東芝メモリの生産拠点の四日市工場の広大な敷地に第6棟の建設が進む。第7棟の建設構想も明らかにされた Photo by Reiji Murai
東芝メモリ、サムスン追撃で日米韓連合内に「WD排除の論理」浮上
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2017.10.23 週刊ダイヤモンド編集部
東芝の半導体子会社、東芝メモリを買収することになった日米韓連合の内部で、フラッシュメモリー首位の韓国サムスン電子を追撃するため、東芝メモリの投資を増額する構想が浮上している。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)
東芝メモリの成毛康雄社長は13日、三重県四日市市で開いた記者会見で、東芝が単独で投資できる金額は、年間三千数百億円程度との見方を示したが、一方のサムスンの設備投資は年間1兆円規模にのぼるとみられ、投資競争で引き離され続けている。
スマートフォンやデータセンター向けにフラッシュメモリーの需要が爆発的に拡大する市場で、設備投資に出遅れれば競争に敗れる。「ここでサムスンに対抗できなければ永久に立ち直れない」(東芝メモリ関係者)との危機感は強まる一方だ。
こうした中、日米韓連合を率いる米投資ファンドのベインキャピタルの杉本勇次日本代表は、東芝メモリの買収資金の2兆円に加え、東芝メモリがIPO(株式上場)するまでの3年の期間を想定して、1兆円程度の投資資金を用意する構えを示す。
もともと東芝は、協業相手の米ウエスタンデジタル(WD)と共同で四日市工場に投資してスケールメリットを発揮し、サムスンの巨額投資に対抗する提携を結んでいる。
だが、WDは東芝メモリの第三者への売却差し止めを国際仲裁裁判所に申し立てて東芝と対立しており、本来の共同投資が進まない状況だ。
東芝は8月に1950億円、10月にも1100億円の追加投資を単独で決めた。今後もWDが訴訟を取り下げない限り、WDの投資の参加を認めない方針で、共同投資は再開できるめどが立っていない。このため、WDに代わって日米韓連合が、四日市工場の共同投資に乗り出すのが構想の肝だ。
日米韓連合がWDの投資を肩代わりすれば、東芝単独で三千数百億円にとどまる投資資金を年間6000億円規模に倍増させることが可能になる。
ベインの杉本代表は13日の記者会見で、「WDとの訴訟は早期に解決したい」と述べ、和解の道を探る姿勢を示したが、東芝メモリの買収契約を勝ち取った日米韓連合は、アップル、デル、シーゲート、キングストンの米国企業が参加している。
この米国4社は東芝メモリの主要顧客で、メモリー供給がストップすると事業に深刻な影響を受ける企業という面で共通だ。このため、東芝メモリ買収交渉の過程で、訴訟を乱発して経営権取得の野心を剥き出しにしたWDに不信感を持ち、急きょ「WD包囲網」を形成して日米韓連合への参加を決めた経緯がある。今後の四日市工場への投資でもWDを排除する意向を強めているという。
8000億円規模の共同投資も
フラッシュメモリー生産拠点の四日市工場 Photo by Reiji Murai
だが、WDを排除して、東芝と日米韓連合だけでフラッシュメモリーの投資を続ける構想には無理がありそうだ。
東芝の半導体部門のトップの経験がある齋藤昇三・元副社長は「そもそも東芝とWDは共同投資を前提に特許使用を互いに認めてきた不可分の関係にある」と語り、WDを排除すれば、特許の扱いをめぐってさらに対立が泥沼化する恐れを指摘する。
一方のWDは、東芝メモリの売却を来年3月末以降に引き伸ばして東芝の体力を弱める戦術に出ることは自明。だが、攻勢を強めるWDも、四日市工場の投資に参加できなければ、最先端のメモリー製品が手に入らずに致命傷を負う。売却を引き延ばして東芝を追い込むか、四日市への投資のチャンスを逃すか、WD自身が岐路に立っている。
こうした状況を背景に、むしろ齋藤氏は「本気でサムスンに対抗するなら、東芝メモリ、WD、さらに日米韓連合の資金を合算して、年8000億円くらいの投資に踏み出すべき」として、投資スピードを速めるチャンスを見出している。
東芝とWDの対立が長引けば、本来の競合相手のサムスンを利するだけ。一方で、東芝とWDが和解するだけでなく、日米韓の投資資金を活用すれば、一転してサムスンに脅威を与える勢力になり得る。だが、不毛な法廷闘争を脱して現実的な歩み寄りを探る気配はまだ見えていない。