自衛隊の「PAC3」では、この国は絶対に守れないことが判明 原発を射程に収めているのはゼロって…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52023
2017.06.17 半田 滋 現代ビジネス
いざとなれば狙われる
北朝鮮による弾道ミサイルの発射がとまらない。今年5月までに9回を数え、8日には地対艦ミサイルを撃つなど各種ミサイルを取り混ぜての挑発が続いている。
日本列島に落下した場合、一番の脅威は原発に命中することだろう。放射性物質が飛び散れば、福島第一原発の事故を上回る大惨事になりかねない。「ミサイル防衛システムがあるから大丈夫」と考えるのは甘い。原発を守る迎撃態勢がとられていないからである。
日本に原発は42基ある(日本原子力作業協会調べ)。米国の99基、フランスの58基に続く、世界第3位の原発大国である。稼働しているのは川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)と伊方原発3号機(愛媛県伊方町)、高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の5基となっている。
一方、政府は日本に対する武力攻撃について閣議決定した「国民の保護に関する基本指針」で起こりうる事態として(1)着上陸侵攻、(2)ゲリラや特殊部隊による攻撃、(3)弾道ミサイル攻撃、(4)航空攻撃、の四類型を想定している。
このうち(3)弾道ミサイル攻撃の特徴について「攻撃目標を特定するのは極めて困難」「弾頭の種類(通常弾頭又はNBC弾頭)を着弾前に特定することは困難」とし、留意点として「通常弾頭の場合には、NBC弾頭の場合と比較して、被害は局限され、家屋、施設等の破壊、火災等が考えられる」としている。
攻撃してくる相手国がどこかは特定していないものの、通常弾頭による攻撃を留意点に挙げているのは、核兵器を小型化して弾道ミサイルに搭載するまでには至っていないとされる北朝鮮を想定しているためだろう。
ただ、北朝鮮はわが国同様、国際紛争における犠牲者の保護を定めた「ジュネーブ条約第一追加議定書」の締約国でもある。北朝鮮も、締約国の義務である「住民と戦闘員、また民用物と軍事目標とを常に区別し、軍事目標のみを軍事行動の対象とすること」に同意しているが、日本政府は「家屋、施設等の破壊」を警戒する。「いざとなれば何でもありの国」と考えているのだ。
現に内閣官房の国民保護ポータルサイトには弾道ミサイル落下時の対処法がアップされている。「速やかな避難行動」「正確かつ迅速な情報収集」をスローガンに消防庁の全国瞬時警報システム「Jアラート」が鳴った際の行動として「屋外にいれば頑丈な建物や地下に避難する」と説くのは、軍事目標だけでなく住民や家屋、施設が攻撃対象になるとみている証拠だろう。
原発のミサイル対策は「想定外」
自治体による避難訓練も連続している。今年3月、秋田県男鹿市で初めて訓練を実施したのを皮切りに5月に青森県むつ市、6月には福岡県大野城市、山口県阿武町、山形県酒田市、広島県福山市、新潟県燕市、福岡県吉富町、山口県岩国市であり、7月には富山県高岡市で予定されている。
岩国市の場合、6月23日に全小学校を対象にサイレン音を校内に流し、机の下に隠れる訓練を行い、27日には市の全域でJアラートを流して訓練する。
「かえって住民の危機感をあおる」「過剰反応ではないか」との批判もあるが、山形県の吉村美栄子県知事は定例会見で「訓練こそ最大の防御」と語った。おおまじめなのだ。
それはそうだろう。安倍晋三首相が「サリンを(ミサイルの)弾頭に着け、着弾させる能力をすでに保有している可能性がある」(4月13日参院外交防衛委員会)と述べ、国民に安全安心ではなく、恐怖を与えることに熱心なのだから、地方も負けてはいられない。
避難訓練する自治体をみると、原発が所在する自治体が一カ所も含まれていない点に気付く。原発は弾道ミサイルが落下してもビクともしないのだろうか。
安全保障関連法案が国会審議されていた2015年7月29日、山本太郎参院議員が参院平和安全特別委で稼働直前の川内原発に弾道ミサイルの直撃があった場合の被害を尋ねたのに対し、安倍首相は「様々な想定があり得ることから、特定の量的な被害は期していない」と答弁した。被害の見積もりはしていない、というのだ。
想定がないことが被害のないことを意味しないのは、福島第一原発の事故が証明している。原発事故は起きないという「原発神話」のもと、最も深刻な「レベル7」の事故は起きた。あの事故で政府や米政府の最大の関心事は運転停止中の4号機にあった核燃料プールの水位だった。
当時の民主党政権は、爆発のあおりを受けた4号機にある使用済み燃料棒1535本が入った核燃料プールの水がなくなれば大量の放射性物質が放出され、原発から半径250`圏まで避難の必要があると覚悟した。
米政府は日本側の確認を待つまでもなく在日米軍家族のうち約7000人を国外へ退避させ、グアムから滞空型無人機「グローバルホーク」を飛ばして水の有無を確認したほどだ。
幸い冷却のための水があることが確認されたが、ここで得た教訓は原子炉格納容器が破壊されなくても、核燃料プールの水がなくなれば未曾有の被害が出るということである。
核燃料プールは、福島第一原発のような沸騰水型原子炉(BWR)では原子炉格納容器の上の天井に近い場所にあり、上空から落下する弾道ミサイルの餌食になりかねないことを全世界が知ることとなった。
川内、高浜、伊方のような加圧水型原子炉(PWR)は原子炉格納容器の横に位置するが、原子力規制委員会はBWR、PWRどちらの原発に対しても弾道ミサイルが直撃した場合の対策は求めていない。安全神話は今も健在なのである。
250基のミサイルvs.34機のPAC3
稲田朋美防衛相は昨年8月、北朝鮮の度重なる弾道ミサイル発射に対し、自衛隊に迎撃態勢をとらせる「破壊措置命令」を発令した。兆候をつかみづらい移動式発射台からの発射が繰り返されていることを受け、常時発令した状態を維持し、現在に至っている。
日本のミサイル防衛システムは日本海のイージス護衛艦が艦対空ミサイル「SM3」で迎撃し、撃ち漏らしたら地対空迎撃ミサイル「PAC3」で対処する。
一隻あたりのSM3の搭載量は10発以下とみられる一方、北朝鮮は日本まで届く「スカッドC」(九州北部、中国地方)、「スカッドER」(本州全域)、「ノドン」(日本全域)などの弾道ミサイルを合計250基以上の発射機を保有する(2013年5月、米国防総省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」)。
イージス護衛艦を複数動員したとしても弾道ミサイルを連射されれば、いずれSM3は尽きる。「最後の砦」がPAC3なのだ。
では、自衛隊はPAC3発射機を何機持っているだろうか。以下が航空自衛隊の地対空ミサイル部隊である。
▼第1高射群 (関東防衛、入間基地) =第1高射隊(習志野分屯基地)、第2高射隊(武山分屯基地)、第3高射隊(霞ヶ浦分屯基地)、第4高射隊(入間基地)
▼第2高射群 (九州防衛、春日基地) =第5高射隊(芦屋基地)、第6高射隊(芦屋基地)、第7高射隊(築城基地)、第8高射隊(高良台分屯基地)
▼第3高射群 (北海道防衛、千歳基地) =第9高射隊(千歳基地)、第10高射隊(千歳基地)、第11高射隊(長沼分屯基地)、第24高射隊(長沼分屯基地)
▼第4高射群(中部防衛、高岐阜基地) =第12高射隊(饗庭野分屯基地)、第13高射隊(岐阜基地)、第14高射隊(白山分屯基地)、第15高射隊(岐阜基地)
▼第5高射群 (沖縄防衛、那覇基地) =第16高射隊(知念分屯基地)、第17高射隊(那覇基地)、第18高射隊(知念分屯基地)、第19高射隊(恩納分屯基地)
▼第6高射群 (東北防衛、三沢基地) =第20高射隊(八雲分屯基地)、第21高射隊(車力分屯基地)、第22高射隊(車力分屯基地)、第23高射隊(八雲分屯基地)
▼高射教導群(教育、浜松基地)=第1教導隊、第2教導隊
下線があるのがPAC3を保有する高射隊である。16個部隊、1個教導隊が2機ずつ合計34機の発射機を持つ。2機ずつなのは発射機を2機並べて使うためで、これにより防御地点は全国で17カ所となる。防御範囲は1カ所あたり直径50kmとされる。
それぞれの基地を中心に直径50kmの円を描くと、いずれの原発もその円の中には入らない。原発には「PAC3の傘」がかかっていないのが現状である。
まだ「原発神話」を信じているのか
防衛省は13日、小牧基地(愛知県)、福岡駐屯地(福岡県)、朝霞駐屯地(東京都)、北熊本駐屯地(熊本県)の4カ所にPAC3を機動展開する訓練を実施すると発表した。稲田防衛相は「国民の安全安心に寄与する」と述べたが、PAC3が配備されている基地から別の基地・駐屯地へ移し、自衛隊施設の防御を図るだけである。
なぜ、原発近くにPAC3を移動させないのか。自衛隊を統合運用する統合幕僚監部の将官は「政治の命令がないのです」という。政治が軍事を統制するシビリアンコトロール上、政治決断がないと勝手はできないというのだ。
奇妙ではないか。内閣官房が弾道ミサイル落下時の対処法をHPに掲載し、地方自治体が各地で避難訓練を実施しているのに原発は無防備で構わないというのだ。いまだに原発神話を信仰しているか、弾道ミサイルの原発への落下はないと考えているかのどちらかであろう。
思い起こされるのは今年のゴールデンウィーク前後の出来事である。
弾道ミサイル発射が懸念された金日成生誕記念日の4月15日、内閣官房「国民保護ポータルサイト」のアクセス数は急増し、3月のアクセス数を1日で上回った。4月29日の弾道ミサイル発射時には東京メトロや新幹線の一部が運転を見合わせる事態にまでなった。
その一方でゴールデンウィーク期間中、外遊したのは閣僚の半数にあたる11大臣にのぼり、副大臣11人と政務官8人も日本を留守にした。一般国民と政権中枢に近い政治家の行動には大きな落差があったのである。
その落差はさらに広がりつつある。政府は今にも弾道ミサイルが落下しそうだと国民を震え上がらせる一方で、原発を守ろうとする様子は少しも見せない。
求心力を高めることに北朝鮮をトコトン利用するものの、実は本気で心配などしていないと考えるほかない。安倍政権支持層は、この現実をよくみつめた方がいい。