アスリート体型のニトリと、肥満気味の大塚家具(イラスト:YAGI)
「ホワイト企業」でも危ない!? 危険な会社を見分ける方法〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171024-00000060-sasahi-bus_all
AERA dot. 10/27(金) 7:00配信
「ホワイト」と呼ばれる企業であれば、働いてみたいと思うのも当然だ。しかし、従業員が働きやすい会社だからといって、「将来も安全な会社」であり続けるとは限らない。別の側面から見れば、意外な弱点を抱えている会社も少なくないのだ。
その弱点は、決算書のある数値を読めば見えてくるのだという。『100分でわかる! 決算書「分析」超入門2018』の著者であり、グロービス経営大学院教授(ファイナンス担当)を務める佐伯良隆氏に、決算書の数字に表れる“危険なサイン”について伺った。
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■貯金に精を出している会社は注意!
「そもそも給料が高いということは、それだけ利益が潤沢であることが多い。こうした会社は『お金がたくさんあるから安心』と思われがちですが、実は長期的なスパンで見ると危険な場合もあります。特に『利益を現金としてため込んでいたり、事業に直接関係ない金融商品ばかり購入して、事業投資に消極的な会社』は、要注意です」
ここでいう「現金」とは貸借対照表の資産の部にある「現預金」のことだ。最近なにかと話題の「内部留保」の一部でもある。
感覚的には、貯金は多ければ多いほど安全性は高まる気がするが、なぜ要注意なのだろうか?
「確かに現預金が潤沢であれば、直近の安全性は高いでしょう。ただ注意したいのは、“貯金がたくさんあってもお金は生みだされない”ということ。事業で得た利益を投資に回すのか、蓄えるのかで、将来的に得られる利益に大きな差が生まれてしまうのです」
佐伯氏は、「人のカラダに例えるなら、現金や在庫は『脂肪』で、店舗や工場などは『筋肉』」と話す。投資を積極的に行い、店舗や工場(筋肉)を増やせば、それだけ会社の事業(運動量)は向上していくが、現金(脂肪)がたくさんあっても何も生みだされない。さらに今は利益が出ていても、将来的には筋トレをしている会社に負けることなる。
貯金があれば安心という感覚は、人間の寿命がある程度想定されるからだろう。無理に投資しなくても、残りの寿命の生活費をまかなえる貯蓄があれば、それで安心と考えるのは自然だ。
しかし、会社は違う。ゴーイングコンサーンともいうが、解散しない限り永遠に続くことが前提だ。原則会社に寿命はない。だから会社は、常に動けるカラダ(稼げる体質)にしておくために投資は欠かせない。筋肉が経年劣化したなら、それに応じて、あらたに投資(筋肉増強)しなくてはならないのだ。
ゆえに、会社にとっては現状維持、「何もしないこと」は、大きなリスクなのだ。
■大塚家具はなぜ凋落したのか?
実際に、佐伯氏が指摘する例で、業績不振に陥っている会社がある。大塚家具だ。
「過去10年間の大塚家具の決算書を見ると、給与水準が業界の中では高く、さらに内部留保も潤沢で、ずっと無借金経営を続けてきました。ところが投資に消極的で、店舗や設備の拡充に力を入れてこなかったことから、競争力が低下。お家騒動や戦略変更を経た直近の決算書では、売上は前期比2割減で、46億円もの営業赤字を計上するなど、急激に業績が悪化しています」
大塚家具については、書籍で詳細な分析を行っているため、ここでの言及は一部にとどめるが、同じ家具小売業のニトリが過去5年間で171店舗増やしているのに対し、大塚家具はわずか3店舗しか増えていない。
「人のカラダに例えるなら、『アスリート体型』のニトリに対し、大塚家具は『肥満体型』。どちらがより速く走れるかは明白です。不振の原因は事業戦略にもありますが、過去の筋力トレーニングの差が、今日の両社の明暗を大きく分けたことは、間違いないでしょう」
■危険なサインは、キャッシュ・フロー計算書に表れる!
恐ろしいのは、会社も人と同じように、病気やケガをしてからでは遅いということだ。利益が減れば、その分だけさらに投資に金を回す余裕もなくなり、「気付いたときには手遅れだった」ということもありえる。
では、どうすれば事前に危険なサインをつかめるのだろうか。佐伯氏は「決算書というと損益計算書や貸借対照表が取り上げられがちだが、『キャッシュ・フロー計算書』をぜひ確認してほしい」と話す。
「キャッシュ・フロー計算書は、損益計算書や貸借対照表と並ぶ『財務3表』の一つで、“会社の現金の出入り”を記録したものです。これを見れば、どこからどれだけ会社に現金が入ってきたか、そして会社がどこにどれだけ現金を使ったのかが、わかります」
キャッシュ・フロー計算書は、「営業」「投資」「財務」の3つのカテゴリーに分かれており、投資キャッシュ・フローを見れば「工場や設備などの拡充にどれだけの現金を投じているか」がわかる。つまり、投資キャッシュ・フローがマイナスであれば、その会社は今後も持続的に成長を続けられる可能性が高いといえる。
「ただし、ベンチャー企業などでは、多額の借金をして投資している場合もありますから、『投資しているから将来は安心』というわけでもありません。営業や財務のカテゴリーも見て、『投資のための金をどのように調達しているのか』を確認することも重要です。会社の健康状態を正しく分析したいのであれば、収益性、安全性、成長性の“3つの視点”をもつことが大切です」
10月6日に内閣府が発表した景気動向指数により、2012年12月に始まった景気拡大局面(アベノミクス景気)が、戦後2番目の「いざなぎ景気」(4年9か月)に並ぶことが確実になった。しかしこの期間、国内企業は、設備投資にも、従業員の賃上げにも消極的だった。その結果として、内部留保のうち現金が増加を続けている。
この影響が数年後にどうでるか、多くの人にとっても他人事ではないだろう。(文・澤田憲)