低「延滞率」ランキング(平均以下で学生数1万人以上の大学限定)/※延滞率は日本学生支援機構「学校毎の貸与及び返還に関する情報」から、2015年度末時点で過去5年間に奨学金貸与が終了したもののうち、3カ月以上延滞している学生の割合を算出した
奨学金「延滞率ゼロ」大学ランキング〈AERA〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170823-00000073-sasahi-soci
AERA 2017年8月28日号
オープンキャンパス真っ盛りのこの季節。最近では親同伴で学内を回る姿も珍しくない。教育環境や入試倍率、学費もそうだが、“出口”の就職率なども気になるところ。AERA 8月28日号で、コスパのいい進学先を調べてみた。
日本学生支援機構が各大学の奨学金延滞率のデータベースを公表した。5%を超える大学もあるなか、0%の大学もあった。低延滞率を誇る大学には就職力を超えたキーワードがあった。
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大学生の2人に1人が奨学金を借りている。彼らが生まれた約20年前は5人に1人程度。この間、給与所得者の平均給与は1997年の467万円をピークに2015年には420万円に。これと比例するように10万円以上の仕送りを受ける大学生は同期間で63%から31%に。ネガティブな数字を挙げればきりがない。
大学生の8割が利用する日本学生支援機構の奨学金を例にとると、最大月額12万円の第2種奨学金を4年間借りれば、月額3万2297円の返済が20年間も続く。延滞者も出てくる。日本学生支援機構の調査によれば、延滞が始まった理由のトップは「家計の収入が減った」(76.1%)、延滞が継続している理由は「本人の低所得」(67.2%)だ。大学卒業後の職の不安定さが影響しているのは間違いない。
今回アエラでは、日本学生支援機構が公開しているデータをもとに「延滞率がゼロの大学」に加え、学生数が1万人以上で、平均延滞率1.3%台以下の大学を対象に「低『延滞率』ランキング」を作成した。奨学金を「返すことができる大学」に何か秘密はあるのか。
情報非公開の大学を含め749校中、「延滞率がゼロの大学」は40校。そのうちの一つ、明治薬科大学(東京都清瀬市)を訪ねた。小山清隆副学長はデータの結果を見て、こう話した。
「大半が医療関係の大学だ。医療業界は全体的に人手不足。逆を言えば、就職もいい」
●卒業率に注目する
同校は薬学部のみの単科大学で、薬剤師を養成する6年制の薬学科と、約7割が大学院に進学する薬学のスペシャリストを育てる生命創薬科学科がある。薬剤師の国家試験の合格実績は平均を大きく上回る94%(17年)。病院や薬局を中心に、就職率は5年連続で95%以上だ。小山副学長は「歴史」と「小規模」の二つのキーワードを挙げた。
「1902年の創学以来、3万5千人を超える卒業生が様々な現場で活躍しており、医療機関からの信頼が厚い。小規模だから就職支援もマンツーマンでできる。さらには卒業生の同窓会組織“明薬会”が毎年、同窓会主催の就職支援フォーラムを実施する。学生は『福利厚生はどうなのですか?』なんてリアルな質問もすることができ、就職後のミスマッチも防げている」
民間企業に就職する学生もいるが、薬剤師の求人倍率は10倍を超え、全国どこででも職にありつける手堅い職業だ。滞納を防ぐ背景に、安定した資格があることは間違いない。
ただ、「大学ランキング」編集統括で教育ジャーナリストの小林哲夫さんはこう指摘する。
「医科、歯科、薬科などの大学は、もともと学費が高く、支払う能力のある家庭の子どもが中心。奨学金を利用する学生はそれほど多くはないだろう」
コストパフォーマンスの点で小林さんは「標準修業年限卒業率(卒業率)」に注目する。大学を4年間で、医学部や薬学部なら6年間で卒業する率を指す。
「高度な資格試験浪人や留学のためなど、一概に4年で卒業できる大学がいいわけではないが、留年など落ちこぼれを防いでいる“面倒見のいい大学”と見ることもできる」(小林さん)
そうした点で見ると「延滞率がゼロの大学」に入る仙台白百合女子大学(仙台市)は興味深い。大学ランキングの調査によれば、卒業率はランキング上位の94.8%だ。東北唯一のカトリック大学で、東京の白百合女子大学(調布市)と同じ経営母体。お嬢様学校かと思いきや、約6割の学生が奨学金を利用しているという。人間学部のみの単科大学で、保育士や幼稚園教諭としての就職を目指す人間発達学科など資格取得に力を入れているが、民間企業への就職者も多い。偏差値は決して高くなく、定員割れも起こしている。
●小規模が最大の魅力
強みは何なのか。心理福祉学科4年の横澤要さん(22)はこう話す。
「小規模であることが最大の魅力。ゼミは4人程度で、先生との距離も近く、個々の考えや意見もきちんと聞いてくれます」
ほかに2人の学生に話を聞いたが、皆が「小規模であることが魅力」と口を揃えた。石岡宏美キャリアセンター長は言う。
「各学科にキャリアの専任職員を置き、個別ですべての学生の相談にあたっている。職員は皆、学生の顔を覚えており、名前で呼び合っています」
明治薬科大学に続き「小規模」というキーワードが出たが、「延滞率がゼロの大学」はどこも小規模の大学ばかりだった。
ならば学生数が1万人以上の「低『延滞率』ランキング」はどうだろう。採用コンサルティング会社「人材研究所」の曽和利光代表は上位に地方の国立大学が並ぶ点に注目する。
「今は大卒就職は全国的に売り手市場だが、特に人材が大学進学で都市部に流出する地方のほうが、地元に残った優秀な人材の激しい奪い合いになる」
ランキングのトップは岡山大学(岡山市)。結果に対し、学生総合支援センター副センター長の坂入信也教授(キャリア形成)は「学生の資質」と謙遜するが、興味深いのはキャリア支援の一環として「部活」に力を入れていることだ。都市部の有名私大ではスポーツ推薦枠の学生が一定数在籍し、一般の学生が活躍しづらい面もある。同大では学生の半分、サークルも入れると7割が部活動に参加しているという。
坂入教授はこう話す。
「部活動は縦の関係を学べるうえ、他学部の学生との交流もできる。いまだ企業から文武両道の人材の評価は高い。そうしたことを伝え、意識的に部活動に入るように仕掛けています」
坂入教授は今回の結果に関し「大学の名前を背負って活動することで責任感も芽生え、それが低い延滞率につながっているかもしれない」と付け加えた。
私大のトップは名城大学(名古屋市)。名古屋はモノづくり企業の集積地で、地元意識が強い。学生のうち愛知県出身者が約65%で、約9割は東海4県の出身者。卒業生の約8割は地元で就職する。吉久光一学長は名城の強みをこう話す。
●文理に幅広い求人
「名城は9学部23学科を持つ、中部地方最大級の学生数を誇る大学です。文系に特化した大学や、理系に特化した大学はあるが、中部地方で本学のような文理総合の学びを提供できる大学は少ない。幅広い学びから巣立った19万人を超える卒業生が様々な業界で活躍している」
理系の企業であっても、文系の営業職が必要だし、文系の企業にとっても、専門知識のある理系人材が必要だ。文系理系双方の学部があるため、同校を訪問する企業は幅広い。名古屋には南山大学などほかに有名私大はあるが、いずれも文系学部が中心だ。キャリアセンターの犬飼斉事務部長は言う。
「たとえば文系の金融業界の景気が悪くても、理系のメーカーの求人でカバーできる。逆もまたしかり。ほかの業界でカバーできるのがうちの強みです」
●就職先の満足度高い
今春の卒業生の就職率は99.7%。経営学部4年の山口直也さん(21)は、親身なキャリア支援も魅力だと話す。
「1年次からそれぞれに進路担当の職員が割り振られる。困ったときに相談できる人がいることはとても心強い」
都内の有名私大では慶應大学がトップになったが、MARCHでは立教大学(豊島区)がトップだ。今や立教の看板学部となった経営学部が、受験業界に異変を起こしている。「進学レーダー」編集長の井上修さんは、
「早稲田の商学部や慶應の商学部と偏差値で並び“早慶上立”なんて言葉も生まれている。特に女子学生に人気があり、優秀な学生が集まってきている」
かつては内部進学者の第1希望は社会学部や経済学部だったが、今では経営学部だという。
就職支援も手厚い。キャリアセンターの市川珠美課長は、
「企業を訪問するスタディーツアーなども1年生から始め、社会を知ることに取り組みます。昨春の卒業生対象のアンケートでは、93.9%が就職先に大変満足、または満足と答えています」
希望する会社に入社できれば離職率も減り、奨学金の返還が延滞することもないだろう。
オープンキャンパスも終盤戦を迎えた。低延滞率大学から見えてきたいくつかのキーワード。進路選択の指標になるのでは。(編集部・澤田晃宏)