「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのか
http://diamond.jp/articles/-/160999
2018.2.23 今週もナナメに考えた 鈴木貴博 :百年コンサルティング代表 ダイヤモンド・オンライン
国会で働き方改革関連法案に関する議論が紛糾している。「働き方改革」のイメージは、なぜ一気に胡散臭くなってしまったのか 写真:首相官邸HPより
働き方改革関連法案が紛糾
何がいけなかったのか?
国会で働き方改革関連法案に関する論戦が繰り広げられている。安倍晋三首相は裁量労働制で働く人の労働時間について「一般労働者より短いデータもある」と答弁し、「前提とするデータが不適切だ」と野党から追及されて、発言を撤回した。その影響もあってか、厚生労働省は裁量労働制拡大の実施を延期する検討に入った。与党は働き方改革関連法案を今国会中に成立させたい構えだが、議論は依然、紛糾している。
この問題は、乗せられた安倍首相にももちろん責任はあるが、根本的には厚労省が自らの策に溺れた観がある。今回の働き方改革関連法案が、国民に胡散臭いイメージを与えてしまった段階で、すでによくないのだ。
働き方改革には、「高度プロフェッショナル制度」という、より悪質な問題が控えているのだが、今回は国会で問題になっている裁量労働制を軸に、この問題を解説してみたい。
そもそも裁量労働について語り始めると、私が入社した頃の外資系コンサルファームでの出来事を思い出す。入社2年目、ある巨大企業の企業改革のコンサルティングが始まったばかりのことだ。
プロジェクトが始まった当初、私を含むコンサルティングチームは、クライアントの本部長、部長級の管理職、現場のキーマンなどに対し、10日間かけて初期ヒアリングを重ね、会社の問題点を整理する作業に忙殺されていた。
週明けにクライアント幹部との最初の大きな検討会があり、そこではその巨大企業が抱える問題が何であり、それをどのように改革すべきか、コンサルファームとしての問題提起をぶつけることになっていた。私たち若手社員はほぼ2日間徹夜で、これまでのヒアリング作業をとりまとめていた。
その日、コンサルファームのパートナー(共同経営者、つまり社内で一番偉い人)に対して、コンサルティングチームとしてのドラフト(ほぼ完成させた報告書)を見てもらい、内容を吟味する目的の社内ミーティングが開かれた。
私を含め、それほど寝ていない赤い目をしたチームメンバーが、10日間の幹部ヒアリングでわかったことを整理して報告した。「この会社の問題はAである」と。
それを聞いていたパートナーは、おごそかに口を開いて我々にこう言った。
「おまえらは何もわかっていないんだな」
「実はな」とパートナーは話を続けた。「一昨日、今回のプロジェクトのキーマンである経営企画担当専務と1対1で話し合いをした」というのである。
専務はこう言ったそうだ。
「おそらく御社のコンサルタントからは『Aが問題だ』という話が挙がって来るだろう。しかし、そんなわかり切ったことのために高い報酬を払ってコンサルファームを雇ったわけではない。その裏にある誰も気がついていないBという問題について取り上げることが、今回の依頼の中心命題なのだ」
覚えているのは、そこからまた2日間、週末を全部つぶして必死になってヒアリング資料を読み返し、Aという問題の陰にBという、より本質的な問題が存在しているという報告書に不眠不休で書き換える作業を行ったことだ。
若いときにいたコンサルでは
時給が「マック以下」だった
私ではないが、会社に土日を含めて朝9時から夜12時まで毎日いる若手社員がいた。彼が計算してみたところ、当時の1ヵ月の給料を実労働時間で割ると、マクドナルドの時給より低かったという。
その頃はそういった働き方が当然だと思っていたが、今になってみると理不尽であったことに改めて気づかされる。前述の話で言えば、パートナーがクライアント専務からの情報を入手した段階でチームに共有していれば、我々の週末作業は必要なかったのだから。
残業代が支払われる会社だったら、この一件のようにチーム全体での週末作業が起きれば、100万円単位の残業代が追加発生する。だからそうならないよう、経営者も考えて指示を出すはずだ。しかし、裁量労働制で実労働時間と対価がクリアになっていないから、経営者は手抜きをして指示が遅れるのだ。
足もとで働き方改革が叫ばれるようになった大きなきっかけの1つが、電通の女性社員が週に10時間しか寝られない環境下で働き続け、過労によって自らの命を絶った事件だ。ところが今回の法案では、これまで一部の仕事に限られていた裁量労働制の範囲を、顧客のニーズを分析して提案を行う営業社員にまで広げることが盛り込まれている。
広告代理店の営業は、クライアントの置かれた状況を分析し、そこに対して最適な広告プランを提案し、クライアントから受注したプラン通りの広告を制作し、媒体に載せる仕事だ。だから今回の法案では、亡くなった電通社員も裁量労働者になってしまう。
そもそも裁量労働とは、プログラマーがいる一部の職場のように、能率がよい社員が定時に帰り、能率が悪い社員がだらだらと残業をするような職場環境を是正するために導入されたものだ。ITエンジニアの世界で、能力が低い社員の方が残業と収入が増えるのは悪い労働環境だ、と言われるのはわかる話だ。これでは日本のIT競争力が下がってしまうという議論が起き、裁量労働制が導入されたのは理解できる。
しかし、一部の広告営業もそうかもしれないが、お客の発言力が強くて逆らえない一方、上司が理不尽な仕事を要求してくるような職場は、世の中に少なくないはずだ。そうした現状を精査せず裁量労働制を導入するような法案を、厚労省がなぜ働き方改革の柱の1つと考えているのかは理解できない。
本当に企業の生産性は上がる?
成長戦略の部品となった働き方改革
私は、過去のコンサルティング・プロジェクトで関わってきた経緯もあり、こうした問題はよくわかっているつもりだが、裁量労働制を導入して生産性が上がり、従業員が早く帰れるようになりそうな業務はそれほど多くはない。広告営業、不動産営業といった提案営業の分野では、むしろ労働時間は悪化する。ITの分野でも、プロダクト営業にとって裁量労働は、同様によくない仕組みだ。
公正を期すために申し上げておくと、電通社内では女性社員過労自殺事件をかなり重く受け止めており、経営幹部は真剣に改革に取り組んでいる。この点はきちんと評価すべきことだと私は考えている。
しかし、厚生労働省の中ではこの事件はもう風化しているように感じる。働き方改革は関連法案の中で、日本の生産性を上げるための柱として提案されている。しかしその実は、企業に対する「ムチ」として残業時間の上限規制や同一労働同一賃金が唱えられる一方、それを緩和するための「アメ」として高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の拡大が盛り込まれているのが実情だ。
つまり冒頭で述べた「なぜ働き方改革が胡散臭く思えるのか」という理由は、働き方改革が企業の手を離れ、労働者の労働環境の改革ではなく、国の成長戦略の一部品になってしまったからなのだ。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
これは良記事。与野党の皆さん、裁量労働制を一度「ゼロベース」にして議論してみては如何か?
— Takayuki Iiduka (@dukataka1) 2018年2月23日
「「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのか 鈴木貴博 」 ダイヤモンド・オンライン https://t.co/4k8LVqwwwx
「「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのか」、企業のための「給与定額働かせ方プラン」とバレたから。働かせ放題で、自民は献金の還元付き。https://t.co/DuH4SEeT1B
— 松野大介 (@daimatsuno) 2018年2月23日
「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのか | 今週もナナメに考えた 鈴木貴博 | ダイヤモンド・オンライン
— hirotnara (@hirotnara) 2018年2月25日
「取引先の言いなり」「内部の組織(上位者)が無理難題を言ってくる」 状態で裁量労働は危険 と。 https://t.co/BIIxPYjZWb
-ブラック企業ほど人権費が安くなり競争力があがってしまう
— 桂隆俊 (@taka_katsura) 2018年2月23日
-そもそも働く必要があるのか?
-プロと言われる領域の人はそもろも時間給じゃない
・・・等々多々。
「マネする」教育をやめて10年くらいかかるかな
/「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのかhttps://t.co/1VVKHelxZx
"企業に対する「ムチ」として残業時間の上限規制や同一労働同一賃金が唱えられる一方、それを緩和するための「アメ」として高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の拡大が盛り込まれているのが実情だ。" / 「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのか https://t.co/5yPr4dn3qv
— サワ (@sawa_aaa) 2018年2月23日
この事例、わかりやすい。つまり、裁量労働制度は、社員より上に立ちたいだけの無能な経営者しか救うことができず、かえって企業競争力を失わせることにしかつながらない。 / “「働き方改革」のイメージはなぜこれほど胡散臭くなったのか |…” https://t.co/5zS5s3kYkf
— u-chan (@u_chan_) 2018年2月23日