日165,000バレルだ。最近ドルから自立する願望を明かにしたイランが、中国元で石油を中国に売る可能性は極めて高い。もし中国が、元での販売を、イラン石油購入継続の前提条件にすれば、ドル交換の経費を節減し、ドルを犠牲にして、世界貿易での中国人民元の利用を大幅に増やすことになろう。
イランは、何兆ドルものユーラシア・インフラ・プロジェクト、中国の一帯一路構想における主要な戦略的パートナーでもある。最新のアメリカ経済制裁の後、フランスのメジャー、トタル石油が、イランの巨大南パース天然ガス田の株の売却を強いられる可能性があり、中国国営エネルギー企業情報源は、中国の巨大石油集団CNPCは、フランスの株を引き受ける用意があると述べているという報道がある。現在、トタルは50.1%を保有し、CNPCが30%、イランの国営石油会社が19.9%を保有している。対イラン戦争を主張してきた、長年にわたるネオコン・タカ派、トランプの国家安全保障問題担当補佐官ジョン・ボルトンは、EU企業が、もしイラン政府との協力を継続すれば、アメリカ経済制裁に直面することになると述べた。
中国-イランの経済的つながりの増大を示すものとして、5月10日、中国は内モンゴル自治区のバヤンノール市から、約8,000キロ、カザフスタンとトルクメニスタンを経由し、テヘランまでを結ぶ直通陸上鉄道便を開始した。貨物の輸送時間は、14日間と予想されており、海上輸送時間より約20日間短い。
ロシアの動き
イランにとって二番目に大きなビジネス・パートナー、ロシアは、自身が、アメリカ経済制裁によって苦しめられているが、2014年のイラン核合意と経済制裁解除の後、イランとの無数の事業契約を行っている。ロシアのプーチン大統領は、経済制裁への脆弱性にまつわる安全保障上の理由から、ロシアがアメリカ・ドルから独立する希望をはっきり宣言した。この点、ロシア-イラン二国間貿易は、2017年11月以来、多くの製品が非ドル・ベースのバーターで行われている。
更に、イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣が、5月14日、モスクワを訪問して、ロシアのラブロフ外務大臣と、将来のロシアの原子力計画協定について話し合い、両者は経済協力継続を誓った。いくつかのロシア石油会社は、既にイラン・プロジェクトに参加している。
最近の愚かなアメリカのイラン合意離脱の前から、ロシアと中国間の貿易も、ドルから離脱しつつある。現在、中国は、ロシアの最大貿易相手国で、17%を占め、第二位のロシアとドイツ間の倍だ。両国間のドル貿易が更に減少する可能性が高い。4月25日、上海でのヴァルダイ・クラブ会議で、Union of Chinese Entrepreneurs in Russia(在ロシア中国起業家同盟)会長、Zhou Liqunが、ユーラシアの二国は、二国間貿易で、ドルから一層離脱すべきだと述べた。彼は“二国の指導部should think over関係改善、特に、金融協力r。一体なぜ外国通貨で支払う必要があるでしょう? なぜドルなのでしょう? なぜユーロなのでしょう? 直接、元とルーブルで行えるではありませんか”と彼はロシア国営TVで述べた。
最近のワシントンによるロシアとイラン経済制裁の前から、ロシアと中国は両国の二国間貿易でのドル離脱の方向に慎重に動いてきた。ロシアは、2016年末に上海石油-元先物と似たような、ロシア・ウラル石油先物の値付けにルーブルを使う石油先物契約取引を、サンクトペテルブルク取引所(SPBEX)に開設した。
2017年に、約31%増え、今年、中国・ロシアの二国間貿易は、1000億ドルに達すると推計されている。ユーラシアの主要二国の銀行や企業は、世界準備通貨を保持しているというワシントンの不愉快な強みである、ドルからの、そしてドル経済制裁に対する脆弱性から自立する基盤を慎重に築いている。
2017年、既に9パーセントのロシア商品の中国輸出はルーブル決済だ。ロシア企業は、15パーセントの中国輸入を人民元で決済している。こうした直接のルーブルや人民元決済は、NATO経済制裁が益々重要な要因になっているので、ドルやユーロ通貨のリスクを回避できる。更に、EUのSWIFT国際銀行間決済体制から自立して、確立した人民元決済システム(CIPS)を使うことで、この二つのユーラシア国家を、アメリカの金融戦争や制裁から、遮断できる。既に170以上のロシアの銀行や、ロシア中の証券会社は、中国銀行、ICBC、中国建設銀行や中国農業銀行などの中国の巨大国営銀行が参加しているモスクワ取引所で、元で取引している。ルーブル-元為替レートは、アメリカ・ドルの関与無しに計算されている。
EUは続くだろうか?
最近、これまで行っているドルでなく、ユーロによるイラン石油貿易の可能性を欧州連合が検討しているという報道もある。彼らはトランプによるイラン核合意からの一方的離脱を強く非難し、イラン石油貿易や、アメリカに威嚇されている航空機や他のハイテクの大型契約を維持する方法を検討している。フェデリカ・モゲリーニ欧州連合外務・安全保障政策上級代表は、マスコミに、イギリス、フランス、ドイツ、イランの外務大臣が、ワシントンの動きに対応した、現実的な解決策に、今後数週間で取り組む予定だと語った。彼らは、石油とガス供給の分野を含め、イランとの経済的なつながりを拡大する予定だと報じられている。
EUがそのような動きをすれば、ドル体制の基盤を根底から揺るがし、それと共に、アメリカ戦力投射をも揺るがすことになる。現時点ではありそうにないが、2014年以来、ロシア経済制裁で、ワシントンが要求して明白に起きているEU経済権益を損なう、ワシントンの動きの一つ一つによって、大西洋同盟から離れるという地政学的同盟の大規模構造的転換の可能性が、より想像可能なものとなる。
主要世界準備通貨としてのアメリカ・ドルの役割は、軍事力とともに、ワシントン権力の基盤だ。これが大幅に縮小するようなことになれば、他の国々の資源を利用して、超大国支配を継続するため戦争をしかけるペンタゴンの能力を弱体化させるはずだ。アメリカ財務省経済制裁が強いるものが抑えのきかないものになればなるほど、中国、イラン ロシアなどの国々や、可能性としては、EUも、ドル依存を減らし、ワシントンが他の国々を支配する力が益々弱くなる。前世紀のこうした過程の核心にあったのは、石油支配と、その支配のためのドルの役割だった。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書で、オンライン誌“New Eastern Outlook”への独占寄稿。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2018/05/19/will-oil-end-the-american-century/
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