官僚だけが大儲け。日本を破壊する「水道民営化」のトリックに騙されるな=田中優
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2017年9月28日 MONEY VOICE
今年3月に水道法改正が閣議決定され、民間企業が参入しやすくなった。政府は民間に丸投げしてコスト問題などを解決したい考えだが、これは警戒すべき動きだ。(『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』)
プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。
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危険すぎる水道民営化の動き。誰が得をして誰が損をするのか?
■ひっそりと水道法改正、民間事業者が参入しやすく
あまり多くの人の注目を浴びないまま、2017年3月に水道法の「改正」が閣議決定され、民間事業者が参入しやすいように改正された。
水道管の更新は0.76%しかされておらず、人口減少が見込まれる今、水道料金の値上げは必至の状況である。そんな中、その運営を民間事業者に託して「直面する課題に対応し、水道の基盤の強化を図る」とするのだが、何を言わんとしているのかよくわからない。
しかし水の現状を知るならば、課題があることに気づくのではないか。簡単に言うと、民間事業者に丸投げして、料金の値上げを伴う「課題解決」させようとしているように見える。
確かにインフラ事業を民間事業者が担っていることも多い。しかしその民間事業者はどうしているのか。電力会社は高給を取りながら潜在的危険性のある原子力発電を運用し、費用の問題から必要な津波対策を怠っていたために大事故を起こし、その対策費用の大半は税金に頼っている。
ガス会社は築地に代わる市場用地を売却したが、その豊洲市場は土壌汚染されていて、施設が完成した後にも移転できずにいる。
むしろ民営化には危機感を持って監視した方がいいのではないか。今の楽観に基づいた「民営化」に、警戒心を持ってほしい。その思いからこの文章を書くことにした。
■このままでは「持続不可能」な水道事業
水道料金は水道事業の全額を賄えていない。そのために一部だが、公費(税金)からの支出がされていることが多い。水道管の敷設には莫大な資金がかかるが、高度成長期以降に敷設した水道管の多くは更新の時期を迎えている。
しかしその資金は膨大で、負担しきれないほどの額になっており、そこから水道事業は持続不可能だと考えられるようになった。さらにのしかかるのが人口減少で、1人当たりの水単価を上げなければならない状況だ。
ダムなど恒久的な資産を造っても、その費用を賄えるほどの水道料金を稼ぎ出すことができない。こうした八方塞がりの状況になると、解決策を考えるよりも事態を悪化させる「巨大な改革案」が出されがちだ。「他国と交渉するよりも戦争した方が早い」、「国連を脱退する」とするようなものだ。
まさに水道がその対象となり、「小さな水道は広域化しよう」、「民間企業に任せてしまえ」というような流れになる。
■日本は世界の流れに逆行している
しかし本当に必要なのは解決策を考えることなのだ。民営化すると、民間企業には利潤や余分な報酬が必要になる。つまり水道料金を高くする可能性が高い。
実際に水道事業を民営化した国の後の事態を調査してみればいい。なんと水質が悪化した上に料金が高くなり、貧しい人は水が得られなくなって、人権問題を生じている例が多いのだ。その結果、「再公営化(再度公営事業に戻すこと)」をせざるを得なくなった事例が多く見受けられる。
世界でのトレンドは「再公営化」なのだ。しかも契約解除に伴って違約金を払わさせられる例も多い。そんなときに日本は遅れて出てきて、民営化しようとするのだ。
■日本の水道事業が赤字になる本当の理由
水道事業は小さい単位で行われている。簡易水道769事業を含めて、全国に2123事業も存在し、水価格も事業者ごとに異なっている。その差も非常に大きく最大では14倍ある。
今後人口の減少が予測される日本では、1人当たりの水道負担が大きくなる。しかし水道料金が赤字化して高くなるのは、そのせいばかりではない。むしろ多くの問題は、これまでの水道の考え方にあったのかもしれない。
水道料金は各事業単位で独立採算で決めて良いことになっており、どこに住むかによって年間にすれば数万円違ってしまうのだ。その中で水道料金の高い地域は、ほぼダムを造った地域になっている。
高いものを見ると、「夕張シューバロダム」「宮ケ瀬ダム」「月山ダム」などに水源を依存する自治体が、水道料金が高いのだ。これに対して安いのは、井戸から汲んだ水を供給している地域だ。ダムを造らず、良質の水道水に恵まれた地域が安い。
■なぜ無駄なダムが造られるのか?
ダムがなくても川に水は流れているが、その水には水利権がついている。しかも水利権はこれだけ農業の水利用が減っても失われない。水利権は他に譲渡したりすることができないものとされているからだ。
そもそも高くつくダムを造らざるを得なかったのも、この水利権のせいだ。川に流れている水には所有者の名前は書かれていないが、水利権はついている。川の水を使って発電や水道供給をしようとしたら、川に流れる水量に影響を与えずに水を使うしかない。
そこで造られたのがダムである。ダムは川を流れる水のうち、余分な水だけを集める。流れる水はそのままに、一時的に多く流れる水をダムでせき止めて、その分だけ使うのだ。
ところが、日本の農業に利用する水は減り続け、今や往年の利用水量の半分以下になってしまった。だから農業用に確保された水を転流すれば、それだけで水は足りてしまうのだ。水利権に手を付けずに、ダムを造らせたのと同じ構図が今回の水道民営化にある。
日本では、土建国家と呼ばれるほど公共事業が進められる状況の中で、必要以上のダムが造られた。ダムに貯められた水のうち、使われない水の方が多いほどなのだ。そのことは、各地の水需要の予想図を見るとわかる。水需要が減っているのに、自治体の考える水需要の予想図だけが伸びているのだ。これではどんどんダムが造られてしまう。
■自治体が助長する「水の無駄使い」
現に、今なおダムがあちこちに造られようとしている。その水を消費するはずの人口が減っているのに。しかも節水型の装置のおかげで水消費量はどんどん減っている。
かつての水需要の大きな部分を占めていた水洗トイレの水消費はどんどん減り、いまではかつての5分の1ほどの水しか使わなくなった。食器洗浄機の水消費量は、手洗いするより消費量が少なくなった。
需要と供給があるとき、ダムを造って供給量を増やすことばかり考えるが、水需要そのものを減らすべきなのだ。この誤算の結果を水道料金だけに反映させるから、単位当たりの水道料金が高くなるのだ。
かつては産業の消費する莫大な水に対する料金にも、「使えば使うほど高くなる」逓増制の料金制度を課していた。すると事業者は高くなる料金を嫌って、水を再利用できる仕組みにしたり、海外に逃げたりして消費量を減らした。それによって水消費量は激減した。
すると需要が減って困った自治体は、料金を逆に「消費量が多いと安くなる」逓減制に変えたりしている。これによって水の無駄遣いが増えているのが現状なのだ。
■水道民営化で元水道官僚たちが大儲け
水道料金の算定式は、電力で批判されたのと同じ「総括原価方式」を採っている。かかった費用はすべて料金に上乗せして、適正な報酬額を含めて料金から取っていい仕組みなのだ。そのせいでとめどないダム建設ラッシュと、料金の値上がりが続くのだ。かけた費用は利益率を上乗せして料金に反映できるのだから。
電気はこの「総括原価方式」を2020年には廃止することにした。ところが水道ではそのまま「総括原価方式」が維持され、さらに民営化で元水道官僚たちによる民営会社が仕事を受けようとしている。これでは「ゴミにたかる害虫」を増やすことと同じだ。民営化の前にすべきことをすれば、支出は不要になるからだ。
すべきことはまず人口推定に見合った「水需要」を正しく想定し、正当な水需要に合わせた水供給プランを作り直すことだ。これまで聖域のようにされていた「水利権」を実際の農業用水の必要量に合わせて見直し、余剰分を有料で水道供給用に転流できるようにする。
するとダムの新規建設は不要になるから、不要不急のダム建設は中止できる。水道料金の前提になる「総括原価」も下がるので、水道管路の更新以外には原価自体も下げられる。それに沿って料金を改定していき、どうしても料金が上げざるを得ないときには、職員1人当たりの供給水量から見て、人件費、その他の費用が高すぎるならば民営化も考えなければならないだろう。
それを最初から民営化ありきにしたのでは、問題をさらにこじらせることになる。
■民営化は水道問題の解決策ではない
民間企業は自らの利益を高め、企業価値を高くすることを目指す組織であることを忘れてはならない。海外で水道の民営化が行われた国々では、水質の悪化や料金の高騰を招いて、今や「再公営化」が進められているのだ。
日本はこのタイミングで水の配分について再考し、今後に適したシステムに変える必要がある。そのことを忘れて水道を民営化させれば、さらなる「ゴミにたかる害虫」を増やすことになってしまう。
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世界の過去の事例やこれまでの民営化の実績を実情を振り返って、拙速でない対策を採らなければならない。私には少なくとも民営化は解決策とは思えない。