原油価格の行方がインフレを左右する、30日のOPEC総会に注目
http://diamond.jp/articles/-/150801
2017.11.25 三井住友アセットマネジメント 調査部 ダイヤモンド・オンライン
タイの海底油田の探索
世界経済の順調さはいつまで
「原油価格」がキーワード
皆さんこんにちは。三井住友アセットマネジメント調査部です。11月11日から、毎週土曜日に「ビジネスマン注目!来週の経済、ここがポイント」をお届けしています。今回は、今後の世界や日本経済の行く末を握ることになるかもしれない「原油価格」の状況について解説したいと思います。
現在、世界経済はリーマン危機後、初めての世界同時的な回復過程にあります。IMF(国際通貨基金)の予測にもあるように、実質GDP成長率は前年比で3%台半ば程度とそれほど高くはありませんが、多くの国や地域が同時的に回復しているため、部分的な動揺が全体に影響を与える度合いは小さく、安定度が増していると言えます。
世界経済の好調を背景として、日本経済も輸出が好調で、そのおかげで国内の生産や投資も恩恵を受けています。
そうした今回の景気回復局面の特徴は、主要国の景気が回復に転じてから時間が経ち、失業率も下がっているものの、インフレが顕著に見えてこないことです。
アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、2015年12月から利上げを始めていますし、ユーロ圏のECB(欧州中央銀行)も来年1月から量的金融緩和を更に減額することを決めています。このように、金融政策の正常化は進みつつありますが、インフレが落ち着いているために金融緩和政策の“巻き戻し”をゆっくりと時間をかけて行うことができるのです。
もし、インフレが加速すれば、利上げや量的緩和の縮小を急いで行わざるを得なくなります。そうすると、米国や欧州の景気が減速する可能性が高まります。欧米の経済が減速すれば日本からの輸出も減速し、日本経済も大きく影響を受けるのではないかと考えられます。
さて、インフレといえば、原油価格の動向にも目を光らせておく必要があります。というのも、消費者物価の動向を知る一つの材料として、原油価格が参考になるからです。
そもそも消費者物価は、「サービス価格」と「財価格」に大別できます。「サービス価格」は概ね賃金上昇率に連動して動く傾向がありますが、現在のところ先進国ではどこも賃金上昇率が加速していないため、サービス価格が本格的に上昇するのはかなり先になると見られます。
一方の「財価格」は、主要国の財の需給や、素材資源価格の影響を受けます。中でも変動幅が大きく、幅広い影響力を持つのが原油価格です。原油はエネルギーとしても、石油化学製品の原材料としても使われるので生活にも身近な存在です。
仮に、原油価格が大きく上昇すれば、インフレ率も高まり、それがエネルギー価格以外にも広がると、金融当局が金融政策の本格的な引き締めを始めるというリスクが高まります。また、賃金の伸びがそれほどでもない状況で実際の物価が上昇すると、消費者の実質的な購買力が削がれ、消費活動が弱まってしまう可能性も高まります。このように、原油価格の大幅な上昇は、さまざまなところに波及するだけに注意が必要です。
上昇する原油価格
シェールオイルの不調も追い風に
それでは、最近の原油価格の推移を見てみましょう。現在、世界的に取引されている原油価格は1バレルあたり約60米ドル程度です。2014年夏頃までは100米ドル程度だったので、4割も価格が下がった状況ですが、16年初頭の30米ドル程度だった頃と比較すると2倍に上昇しています。
通常、インフレは前の年の同時期と比較します。1年前の原油価格は40〜50米ドルだったので、前年比では20〜50%の上昇です。これは小さくない上昇率で、先進国のインフレに多少の影響がありそうですが、現状の水準で推移すればインフレへの影響は限定的でしょう。
では原油価格はどのようにして決まるのでしょうか。大きな影響を与えているのがOPEC(石油輸出国機構)を中心とする、大手原油産出国の生産や輸出の状況です。
OPECは昨年11月、ロシアなどのOPECには加盟していないものの原油を大量に生産している国々と、強調して原油生産量を削減することで合意し、今年1月から実行しています。
現在の原油価格の上昇は、生産量の増加に歯止めがかかっている中、世界経済の回復に伴って需要が堅調に伸びているため、世界の原油在庫が「過剰」から「適正水準」に向かって徐々に低下してきていることが背景にあります。また、近年新たなライバルとして現れた米国の「シェールオイル」の生産が、足元で一部の市場関係者(金融機関の専門家など)の期待ほど伸びていないことも要因と見られています。
実はOPECの生産抑制策は今回が初めてではなく、過去何回も実施を試みましたが、その都度、合意が守られずに原油の産出量を抑制する事が出来ませんでした。それに引き替え、今回の原油の減産合意はほぼ守られていると言えます。原油に投資する市場参加者の想定を上回るOPECやOPEC非加盟国主要産油国の結束と言えるでしょう。
この高い遵守率の背景には、原油価格が14年よりも大きく下がっているため、産油各国の財政状況が厳しいことと、「シェールオイル」の増産圧力に抵抗するには産油国が団結するほかに実効的な方策が無いということが挙げられます。
減産合意の延長が見込まれる
11月末のOPEC総会
今後のOPEC等の主要産油国の原油生産量については、11月30日にウィーンで開かれる予定のOPEC総会に注目です。そこでは、2018年3月となっている減産合意の期限を延長するとの見方が大勢を占めていますが、いつまで延長するのかや生産量自体をどうするかに注意が必要です。
もし、生産量を現在よりも抑える数量に決まると、原油価格がさらに上昇することが予想され、FRBやECBの金融政策が引き締め気味に舵を切る可能性が高まると予想されます。
一方、OPECやOPEC非加盟の主要産油国が、減産維持で合意できない場合や、延長期間が短期間に止まる場合は、原油価格が下落する可能性もあります。ただし、下落が急である場合は、OPECと非加盟国の主要産油国間で再び生産量調整の協議が行われ、実施されると見込まれるので、原油価格が大きく下落し続ける可能性はそれほど高くないでしょう。
今のところ、数多くの産油国が現在の原油価格では財政的にゆとりがないことから、多くの市場関係者は、少なくとも原油価格が下落するような減産の破棄や短期的延長にはならないと見込んでいます。実際の決定は産油国同士の交渉で決まるため、発言力が強い主要産油国のサウジアラビア、イラン、ロシアなどの外交面も含めた駆け引きが注目されます。
(三井住友アセットマネジメント 調査部長 渡辺英茂)