「がん治療革命」来る! 「当たりはずれ」ありは過去になる?
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171215-00000015-sasahi-hlth
週刊朝日 2017年12月22日号
がんの治療が転換期を迎えようとしている(※写真はイメージ)
これまでのがん治療とプレシジョン・メディシン(週刊朝日 2017年12月22日号より)
がんの治療が転換期を迎えようとしている。国が推進する「がんゲノム医療」とは何なのか? 何が変わるのか? まだ多くの国民には理解しがたいものだが、今後注目の医療であることは間違いない。好評発売中の週刊朝日ムック「がんと診断されました 3大治療とゲノム医療」から、その一部をお届けする。
新聞やテレビなどで「がんゲノム医療」という言葉を目にする頻度が高くなった。一人ひとりの遺伝子情報から異常な遺伝子を特定し、その異常に適した手段でアプローチするという、きわめて個別性の高い治療法だ。
アメリカのオバマ前大統領が演説で述べた「プレシジョン・メディシン」という概念がこれに当たる。日本語で精密医療、個別化医療などと訳される。国内でも、このほど策定された「第3期がん対策推進基本計画」で、がんゲノム医療の推進が目標に掲げられ、注目が集まっている。
従来のように、「Aという病気」に対しておこなう治療ではなく、「△△さんのAという病気」を対象とする、まさに「個別化医療」といえるものだ。
がんに対する従来の治療法は、胃、大腸、肺など、臓器ごとに区分けして、胃がんなら胃がん向け、大腸がんなら大腸がん向けとして開発された薬剤などが用いられてきた。大規模な臨床試験により「統計的にみて」効果があるとして承認された薬剤だからだ。
しかし、この治療法だと、同じ薬を使っても患者によって薬効に差が生じる。患者からすると「当たりはずれ」があり、治療してみないとわからない、という面が小さくなかった。
そこで、患者のがん細胞の遺伝子情報を解析し、変異の起きている遺伝子を突き止め、その遺伝子変異に対して効果のある薬を使うことで、より確実性の高い治療をおこなおうというのが、がんゲノム医療の基本的な考え方だ。
この治療法を正しく理解するうえで、まずは「なぜがんが発生するのか」を押さえておく必要がある。
私たちのからだは約37兆個の細胞から成り立っていて、それぞれが常に分裂を繰り返すことで新陳代謝がおこなわれている。この細胞が分裂していく過程では、遺伝子もコピーされる必要がある。遺伝子が完全に正しくコピーされれば、細胞分裂も正常に繰り返されていくが、重要な遺伝子に何らかの異常が起きると、細胞にも異常が生じることがある。これががん細胞の生まれる原因だ。
がんゲノム医療は、この「がんが発生する根源」である遺伝子異常が、どの遺伝子で起きているのかを突き止め、より効果的な治療に結びつけようとするもの。
従来のがん治療に「当たりはずれ」があったのは、がんの発生機序に関係なく、臓器や臨床的な進行度のみを手掛かりに闘っていたことによるもの。敵の生い立ちを知ることで、より精度の高い治療が可能になってくるのだ。
従来のがん治療で用いられる抗がん剤は、臓器ごとのがんに対して効果を持つとされてきたが、がんゲノム医療では、臓器ではなく、がんの原因となっている遺伝子変異に応じて薬を使い分ける。そのため、例えば元は肺がんのために開発された薬が、胃がんの治療に使われる──ということも、現実にあり得るのだ。
患者のがんが発生した大本の遺伝子変異を突き止める検査が、網羅的がん遺伝子検査と呼ばれるものだ。近年、技術の進歩によって100を超える多くの遺伝子を迅速かつ網羅的に、しかも低コストで検査する「次世代シーケンサー」という機器が開発された。これにより、患者のがん細胞の詳細な遺伝子変異の情報を解析することが可能になり、効果が期待できる分子標的薬の選定につなげられる可能性が飛躍的に高まったのだ。
しかし、この検査を受けるには、一定の条件がある。
基本的に検査は臨床試験としておこなわれているが、この試験では、標準治療で「有効な治療法がない」と判断された進行がん、あるいは転移した状態の症例のみを対象とするものもあり、研究の計画書によって違いがある。この場合は、手術や放射線治療、薬物療法など、健康保険で認められている標準治療が可能な段階でがんゲノム医療を受けることは認められていない。
現在国内では、複数の大学や医療機関が独自に網羅的がん遺伝子検査を導入している。京都大学などのチームが進める「オンコプライム」や横浜市立大学などが進める「MSK−IMPACT」、国立がん研究センター中央病院が進める「TOP−GEAR」、国立がん研究センター東病院などが進める「SCRUM−Japan」など。
それぞれ独自の取り組みとして進めているが、2018年度から、この図式に大きな変化が予想されている。
厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」は17年6月、がんゲノム医療中核拠点病院(仮)を整備する報告書をまとめた。工程表によると、17年度中に中核拠点病院を選定し、18年度から遺伝子検査を先進医療として実施、19年度以降の保険診療を目指すとされている。(ライター・長田昭二)