物流危機が止まらない、10年後もドライバーは24万人不足する
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2018.1.31 森田 章:ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです Photo:DOL
2017年に人手不足問題が露わな危機として現出したのが物流業界だ。業界に横たわる構造的な課題を解決し、荷主と物流業者が協働して改革を断行しない限り、日本のサプライチェーンマネジメントはもはや維持できないところまで来ている。(ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター 森田 章)
物流危機が現出した2017年
2017年は、「いつかは来るぞ」と危惧されていた「運べない危機」が現出した年だった。ネット通販が発展する社会インフラとして機能してきた物流、特にラストワンマイルの配送基盤が、拡大した需要に応じられなくなる事態が出現した。
宅配便最大手のヤマト運輸では、労働組合が会社側に対して「総量規制」の導入を求め、会社側も労働条件の改善に向けて大口・小口を問わず運賃の改定に踏み込んだ。ヤマトに歩調を合わせるように他の物流事業者でも運賃見直しや受け入れ数量の規制などが相次いだ。それでもなお年末の繁忙期の対応は綱渡り状態となり、運送の事前予約を依頼する動きも出た。
背景にあるのは、重さとしての負荷が変わらなくても、量としての負荷が加速度的に増すネット通販の小口荷物の増加だ。宅配便(メール便を除く)の取り扱い個数は、16年度は40億1900万個で、10年前の2006年に比べて約10億8000万個も増加している。小口荷物の急増と、配達時間指定や再配達の急増などにより物流業界全体の負荷が高まり、それに対応するための人員を手当てできないという悪循環が生じている。
特にトラックのドライバー不足は「深刻の度を増している」というレベルではなく、まさに危機的な状況にある。厚生労働省の「一般職業紹介状況調査」によると、トラックドライバーの求人(タクシー運転手を含む)である「自動車運転の職業」の有効求人倍率(全国平均)は、15年7月から2倍を上回る状態が恒常化している。17年10月の速報値は2.84倍となり、4ヵ月連続で過去最高を更新した。
10年後のトラックドライバー不足はどれくらいか
こうした中、ボストン コンサルティング グループでは、「2027年に現在よりもどれぐらいのドライバーが足りなくなるのか?」というシミュレーションを行った。
2017年現在のトラックドライバー数は約83万人だが、各種の要因のシミュレーションによれば10年後の27年には96万人のドライバーが必要になると見込まれる。一方で、実際のドライバーのなり手は72万人にとどまり、実に24万人のドライバーがさらに不足することとなる。
もう少し詳しく紹介しよう。
ドライバーの増減を促す「需要」側とドライバーのなり手の「供給」側について、シミュレーションに影響を与える要素として「荷物量の増減」「積載効率の低下」など9項目を取り上げ、予測の前提を定めて試算した(表1)。
まず需要側では、「荷物量の増減」や「積載効率の低下」「労働環境の改善(長時間労働の改善)」などにより18万人のドライバー増が想定される一方で、「モーダルシフトの進展」や「規制緩和による代替輸送の拡充」「幹線の自動運転化」などによるドライバーの省人化は約4万1000人にとどまり、差し引きで14万人弱の増員になる。これが現在の83万人に上乗せされ、27年のドライバー需要は96万人強と推測される。
「荷物量の増減」では、特にB2Cの宅配取扱個数が、ネットを利用する高齢者の増加によりネット通販が拡大することで54億個に達すると見られる。B2Bなどで減少が見込まれる分を相殺しても7万人程度の需要増が見込まれる。
「積載効率の低下」も、ドライバー増員が必要になる要因だ。都市部では、交通渋滞の影響を考慮して積載率が低くても出発する傾向がある。小口荷物が増えれば増えるほど積載効率は低下する。すでに営業用トラックの積載率は年率マイナス2%のペースで低下しており、配達時間を指定できることがこれに拍車をかけている。
また「労働環境の改善(長時間労働の改善)」により、他業界に比べても多いとされている超過労働時間を半分に削減するだけでも9万人の需要増になる。
こうしたなか、環境への配慮もあって「モーダルシフトの進展」もあるものの、すでに鉄道に移行できる荷物はほとんどが移行されており、追加的なドライバーの減員規模は1000人程度しかないと見ている。
2万人規模で減員効果が比較的大きいと予測したのが「幹線の自動運転化」だ。1台の有人トラックを先頭に、後ろに5台ほどの車を率いる隊列走行モデルが有力だと言われているが、制度の整備など、実現に向けては課題も残る。
一方、供給サイドから見れば、「少子高齢化」によりドライバーは現在よりも7万人減り、「(ドライバー職の)選択率の減少」でドライバーのなり手は現在よりも4万人減ると予測している。つまりドライバーは現在の83万人から11万人減って72万人にとどまってしまうのだ。
「モノが運べない」を回避するための6つの改革ポイント
このような2027年のトラックドライバー需給に生じる24万人のギャップを埋めるには、もはや物流業界だけでどうにかなるわけではなく、サプライチェーンマネジメント(SCM)の抜本的な効率化を推進するしかない。実現できなければ、消費者が物流サービスの低下、もしくは、今以上の価格負担を受け入れるしかない。そこで、ここではすでに始まっているSCMの抜本的な効率化への取り組みを紹介したい。
キーワードは6つある。(1)異業種間も含めた共同配送の充実、(2)需要予測の高度化、(3)店頭を起点とした物流網の構築、(4)製配販の連携、(5)3Dプリンターの活用、(6)テクノロジーの進化と活用、だ(図1)。
(1)共同配送
なかでも多くの実践例が出ているのが異業種間を含めた共同配送だ。その象徴とも言えるのが味の素、カゴメ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社の食品4社が均等出資して2017年3月に発足させた物流会社「F-LINE」だろう。ここでは「既存の枠組みを超えた協働体制のもと“食品企業物流プラットフォーム”を構築し、持続可能な物流体制の実現をめざす」としている。
出資した各社は、2015年から共同で物流戦略を策定するプロジェクトを始め、これまでに関東〜関西間の中距離線輸送の再構築や北海道エリアの共同配送などに取り組んできた。18年には九州エリアでの共同物流体制を構築し、19年には各社の物流子会社の統合も視野に入れている。
今後は同業種間だけでなく、異業種間でも共同配送への取り組みが活発になるだろう。季節変動がある商品や重さが異なる商品を組み合わせた荷物量の平準化、さらに東京と大阪の中間地・静岡で積荷を交換して出発地に戻る「リレー方式」の導入も活発化しそうだ。リレー方式では日帰り勤務が可能になり、労働環境が改善され宿泊コストを削減できるメリットもある。
(2)需要予測高度化
また、需要予測、特にAIを活用した需要予測の高度化もSCMの効率化に貢献しそうだ。発注量をAIが決定して値下げや在庫ロスの削減に結びつけ、結果的に物流の効率化につなげるのである。
例えばNECは、ライフコーポレーションやクイーンズ伊勢丹と共同でマーケティングや需要予測に関するソリューションを活用した実証実験を行った。狙いは、過去の商品販売実績や廃棄数、気象予報、キャンペーン情報など多様なデータの相関関係をAIを活用して分析することで、日配品など商品ごとの販売数や来店客数を高精度に予測する「商品需要予測ソリューション」の提供だ。
ライフコーポレーションでは2017年2月から4月まで実験を実施。またクイーンズ伊勢丹とは、日配品10カテゴリー(70品目)を対象に予測ソリューションによる実験を2016年度下期に実施している。その結果、需要予測に基づいた発注のシミュレーションにより値下げロスを最大30%削減でき、従業員による予測と同等以上の精度で来店客数を予測できたという。
(3)店頭を起点とした物流網の構築
店頭を起点とした物流網の見直しは、小売業にとっては効率化と競争力強化を実現する大きな鍵になるだろう。商品は通常、ディストリビューションセンター(DC)に保管され、トランスファーセンター(TC)で仕分けされた後に店舗に配送される。
この際、TCで事前に店頭の商品の棚割を配慮した仕分けをすることで店頭での品出し作業時間を短縮し、店内物流の工数を最小化できる。欧州のあるディスカウンターでは、商品を棚の並びの順に同じロールボックスに詰めることが徹底されている。またパッケージのサイズや開け方、バーコードの印刷位置などを共通化することでさまざまな店内作業量の削減も図られている。
店頭起点の物流網の構築は、需要に応じた最適な在庫量コントロールやDC・TCの最適配置などを通じた店舗に対する物流サービスレベルとコストの最適化など、「上流側」への波及効果の大きさも見逃せない。
(4)製配販の連携
製配販(製=メーカー、配=卸売、販=小売)の連携は、個社レベルでは成功事例があるものの、業界全体を巻き込んだ取り組みについては、これまで大きな成功を収めているとは言い難い。
その最も大きな原因は日本の取引制度にある。日本の旧来の商慣習では、価格に物流費が丸ごと入っており、メーカー・小売りともに物流費を価格交渉の材料として捉えていたため、協調して物流コストを下げ、得られた利益を分かち合うという動きに繋がらなかった。ここが、欧米のメーカーと小売りとの関係、例えば、P&Gとウォルマートが米国で長年取り組んでいたような、SCMのみならずマーチャンダイジングやプライシングも含めた包括的かつ戦略的なパートナーシップ関係とは大きく異なる。
これまでどおりでは立ち行かず、SCMを維持できるかどうかの瀬戸際に追い込まれているなかで、業界を挙げた大きな取り組みが生まれてくることを期待したい。
(5)3Dプリンターの活用
3Dプリンターの活用は興味深い事例だ。ヤマトグループは、基幹ターミナルである羽田クロノゲートに「3Dプリントセンター」を開設し、3Dプリントと全国の輸送ネットワークを組み合わせた国内初の「3Dプリント・配送サービス」を2017年2月に開始した。当初は、治療用装具や医学模型などの受注を想定している。
3Dプリントのデータを配送網や直接送信などでセンターに送り、製造後に送り先に届ける。つまり輸送距離の短縮化や在庫量を減らせるメリットがある。こうしたサービスは、スペアパーツを調達するためのリードタイムの短縮やロングテール製品への対応などユーザーの利便性の向上にも資するだろう。
(6)テクノロジーの活用
最後にテクノロジーの進化と活用は、「見える化」「最適化」「自動化」「マッチング」などがキーワードになるだろう。荷物や人、トラックの動きを把握でき、最適な配送ルートが自動生成され、倉庫内などでは自走式ロボットが作業を担い、荷主と運送事業者の最適なマッチングで積載効率の向上が促されるイメージである。
すでにそれぞれの分野で取り組みが本格化しており、例えばマッチングでは、DHL自身が運営する「saloodo!」などがある。これはDHLの荷が前提としてあることでマルチプラットフォームとしての価値を高めている。
荷主の「運賃叩き」、物流業者の「下請け意識」を変える
冒頭に、2017年はトラックドライバー不足により日本のSCMに危機が現出した年だと書いたが、ドライバーが減るのは、「他の産業に比べて勤務時間が2割長く、賃金は2割安い」という、長時間勤務・低賃金という業界の構造自体に真因がある。だが、物流業界だけで解決を図れるのかと言えばそうではない。ここに問題の根深さがある。
例えば労働時間の短縮問題は、荷主側の商流や商慣行と密接な関係を持っている。配達や納品の時間を平準化したり期末の集中を避けたり、商流そのものまで見直していかないと、物流業界が抱える課題の真の解決にはつながらない。
また、高速道路の料金分を節約するために一般道の通行が多くなって長時間労働を助長させているような例もある。賃金や高速道路料金の原資になる運賃が、高品質なサービスに見合った適正な運賃なのかどうかを荷主側と物流事業者側が共同で検証する機運や場さえ確保できないでいる。
この背景として、物流業は参入障壁が低いために、力関係では圧倒的に荷主側が強い構造がある。参入障壁が低いのでプレーヤーが分散しており、業界が一致団結した改革を推進できにくいといった難があり、それが荷主優位を維持する一因にもなってきた。
そうしたなかで現出したのが現在の危機である。実際、物流改革に取り組んでいる荷主企業からは、「当社が潰れるのは、物を運べなくなったとき」という強烈な危機感も聞こえてくる。
一方で、危機感だけでなく、明確な物流戦略を構築し、「どうしたらよいか」という具体的な打ち手を持っているかといえば、残念ながらそうした荷主は多くない。簡単に言ってしまえば、荷主にとって物流とは単なるコストであり、打ち手が「運賃を叩くこと」以外のなにものでもない部分がある。コンペによる入札と言っても、単なる叩き合いを煽っているだけのケースもある。
明確な物流戦略、それに基づく打ち手を描くことは、すなわち荷主側に「物流は競争力に直結する」という発想転換を迫るものでもある。
また一方で、物流事業者側にも“下請け意識”からの脱却が求められている。「ドライバーが集まらない。労働環境が悪いからだ。運賃を値上げしてほしい」と交渉するのは重要なことだが、それだけにとどまれば事業構造は従来のままであり、経営の継続は持続的なものにはならないだろう。
やはり物流事業者側には荷主への提案力が問われているのではないか。多くの高品質な輸送サービスが、さまざまな社会課題を見据え、検証した結果として誕生してきた歴史を見れば、荷主の課題やニーズを丹念に検証して解決に向けた提案をしていく努力がなければ構造問題に楔を打つことはできない。
結局、荷主と物流事業者が、「物流は競争力に直結する課題である」という認識を共有することに加え、協働して改革を断行していくことこそが、危機を乗り切るための最善手なのだ。