商工中金を不正融資に走らせた「親方日の丸体質」の大問題 さて、次はどこで起こるんだろう
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2017.11.05 ドクターZ 週刊現代 :現代ビジネス
■発端は郵政民営化に遡る
商工中金(商工組合中央金庫)の不正融資問題の波紋が広がっている。
不正が行われたのは、景気悪化などで一時的に資金繰りに窮した中小企業を支援する制度である「危機対応融資」で、企業の業績が実際よりも悪化しているように書類が改竄されていた。
それだけでなく、補助金申請の書類の改竄や、景況調査の不正報告も発覚。通常の融資案件も含め、商工中金の不正な融資は全店舗のおよそ9割で行われているとみられ、まさに組織ぐるみで不正に手を染めていたのである。
社長を含む代表取締役全員が辞任に追い込まれるような一大不祥事を生んだ背景には、商工中金が「半官半民」企業であることが大きい。商工中金は政策金融機関であるが、経済産業省の大きな天下り先でもある。はたして政府は商工中金の体質を改善できるのだろうか。
今回俎上に載せられた危機対応融資とは、'08年のリーマン・ショックや'11年の東日本大震災などの経済・社会の混乱を「危機」と認定し、日本政策金融公庫を通じて利子の一部(0・2%程度)を国が負担する公的制度だ。
たしかに不正を行ったのは商工中金だが、元はといえばこの「危機」の定義を曖昧に拡げて、必要のない低利融資をばらまいてきた国にも問題がある。
さらに言えば、今回の不正事件の端緒は郵政民営化まで遡る。というのも、政策金融システム全体からみれば、まず資金を調達する部門は郵政(ゆうちょ銀行)であり、その資金を運用するのが政府系金融機関、つまり商工中金のような金融機関だ。
したがって郵政民営化をする際には、併せて商工中金の民営化などの政策金融改革が検討された経緯がある。
■親方日の丸の大問題
郵政民営化は当時の小泉政権の金看板で、省庁もなかなか抵抗できなかった。ところが、郵政民営化が政策金融改革まで波及するとわかると、政府系金融機関を重要な天下り先とする各省はにわかに郵政民営化にも非協力的になっていった。
かつて橋本龍太郎首相は、各省の意向に配慮し、政府系金融機関には一切指を触れさせないとしていた。一方で小泉純一郎首相は官僚の動きに反発し、郵政民営化の直後に政策金融改革を断行。財務省が管轄する日本政策投資銀行、経産省が管轄する商工中金を完全民営化し、各省が持つ各種政府系金融機関を統合すると決めた。
ところが、小泉政権が終わると財務省と経産省は徐々に挽回し、自民党から民主党への政権交代時に直前の麻生政権と直後の鳩山政権を手玉にとって、完全民営化をひっくり返した。そのときの口実の一つが、危機対応融資だった。
危機対応融資が必要だとしても、政府系金融機関のあり方は見直されるべきだ。危機時の融資については民間の金融機関に税制上のメリットを与えればいいわけで、この融資を政府系金融機関の「特権」にする意義はどこにもない。低利融資の仕組みがないと業務を行えない商工中金の親方日の丸体質が今回の件を招いたのだ。
商工中金で起こったことが、財務省の天下り機関である日本政策投資銀行で起こり得ないとは思えない。この際、完全民営化も含めた再検討が必要だろう。
『週刊現代』2017年11月11日号より