最新調査が明らかにした、日本経済にとっての「いいニュース」 企業経営者のマインドに変化の兆し!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51888
2017.06.01 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
企業の予想インフレ率も大きく改善
日本経済新聞が毎年この時期に発表している「設備投資動向調査」において、2017年度の設備投資が前年度比で13.6%の増加(国内は同13.7%増とのこと)という結果になった。2016年度実績は同3.8%減だったので、様変わりである。
これはあくまでも「計画」なので、必ず実施されるという保証はないが、今年度、多くの企業が設備投資に対して前向きになってきたことを示すポジティブなニュースであることは間違いない。
言うまでもなく、企業の設備投資は、企業経営者が抱く自社の将来の業績予想や将来の経済環境の評価に依存している。その意味で、2017年度の国内設備投資が前年度比13.7%増と急拡大したということは、企業経営者の将来の収益環境に対するマインドが好転した可能性が高い。
これは、これまでの企業行動関連指標の推移にも現れている。筆者は個人的に、日銀短観の製商品の販売価格判断DIを重用している。企業にとって、自社の販売する財・サービスの価格をどのように設定するかは、企業収益に大きな影響をもたらすと思われるためだ。
そして、筆者は、この「製商品の販売価格判断DI」の構成比(翌四半期に自社の提供する財・サービスの価格を@引き上げる、A変えない、B引き下げる、の3択のそれぞれの構成比)から、「カールソン・パーキン法」という統計的手法を用いて企業の販売価格ベースでの「予想インフレ率」を算出しているが、この予想インフレ率が、直近(2017年3月時点)の短観において、「-0.89%」となった。
依然としてマイナスではあるが、過去の水準と比較するとかなり高い位置にあることがわかる(図表1)。2000年以降、今回とほぼ同水準だった局面は、2008年、2014〜2015年半ばくらいであった。
また、この「予想インフレ率」は、2013年4-6月期から2014年4-6月期までは順調に上昇していたが、その後、ピークアウトし、2015年7-9月期以降はマイナス幅を拡大させてきた。これが、2016年10-12月期以降、マイナス幅を縮小させ、2017年1-3月期に大きく改善した。
このように、2016年10-12月期から企業の予想インフレ率がマイナス幅を縮小させた理由は、「トランプ旋風」による円安など、いくつかあるだろう。だが、なんだかんだ批判を浴びながらも、持続的に緩和スタンスを維持してきた金融政策の効果がタイムラグをもって発現してきた可能性もある。
政府日銀はさらなる環境整備を
このような予想インフレ率の上昇(低下幅の縮小)は、(予想インフレ率でみた)実質金利の大幅な低下をもたらしている。
そして、図表2が示すように、この実質金利の低下が設備投資の拡大をもたらしつつある姿も確認できる(ちなみに、国内企業物価指数でみたインフレ率で割り引いた「事後的な実質金利」では、設備投資と実質金利の高い相関関係が得られない点は興味深い)。
逆にいえば、設備投資が2014年頃にピークアウトして以降、2016年まで低迷していた理由は、予想インフレ率の低下幅拡大による実質金利の上昇であったことが伺える。
ところで、「リフレの標準的な考え方」では、企業のデフレマインドが払拭されれば、デフレ局面で黒字に転換していた「フリーキャッシュフロー(これは、企業が「金余りの経済主体」であることを意味する)が減少し、やがては赤字(企業が「金不足の経済主体」になることを意味する)に転じることが想定されてきた。
だが、2000年以降、企業のフリーキャッシュフローの黒字幅が縮小したことは、2001年のITバブルのピーク時と、2007-8年の2回しかなかった。予想インフレ率の動きとフリーキャッシュフローの動きは密接に関連しているので(図表3)、久々に、企業の「フリーキャッシュフロー」が減少に転じる局面が到来することが期待できる。
このように、2017年に入ってから、多くの企業が、ようやく設備投資に積極的になってきた感がある。これは、人手不足に対する対策という面もあるだろう。
ただし、まだ安心はできない。予想インフレ率の推移をみてもわかるように、ようやく2013年の状況に戻しつつあるということに過ぎない。
さらに、予想インフレ率の原データである日銀短観の販売価格判断DIの内訳をみても、このところの予想インフレ率の上昇は、「販売価格を下げる」ことを選択する企業の割合が減少していることが主因であって、「販売価格を引き上げる」ことを考えている企業の割合はまだまだ低い(図表4)。
従って、政府日銀は、今後もこの改善を続けていくような環境整備を今後も続けていくことが必須であろう。
なお、この企業の予想インフレ率と株価は非常に似た動きをしている(図表5)。企業が株価をみて、将来の景気動向を占い、自社製品・サービスの販売価格戦略を立案しているかどうかはわからないが、株価動向も非常に重要なシグナルということである。
とにかく、現在のような一方的な雇用環境の改善は、やがては、労働コストの上昇圧力の高まりから、労働分配率を上昇させることになる。
労働分配率の上昇は企業収益を圧迫することになるので、企業が設備投資に消極的なままであれば、これは、景気の悪化につながる懸念があったが、今回はいささかタイムラグが長かったとはいえ、設備投資拡大の芽が出てきた点は、日本経済の将来にとっては、いいニュースであろう。