日本だけが「AI仕事革命」に乗り遅れる、致命的な欠点が見えた 問題は、雇用制度だった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52902
2017.09.24 鈴木 貴博 現代ビジネス
AIとロボットの進化で2035年までには仕事の半分が消滅する可能性か高い。そのとき、日本の企業が維持してきた終身雇用という岩盤規制はどう崩壊するのか。また、それに備えて個人はどう生き方を変えるべきなのか。
経営コンサルタントで『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』の著者・鈴木貴博氏と人事コンサルタントの城繁之氏が9月1日東京・八重洲ブックセンターでのトークイベントで激論を戦わせた。
■付加価値の高い仕事が危ない
城 『仕事消滅』はすごく衝撃的な本ですね。帯には生存率51%、つまり49%の仕事がなくなるかもしれない、とあります。これ自体ショッキングですが、それ以上に意外だったのは、付加価値の低い仕事から順にAIに取って代わられると想像していたが、実はそうではないらしい。むしろAIやロボットが一番苦手なのが手や指を使う作業だという指摘でした。
たしかにパテシエのような繊細な仕事は今のロボットには難しいと思うし、もっと言えばマックでパテを焼きながら盛り付けも同時並行的に行うのはロボットやAIにとって簡単ではないだろうな、と。
鈴木 そうなんです、AIは過去の膨大な情報の中から必要なものを取り出して正解を導き出す作業ならなんなくこなせますからね。
城 そこで直感的に思ったのは、今企業の中で既得権益を握っている正社員が抵抗するだろう、ということ。例えば2000年前後、大手製造業では海外移転や自動化で余った製造ラインの職員をシステムエンジニアとして教育しようとした。しかしまったくの畑違いですから、成果が出ませんでした。
なぜそんなことをするのかというと、日本企業はまず人を採用し、それを前提に仕事を作ろうとするんです。企業の体質改善や組織の見直しがうまくいかないのもそのため。アメリカは仕事があって、そのために人を雇うのとでは対極です。
だとすれば、AIで作業が置き換えられたとしても、正社員という既得権益を持つ人たちは死に物狂いの抵抗する可能性が高いのではないでしょうか。
鈴木 経営のコンサルの立場で言えば、既得権を持っている人の立場を守ることはとても重要なんです。私に依頼してくるのは既得権を持っている人たちだから(笑)。その観点で言えば、城さんの指摘に異議はありません。
ただし、その状態は長くないと思っています。例えば、自動運転技術が確立しました→長距離ドライバーとタクシー運転手の仕事を守ろうとする→運転席には必ず人間が座る必要があるという法律ができる、ということですね。ただ、こんなことをしても、世界の他の国はそこをスルーして無人のクルマを走らせた場合、運輸にかかるコストで日本とそれらの国で大きな差が生じる。
こうした事態がさまざまな業界で起きれば、国と国との経済格差が劇的に広がってしまうでしょう。要するに日本の競争力は低下するわけです。
城 それを日本人がどう考えるのか、ということですね。
鈴木 ウーバーという便利なものがあってアメリカはもちろん中国でも急速に普及しています。一度使うとわかるのですが、きわめて便利ですが、日本ではウーバーがちゃんと仕事ができないような法律ができてしまった。
世界の人はAIの恩恵を受けて低コストで快適な暮らしをしているのに、日本だけはタクシー運転手を守るために多くの人はそれを享受できない。それってとても恐ろしい未来ではないでしょうか。
城 雇用を守る代わりに国民全体が不幸になる。ほとんどブラックジョークですね。
■終身雇用のしがらみ
城 AIと終身雇用の関係は大きな課題ですが、いまのお話を聞いてますます疑問が大きくなりました。日本企業の頑固さ、打たれ強さにはほんとうに頭が下がります。ただ、本書に書かれたAIの未来はまさに革命で、それが現実になれば、さすがに変わらざるをえないでしょうね。
日本企業が「いや、担当部長は必要だ」と抵抗し、名前だけは部長を遺すことに成功したとしても、そうしたしがらみや組織文化を持たない外資系企業がこれからはどんどん攻めてくるからです。
彼らとの戦いは日本企業の論理など通用しない無階級サバイバル。いずれどこかで終身雇用のシンギュラリティが起きることになるのでしょう。
鈴木 そうした中で個人がどう生きるかは大変難しい課題ですね。
鈴木氏(左)と城氏
城 そこで私が言いたいのは、一つの企業に長く勤めることによるしがらみやデメリットがあるということ。例えば、雇用を守ってもらうためにはなんでも企業のいうことを聞かなければいけない。転勤、残業。時には違法行為まで。会社の都合を優先することで個人のキャリア形成のチャンスを奪われるとも言えます。
60才定年で平均寿命が80才の時代はよかったかもしれませんが、平均寿命が100才になれば、65才で定年してもその後20年は働かなければいけない。なんのスキルもなければ、第二の人生が非常に暗い物になってしまう。
そうならないためには、東大の柳川先生も提唱していますが、40才時点で自分のキャリアの棚卸しをしてはどうでしょう。本当にやりたいことは何か、できることは何か、足りないものは何かを考え、就職活動をしてみる。
そういう風に人生を考えた方が幸せになれるし、多くの人がそうなれば、終身雇用のシンギュラリティも意外にスムーズに乗り越えられるかもしれない。
鈴木 それが理想ですが、残念ながら私はやや懐疑的なんです。日本社会は古い規制やしがらみを断ち切る必要があることは経営者や政治家もそれはわかっているのですが、できていない。要するに日本は既得権の守り方がいびつで、とてつもなく下手なんです。もっとも顕著な例が年金でしょう。
20代の若者に今真面目に保険料を払えば将来、返ってきますよ、というのはどう考えても嘘なのに、それを言い続けるから何も解決しない。このままいけば今の20代が高齢者になる頃は、年金は90才支給になっている。元本割れどころではありません。だとすれば、年金はネズミ講で、新たな加入者が減れば成り立たない。申し訳ないが嘘をついていました、と謝るべきです(笑)。しかし、それは政治的にできない。
城 たしかにいずれ起こるとわかっていたはずなのに、気づかないふりをして、実際に起きると「想定外でした」で終わり、だれも責任を取らないという話ばかりですね。
終身雇用で言えば、入社した時「65才まで雇うし、給料も上がる」と言った上司はすでに定年していなくなっている。話が違う、と怒っても「そう言われても、当事者がいないので」で終わりで、裁判をしても勝てないでしょう。どこにも「終身雇用します、年功で給料も上げます」と書いた契約書がないから。だとすれば、個人で防衛するしかない、とう結論になるしかないんですかね。
鈴木 老後の生活も年金に頼らず個人で防衛しましょうという意見が最近は多くなっていますが、既得権と思われていたものは「そんなものは知らない」で逃げるのはよくない。やはり守るべきです。
そうしないと日本のために頑張ろうという人がいなくなります。ただし、30年50年という時間軸で守るなど、できもしない嘘はやめるべき。
城 だとすれば、賃金制度を根本から変えて、完全な成果報酬にするしかない。
鈴木 そうなのだけれど、終身雇用の幻想を抱いている人を大量に抱えた会社ではそう簡単ではないでしょう。ではどうなるか。
前にも触れましたが、しがらみを維持して高い人件費を払い続ければ、当然利益が減り、新たな投資もできなくなるから、新興企業に徐々に駆逐される。最終的にはシャープが鴻海に買われたような形で、雇用は守られるけど雇用契約はすべて新たにやり直すというやり方しかない。
そういうと暗い話のようですが、これでしがらみがなくなったことで、シャープの業績が回復しているように、日本経済の活性化する。それは決して悪い話ではないのではないでしょうか。
城 既に目鼻の利く学生はそれに気づいている。東大でも優秀な学生は、いわゆる重厚長大型企業は就職先の候補にも入れていない人は多い。若い連中は、理屈はともかく、感覚としてわかっているし、変わりつつある。
我々大人が心配するよりも、若者はうまくシンギュラリティに対応できるのかも知れませんね。
■創造的な仕事はむしろAIと相性がいい
城 この本で目からうろこだったことのひとつが、クリエーターがAIで仕事を失う可能性がとても高いという主張でした。
しかし、言われてみれば、アーチストやクリエーターと言っても、作品の多くは過去の作品からインスパイアされて生まれている。悪く言えば焼き直しです。だとすれば、そうした作業はAIの一番得意な仕事なんですよね。
鈴木 創造的な仕事ってAIととても相性がいいんです。私が所属しているオスカープロモーションにも人工知能を研究している美人の先生がいて、電気通信大学の坂本真樹教授ですが、彼女が中心になって「仮面女子」の歌詞を人工知能で作る実験を進めています。実際にそうしたやり方で作られた歌詞があるが、けっこういい歌詞なんです。
曲に関しても過去のヒット曲を分析することでどんな曲が支持されるかがわかり、それを元に売れる曲が作れるらしい。人間が作った曲に対しても、これは売れるかどうかが、かなりの確率で判断できるらしく、海外の大手音楽会社ではその判断を参考にプロモーションにどれだけお金をかけるか決めるようになるそうです。
城 AIで作曲される時代も間近ということですね。
鈴木 清水ミチコさんが「だれだれ風の作曲法」というネタをやっているのをご存じですか。いきものがかり風ならいきなり最初にサビから入り、いったんだらだらしたフレーズが来て、再びサビで盛り上げる、みたいなやつ。その手法をAIがマスターすれば桑田佳祐風の曲も作れるらしい。
かりにそれが実現したとして、私が音楽会社の経営者で人間が作曲した曲とAIが作った曲のどちらを採用するかと言えば、AIです。だって売れる確率が高いから。
城 経営的にはそうかもしれませんね。ただ、そうなった時、人間はどんな存在として生きればいいのでしょうか。かなり気持ちが暗くなりますね(笑)
鈴木 数日前の話だけれど、ゴールデンボンバーの歌広場淳さんと会う機会があり、本書でも彼のことを書いているから渡しました。「なにが書いてあるの?」と聞くから「2030年頃に音楽アーチストが絶滅する」と書きましたが同時に「ゴールデンボンバーは生き残る」と本書の中で書いています。
ご存じない方のために説明すると彼らはエアバンド。つまり、演奏をしないんです。歌広場さんはベースで弾くことはできるのだが、ステージでは演奏をしているふりだけをしている。他のメンバーも同じ、楽器演奏のための練習をする時間を使って、どうすれば観客を喜ばせることができるか、それを考えることに100%エネルギーを集中している。結果として彼らのステージはとても楽しく、多くの観客を集めている。
城 パフォーマーとして生き残るのは彼らのようなタイプだとすると、一般のビジネスマンで言えば、頭を使う分野ではなく、器用というか世渡りがうまい人が生き残ると言うことか。
鈴木 それは多分にありますね。その一つの方向として私が注目しているのが、メカトロという考え方。要するにAIと機械が合体した分野です。IT分野で日本がアメリカ企業に牛耳られそうになった時、日本の防波堤になれるのがメカトロ産業だと言われました。プログラムや半導体などはアメリカが強いけど、彼らはメカが苦手なのです。例えばATMの機械はアメリカでは作れない。
それと同じでメカトロ人間がこれからは有望かもしれません。頭を使う部分はAIに頼りその恩恵を受けつつ、そこにプラスして行動力で稼ぐとか、手先を動かして稼ぐ。それができれば、AIでパワーアップされた人間になれるし、それを目指せというのがありなのではないか、と。
城 メカ的な能力とはどんなのものなのですか?
鈴木 医者で言えば内科医ではなく外科医や歯科医。外科医も過去の蓄積から患者の症状を把握して原因がどこにあるかを突き止める必要があり、そこはAIを活用することで精度を高めることができる。誤診も減らせます。
また、誰かが開発した術式の習得もAIを使うことで短期間にマスターできるようになる。そうすることでメカトロ医者としてパワーアップした外科医になれる可能性があるわけです。
城 一般企業の中間管理職で言えば、なんだろう。
鈴木 それが実はなかなか難しい。だから早い段階でAIに取って代わられると考えているのですが(笑)、少なくとも考える部分が自分の強みだ、といった一点張りのやり方には限界が見えています。専門的知識、過去の経験はかなり早い段階でAIに取って代わられるのは間違いありません。
じゃあクリエイティブな発想ができるから大丈夫だという自信を持っている人も2030年から35年には怪しくなる。では、そこで残るのはなにかと言うと、妙に人を動かす魅力があるとか、彼にはついていこうと思わせるカリスマ性があるなど、定量化されていない能力が最後の最後まで価値を維持するのではないでしょうか。
城 最後は信頼感や包容力という人間性が問われるということなのかもしれませんね。