北朝鮮軍第966大連合部隊の指揮部を視察する北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。国営朝鮮中央通信(KCNA)配信(2017年3月1日配信、資料写真)。(c)AFP/KCNA VIA KNS〔AFPBB News〕
トランプとキムと核の誤算のリスク 緊迫する半島、米国の先制攻撃はあるのか?
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2017.4.20 Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年4月18日付)
1950年には、ワシントンでの軽率な発言と平壌(ピョンヤン)での誤算の組み合わせが朝鮮戦争の勃発につながった。今、朝鮮半島で新たな戦争が勃発する可能性について世界が熟慮する中で危険なのは、米国と北朝鮮の政府が再び計算を誤り、紛争に陥ってしまうことだ。
多くの歴史家は、朝鮮戦争勃発の発端はディーン・アチソン米国務長官が1950年1月にワシントンのナショナル・プレス・クラブで行った講演にあったと考えている。長官はアジアにおける米国の「防衛ライン」について語り、朝鮮半島はその線の外に位置すると示唆した。
平壌では、北朝鮮指導者の金日成(キム・イルソン)氏が、米国は韓国を防衛しないという明確な意味合いに留意した。5カ月後、北朝鮮軍は38度線を越えて南へなだれ込み、韓国を侵略した。
しかし、金氏は計算を誤った。米国が戦ったのだ。朝鮮戦争は数十万人の死者を出し、米軍と中国軍の直接的な戦闘につながった――そして、いまだ正式に終わっていない。今日に至るまで、朝鮮半島の平和は正式な和平条約ではなく、休戦協定によって保たれている。
アチソン長官が無関心を示唆したのに対し、ドナルド・トランプ大統領は決意を示している。米国は北朝鮮の核開発プログラムを阻止すると誓い、先制的な軍事行動に出る用意があると強くにおわせている。
だが、今回もまた、北朝鮮が予測不能な形で攻撃に出る明確なリスクがある。
北朝鮮の現指導者で、金日成氏の孫にあたる金正恩(キム・ジョンウン)氏は、祖先の軍国主義と孤立主義、そしてパラノイアを受け入れた。もし金正恩氏が米国は本当に自分の体制を攻撃する構えだと結論づけたら、最初に攻撃する気になるだろう。同氏が素早く動く動機は、米国の戦争計画には北朝鮮指導者を殺害する早期の試みが含まれているというメディアの報道によって一段と強まったに違いない。
最近の軍事演習から見て取れる北朝鮮の軍事ドクトリンは、敗北や破滅を回避するために核兵器を先制使用することを想定している。学識経験者のジェフリー・ルイス氏は最近、フォーリン・ポリシー誌への寄稿で、次のように論じた。
「金の戦略は核兵器を早期に使用することに依存している・・・米国が彼を殺したり、特殊部隊が北のミサイル部隊を発見したりする前に使う、ということだ・・・やるのであれば、金は最初にやらなければならない」
北朝鮮はまだ米国西海岸に届く核ミサイルは開発していないものの、韓国や日本を攻撃できる、核兵器が搭載可能なミサイルは恐らく持っている。北朝鮮との国境から55キロほどしか離れていない韓国の首都ソウルは間違いなく、破壊的な迫撃砲の嵐にさらされやすい。そして日本と韓国は、北朝鮮の化学兵器に大きな不安を抱いている。
米国が北朝鮮攻撃を検討しているというトランプ氏の強い示唆は、中国に対し、朝鮮半島の従属国を「差し出す」よう圧力を加えることを意図している。この作戦は奏功するかもしれない。中国政府は北朝鮮での出来事をあからさまに警戒しており、北朝鮮政府への圧力を強めるかもしれない。
一方、金体制が実は見かけの威張った態度からうかがえるよりもずっと怖気づいており、今後、核開発プログラムを凍結する可能性もある。
だが、トランプ政権の好戦的な戦略が目的を果たすことは確かに考えられるものの、それよりは北朝鮮が引き下がらない――ひいてはトランプ戦略が失敗に終わる――公算の方が大きい。その場合、トランプ氏はジレンマに直面する。
同氏の「非常に強力な大艦隊」は任務が完了しないまま朝鮮半島から引き揚げるだろうか。トランプ政権は、公に約束した非常に厳しい措置として、場合によっては中国とともに経済制裁の強化策を提示できるだろうか。
トランプ氏は臆面もなく発言と方針を変えることができる。だから、北朝鮮問題について、トランプ氏がただ引き下がる、または本人がずっと求めてきた劇的な変化として現状を受け入れることは間違いなくあり得る。
だが、その一方で、トランプ氏が北朝鮮への先制攻撃が実行可能な選択肢だと確信したという可能性もある。そのような結論は、標準的な軍の助言――1度の集中攻撃で北朝鮮の核プログラムを「抹殺する」のは不可能であり、それゆえ、そのような攻撃の後には、韓国と日本、アジア域内の米軍基地が報復の危険にさらされるとする助言――に真っ向から反することになる。
米軍は、北朝鮮への先制攻撃に伴うリスクを十分に認識している。このため、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が、ベトナム戦争の最中に政治家に率直なアドバイスを与えなかったことで米軍幹部らを痛烈に批判する本を書いたことを思い出すと、心強くなる。
これに対するリスクは、トランプ氏が――大統領として混沌としたスタートを切った後――、軍事行動こそが自分が有権者に約束した「勝つ」イメージのカギを握ると結論づける危険だ。大統領は、シリアを爆撃したことで得た超党派の喝采を享受した。シリア攻撃のすぐ後、トランプ氏はアフガニスタンに巨大な従来型爆弾を落とし、息子のドナルド・トランプ・ジュニアは――爆弾の絵文字付きで――歓喜をツイートした。
トランプ大統領のインナーサークルには確かに、トランプ政権は本気で北朝鮮への「先制攻撃」を検討していると思っている人がいる。だが、もし金正恩氏が同じ結論に達したとしたら、先に核の引き金に手を伸ばすかもしれない。