USドル、ユーロ、英ポンド、人民元、韓国ウォン、香港ドルなどの外貨と共に、ビットコインも扱う両替店舗も現れた(東京・築地で)(撮影/伊ケ崎忍)
ビットコインは1年で9倍、仮想通貨投資はギャンブルか
https://dot.asahi.com/aera/2017100500048.html
※AERA 2017年10月9日号
今春からビットコインなどの仮想通貨が急騰。ビットコインは1年で一時9倍にまで値上がりした。仮想通貨取引の多くを占めるのが投機だ。
ビットコインの価格は今年に入って5倍に(AERA 2017年10月9日号より)
「ビットコインに数百万円投資をして運用しています。9月はあまりうまくいかなかったのですが、ここ数カ月は、毎月30%ほどのリターンがありました」
5月から本格的にビットコイン投資を始めたという都内在住の会社員男性(30)はそう話す。
男性は株取引やFX(外国為替証拠金取引)の経験もある。ビットコイン投資では、価格チャートの推移を読んで利益が出るタイミングを知らせてくれる自作プログラムを使い、売るタイミングや買うタイミングを見極めて1日2回ほど売買している。値動きが比較的遅い株と比べて、仮想通貨は乱高下が激しい。
「仮想通貨は株やFXと比べて値動きが大きいので、ドキドキ感があるんです。僕はゲーム感覚でやっています。自分が作ったプログラムに従って売買をして、いい成果が出ると自分の理論が合っていたと嬉しくなる。実際にお金を賭けているので刺激的でもあります」(男性)
ただ、今の方法に落ち着くまでには試行錯誤を繰り返してきた。初めて仮想通貨投資を始めたのは今年1月。仮想通貨のひとつ、「リップル」の価格が半年で20倍以上に高騰した様子を見て、「第二のリップルを探そう」と考えた。国内外の複数の仮想通貨取引所で口座を作り、複数の珍しい仮想通貨を購入した。
●運用はプログラム任せ
相場のチャートを見ながら、安いときに購入し、高くなってから売る。ところが、
「価格が上がり始めて購入し、このまま行くかと見ていたら、だいたい下がって損をすることが多かった」(同)
最初の4カ月ほどは、価格チャートを分析したり、取引の勉強をしたりしながら、複数の仮想通貨の売買をした。週末はプログラムを作った。
「仮想通貨取引は24時間できますが、深夜から朝にかけて価格が大きく変動する日も多いです。それをずっと見ているとなると、生活がおかしくなる。またチャートを見ながら自分で判断をして売買をすると、すごく上がっている時についつい買ってしまい、結果的に損をする。それに気づいてからは、運用は自作のプログラムに任せることにしました」(同)
プログラムに運用を任せてからは、リターンも安定してきた。だが、
「仮想通貨投資は、資産形成のためとは考えていません。失っても問題がないお金を使って、投機的な利益を得られればとやっています。今は過剰な期待に後押しされて価格が上昇し続けていますが、ある日突然価値が半減してしまう危険性もあるからです」
と男性は話す。
決済や海外送金、資金調達といった、仮想通貨を使ったビジネスが次々と生まれつつある。飲食店や家電量販店など、ビットコインを使える店舗も増えてきた。企業などが独自の仮想通貨を発行し資金を集める「ICO」も注目の的だ。
●分裂後も取引量増える
仮想通貨取引所を運営するコインチェック(東京都渋谷区)取締役COOの大塚雄介さんは、
「事業拡大のスピードはインターネット時代になりその前の3倍になったが、仮想通貨時代になってさらに3倍になったような感覚だ」
と、仮想通貨ビジネスのスピードの速さを感じている。
ただし、現状の仮想通貨ビジネスは、円やドルなどと仮想通貨を交換するためのオンライン上にある取引所での売買が中心だ。冒頭の男性のように、投機的に仮想通貨を売買する人が多くを占める。
コインチェックでは「仮想通貨購入は投資のためという人がだいたい7割くらい」(大塚さん)という。
一方、仮想通貨取引所「ビットポイントジャパン」を運営するリミックスポイント(東京都目黒区)代表取締役社長の小田玄紀さんはこう話す。
「ビットポイントジャパンでの取引の99%は投機目的です。口座開設者は男性が9割で、30〜50歳代が多い。もともとFXなどをやっていた人が多いですが、投資経験が全くない人も3割くらいいます。ビットコインの分裂以降、新規口座開設が急増し、半年前と比べて3倍ほどになっています」
今年8月、ビットコインの分裂騒動が世界を揺るがせた。取引量拡大に伴う運用方法の変更をめぐって関係者が対立し、ビットコインから分裂して「ビットコインキャッシュ」が誕生したのだ。結果的には分裂後も取引量は増え、ともに価格は上がり続けた。
●価格変動のリスクあり
だが仮想通貨の価格の変動は激しい。1年前に1BTC=6万円台だったビットコイン価格は、8月までは急激に上がり続けていたが、9月初めには55万円前後に高騰したあと、乱高下している。
9月中旬、都内のビジネス街。ある会社員男性は同僚にこう愚痴をこぼした。
「ビットコインを20万円購入したら、すでに16万円になったよ」
中国でのICO禁止や仮想通貨取引所閉鎖などの報道を受けて価格は低迷、さらに12日には米銀JPモルガン・チェースのCEOが「ビットコインは詐欺」と発言したとの報道を受け、一時32万円台まで暴落したのだ。
こうした価格変動のリスクはあるが前出の小田さんは、
「ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格はまだ上がっていく。ビットコインは年末に向けて60万円くらいまでは上がるのではないか」
と考えている。
その理由のひとつは、法規制の整備だ。改正資金決済法が4月に施行され、仮想通貨取引所は10月から金融庁による登録制となる。
「登録制で利用者が安心して使えるようになり、証券会社なども仮想通貨取引を扱うようになれば、新規の投資家が増えてくる」(小田さん)
●ギャンブルのひとつ?
また、仮想通貨は投機対象であるだけでなく、実用面での可能性が大きいのも、もうひとつの理由だ。
「日常生活での利便性が重要です。仮想通貨では海外送金や決済が短時間でできたり手数料がかからなかったりと、便利になります。こうした活用が今後進んでいき、仮想通貨の価値が高まっていくと考えています」
と小田さんは説明する。
こうした状況から、仮想通貨取引は今後も増え続け、投資対象とする人も増えるという見方は強い。
ではこれから仮想通貨に投資をするなら、気をつけることは何か。前出の大塚さんはこう話す。
「仮想通貨は少額からでも購入できます。まずは500円など少しずつ試してみて、増やしていくのがいいでしょう。運用する場合は、リスクを学び許容できるリスクの範囲内で投資して下さい。仮想通貨は技術としてもまだリスクがあります。なくなってもいいお金で運用するという考え方です」
一方で金融ベンチャー経営者の男性はこう話す。
「現状の仮想通貨は投資対象としては、私は極めて懐疑的です。ギャンブルのようなものではないでしょうか」
ビットコインなどの仮想通貨は、もともとは仮想通貨を支える技術に詳しいエンジニアらが勉強をかねて購入してきたケースが多い。そのため、冒頭の男性のように、プログラムによる自動売買をする人も少なくないという。特に技術にあまり詳しくない人にとっては、仮想通貨投資はギャンブルのひとつと考えたほうがよいのかもしれない。
(編集部・長倉克枝)