「死に方格差」の現実 65歳時点の貯蓄額で試算した!
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180221-00000017-sasahi-life
週刊朝日 2018年3月2日号より抜粋
いずれ迎える配偶者との離別や介護。最期まで自宅で過ごすか、施設に移るかの判断を迫られる時期が来る(写真はイメージ)(c)朝日新聞社
貯蓄額別にみた終のすみかの選択肢
世帯主の年齢別にみた平均貯蓄額と借入額(万円)(1世帯あたり)
高齢者世帯の年間所得の分布(%)
終のすみか選びの際、自らの要介護度とともにチェックすべきなのが懐具合だ。高齢者向けの施設は種類が多く、月額費用や入居一時金にも大きな差がある。ならば、一体いくら必要なのだろうか。定年時の貯蓄額の違いで、「最期」の迎え方がどう違ってくるかを考えたい。
「貯金通帳の金額を見て、真っ青になった」。介護の必要な80代の母がいる男性(50代)は、振り返る。母が有料老人ホームに入居して3年ほど過ぎたころ、男性は自らの生活も脅かされる危機感を感じていた。
「変な言い方ですが、母はもうそんなに長生きできないと思い、『最期ぐらいよい思いをさせたい』と兄弟でお金を出し合い、ホームに入れたんです。スタッフさんの手厚いケアで、今はすっかり元気になりました」
入居金約1千万円に加え、月々の費用が約25万円。母の年金だけでは足りず、兄弟で補った。ただ、入居が予想より長くなるにつれ、資金面で支え続けることが難しくなった。
「このままだと、自分たちの生活が破綻する」
そう考え、やむなく母にホームからの退去を勧め、月額費用が半分以下の介護老人保健施設(老健)に移り住んでもらったという。
東京都内に住む男性(80代)は、同年代の妻が有料老人ホームに入居中だ。
妻は脳梗塞を患った後、いったんは自宅で静養するまでに回復。しかし、ショートステイ先で転び、要介護度が重くなった。男性は老老介護となる危機感から、慌ててホームの空室を探して入居させた。その費用が生活に重くのしかかっているという。
「月々の負担は10万円台後半で、比較的安いほうだとは思います。ただ、自分の食費を削る日々で、毎日カツカツ。自分も介護が必要になったらどうしよう」。深いため息をつく。
『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』の著者で、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは、施設選びについてこうアドバイスする。
「介護が必要になって慌てて施設入居を決めると、後悔することがあります。最期をどこで迎えるか。自宅に住み続けて介護を受けるか、高齢者向け施設への移住かの判断を迫られると思いますが、費用がどれだけかかるのかを事前によく調べておくことが大切です」
表を見てほしい。様々な施設ごとに、入居時や月々にかかる費用の目安をまとめた。どんな施設があるのか、どんなサービスを受けられるのか、最期まで暮らせる施設なのか、などをしっかりと調べたい。この点の確認を怠ると、要介護度が重くなったときに転居を迫られたり、資金が底をついたりする恐れがある。
在宅での介護だと、要介護度5でも月約3万6千円。年金の範囲内でまかなえる。ただ、サービスの利用には制限があり、介護を担う家族への負担も増す。
施設入居を考える際、まず候補となるのは、社会福祉法人などが運営する特別養護老人ホーム(特養)。相部屋の「多床室型」と個室の「ユニット(生活単位)型」がある。10人以下の少人数を1ユニットとしてそれぞれに食堂や居室があり、専任の職員が介護してくれる。
入居一時金がなく、要介護度5でも月約9万1千円(多床室型)と負担が比較的軽い。それだけに申し込み希望も多く、待機者は2016年4月時点で約36万6千人。15年度から、入居要件が原則として要介護度3以上に制限されている。
特養に入れないと、別の施設を探すことになる。要介護度や認知症の症状の有無とともに、施設選びの大きなポイントが手持ち資金。それぞれの施設に入居するには、65歳の定年時に貯金がいくら必要かも試算した。
試算は、次のような老後を前提にしている。65〜79歳は自宅で元気に過ごす。年金で足りない生活費として月3万円ずつ貯蓄を取り崩す。80歳で介護が必要になり、90歳前までの10年間を施設で過ごす。月々の年金(12万円と想定)でまかなえない利用料分は貯蓄を取り崩す。施設入居前と入居後の取り崩し額の合計が、65歳時点で必要な貯蓄額になる。
例えば、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を選ぶ場合、入居前の貯蓄取り崩し額は計540万円(3万円の180カ月分)。要介護度5の人の入居後の貯蓄取り崩しが1032万円(月額入居費と年金の差額8万6千円の120カ月分)。計1500万円余りが、定年時に必要な貯蓄額の目安と考えられる。
金融資産を年代別にみると、定年前の50代の世帯は貯蓄が約1050万円で、借り入れが約580万円。60代になると、住宅ローンなどの借り入れは減るが、貯蓄を食いつぶしていく生活が本格化する。
資産の違いによる終のすみかの格差は実に大きい。
ある首都圏の有料老人ホームは「お金持ちが入る施設」と有名だ。丘の上にそびえ立つ建物に入ると、近所の人も使える喫茶ルームがある。広いラウンジにはコーヒーの香りが漂う。
入居者の男性(88)は4年前、1歳年下の妻と住み始めた。先に入居していた友人を訪ねた際、雰囲気が気に入ったという。「私は子どもがおらず、何かあったときに不安でした。安否確認してくれる施設に入りたかったのです」と話す。
真夜中に倒れても、併設クリニックの医師が24時間対応してくれる。入居一時金は夫婦2人で6千万円。食費や水道光熱費を含めて使用料は月25万円。年金の範囲内なので、自宅は売らずに残して、今でも週末に戻っているという。
「ホームは体調が悪くなったときのセカンドハウスみたいなもの。ずっと居続けると人間関係に疲れるから、適度に自宅と行き来するのがいいのかもしれないね」と男性は悠々自適だ。
こうした“極上”の老後を送れる高齢者は一握り。高齢者世帯の約4割が、年間所得200万円未満だ。有料老人ホームは、特養と比べて費用が格段に高い。一定以上の所得がないと、冒頭で紹介した女性のように住み続けられなくなる。(村田くみ)