厚生年金の仕組み(AERA 2017年11月6日号より)
本当に最後の値上げ? 公的年金「100年安心」改革で負担増〈AERA〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171031-00000045-sasahi-soci
AERA 2017年11月6日号
10月の給与明細を見て、驚いたかもしれない。手取りが減った! 厚生年金の保険料率が上がったからだ。今回で最後……のはずだ。
ある有名企業の年金担当者によれば、公的年金に対する社員の信用度はあまり高くない。50代は「100%の確証はない」、30代は「漠然とした不安がある」、20代は「関心ゼロ」──。
企業に勤める人にとって、国が運営する公的年金は「2階建て」になる。日本に住所がある人すべてが加入する国民年金と、会社員などが対象の厚生年金だ。
信頼感を損ねる背景には少子高齢化がある。対策として国は2004年、高齢世代の給付を抑え、現役世代の負担を重くする公的年金の改革に踏み切った。双方で痛みを分かち合うものだ。
給付では、賃金や物価と連動する上昇を自動的に抑える「マクロ経済スライド」を導入。負担では保険料率を段階的に引き上げる。厚生年金では毎年0.354%幅。13年かけて今年度、18.3%(社員と会社が半分ずつ負担)に上がった。これが最後で10月の給与から反映される。
一連の措置によって、「現役世代の平均手取り収入」の50%を上回る給付水準を維持しながら、積立金も取り崩しつつ100年間で全体の支出(給付)と収入(保険料)を釣り合わせ、「破綻」を防ぐ。森英介・厚生労働副大臣(当時)は04年4月、国会で「100年後でもぜったい大丈夫」と言い切った。
本当にそうなのか。
厚生年金を全体でみると、昨年度は積立金が増えた。積立金つまり現役世代の保険料などを元手にした運用収入も貢献した。しかし、前年度は5兆円を超える赤字だ。ここまで乱高下するのは14年10月、値動きが大きい国内外の株式に振り向ける資金の割合を従来の2倍に増やす仕組みに変えたことも影響する。世界同時株安はいつでも、どんな大規模でも発生する危険がぬぐえない。「財政安定には会社員の賃金を上げて保険料収入を増やすべきです。運用収入は頼りにしないほうがいい」(第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミスト)
一方で厚生年金を受け取る側は、給付水準が上がった。国民年金も合わせると、モデル世帯では04年度、「現役男性の平均手取り収入」の59.3%。それが14年度には64.1%に達した。
この間、新設したマクロ経済スライドは一度も発動されなかった。物価が下がるデフレ状況では適用しないルールが原因だ。
結局、現役世代は保険料が重くなったのに高齢世代は給付水準が上がった。厚労省が公的年金を「世代間の仕送り」と表現するなかで、「世代間の格差拡大」ともいえそうな状況に陥ったわけだ。その後も、発動は15年度の1回にとどまる。
それを受けて16年、「年金カット法」と騒がれながらルールが変わった。18年度から、物価が下がったり、ほとんど上がらなかったりして本来の率まで減らせなかった場合、不足分を翌年度以降に繰り越す。この「精算」が実現できるほど高い物価上昇は、19年10月の消費税増税が引き起こすと想定される。ただ、「増税したうえに、繰り越し分の『精算』までできるでしょうか。政治リスクはきわめて高い」(ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫・主任研究員)。
高齢世代の給付水準を引き下げられなければ、矛先は現役世代に向きかねない。マクロ経済スライドが長期化するか、保険料率に手をつけるか……。厚労省は04年の改革前、保険料率は25.9%必要としていた。自民党や内閣府の有識者検討会は、公的年金の受給開始年齢を遅らせる仕組みに言及した。
「超長期にわたる年金は、そもそも短期の成果を求めがちな政治と相性が悪い」(専門家)
冒頭の会社では、老後の生活設計に向けた企業年金制度を用意する。「万が一の際には、会社ですらも頼りにならないかもしれない。もっと自助努力を意識してほしい」(前出の担当者)。結局、自分の身は自分で守るのがいいようだ。(編集委員・江畠俊彦)