介護のためとはいえ離職しない方が得策?(※写真はイメージ)
「介護離職」から「下流老人」とならないために! 知っておきたい3つの制度〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170405-00000059-sasahi-soci
dot. 4/8(土) 7:00配信
親の介護のために長年勤めた会社を離職……。苦渋の選択ですが、介護をする本人の今後の生活を考えると、離職しない方が得策です。頼りになる「介護休業制度」「介護休暇」などの制度について、介護のプロ、白十字ホームの西岡修さんが著書『家族に介護が必要な人がいます 親の入院・介護のときに開く本』で教えてくれました。
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総務省の「就業構造基本調査」によると働きながら親の介護をしている人で、最も多いのは50代で全体の約10%、次いで60代が約9%、40代が約4%です。働き盛りで、会社で重要なポジションを占めるこれらの年代の人々が介護離職をすると、本人だけでなく会社にとっても大きな損失となります。そのため、近年は介護離職を減らすために、福利厚生制度の充実や退職者の再雇用制度などを導入している企業も増えてきていますが、全体的に見るとまだまだ少ないのが現状です。
しかし、2012年度から「育児・介護休業法」が従業員100人以下の企業にも適用されるようになり、「介護休業制度」「介護休暇」「所定外労働の制限の制度」「所定労働時間短縮などの措置」「深夜作業の制限の制度」などを中小企業で働く人も利用できるようになりました。これらの制度を上手に活用して、仕事と介護を両立させられれば、介護離職のリスクも減らせます。
■介護休業は介護の準備期間に
介護休業は、要介護状態にある家族1人につき通算で93日、3回を上限として取得できます。対象となる家族は、配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母・兄弟姉妹および孫です。ただし、日々雇用者や雇用期間が1年未満の労働者、1週間の労働日が2日以下の労働者、93日以内に雇用期間が終了する労働者は、取得することができません。
休業できる期間は約3カ月ありますが、これでは少ないと感じる方もいるでしょう。しかし、介護休業を直接介護をするために充てるのではなく、仕事と介護を両立させるための準備期間と考えれば、十分な長さではないでしょうか。
介護保険の申請やケアプランの作成・検討、施設への入所や各種サービスの手続き、家屋のバリアフリー化など、なるべく安心できる介護生活をスタートさせるにはさまざまな面で入念な準備が必要です。1〜2カ月間、しっかり介護休業をとって家族や医師、介護スタッフの協力のもとで万全の体制を整えておけば、その後の介護生活が双方にとって充実したものになります。なお、介護休業は開始予定日の2週間前までに、事業主に書面で申請する必要があります。事業主が適当と認めた場合は、ファクスや電子メールでの申請も可能です。
■緊急時の対応は介護休暇を利用
介護休業はまとまった休みが取れますが、事前の申請が必要なので急病やケガなどの緊急時には対応しきれません。こんな時には「介護休暇」を利用するといいでしょう。
介護休暇は、要介護状態にある家族1人につき1年に5日、2人以上の場合は10日まで取得できます。当日に口頭で申請できるほか、半日単位(所定労働時間の2分の1)での取得が可能です。対象となる家族は介護休業と同じですが、日々雇用者や雇用期間が6カ月未満の労働者、1週間の労働日が2日以下の労働者は取得できません。
なお、介護休暇は、有給休暇とは別に取得することができます。どちらも働く人の当然の権利なので、うまく組み合わせて活用しましょう。
■勤務時間を調節する
各種サービスを適切に選び、介護休業や介護休暇をうまく使えば仕事と介護の両立はかなり楽になるでしょう。しかし、介護生活は長期戦です。介護の体制が固まって、ある程度の見通しが立ったら、勤務時間を見直して調節することも大切です。
育児・介護休業法では、要介護状態にある家族を介護する労働者に対して所定労働時間短縮などの措置をとることが義務づけられています。具体的には、(1)所定労働時間、つまり勤務時間の短縮、(2)フレックスタイム制度、(3)始業・就業時間の繰り上げ・繰り下げ、(4)労働者が利用する介護サービス費用の助成またはそれに準ずる制度のいずれかの措置をとることが義務づけられています。
これらによって捻出した時間を、デイサービス・デイケア・病院への送迎、あるいはかかりつけ医、ケアマネージャー・ヘルパーさんなど介護スタッフとの相談などに充てれば、精神的・身体的な負担もかなり軽減されることでしょう。
また、所定外労働の制限の制度では、労働者が介護のために請求した場合、対象家族1人につき介護の必要がなくなるまで残業の免除が受けられます。さらに、深夜作業の制限の制度では、申請すれば午後10時〜午前5時の深夜労働も免除されます。これらの制度は、いずれも企業が守るべき最低限の基準を定めたものですが、場合によっては、よりよい休業・休暇制度を設けている事業所もあります。まずは就業規則を確認してみましょう。また、休業や休暇に関する内容が就業規則にない場合でも申請すれば利用できますので、上司や担当部署に相談してみましょう。
■職場の理解を得ることも大切
ここまで紹介したさまざまな制度は、いずれも法律で定められたものなので、利用することに躊躇する必要はありません。ただし、これらを最大限に活用するには職場の理解を得ることも重要です。「親や配偶者が要介護状態であることを人に知られたくない」「職場のみんなが頑張っている時に自分だけプライベートで休むのは申し訳ない」と思うのも無理はありませんが、自分が介護する生活を送っていることをきちんと伝えずに介護休暇をとったり、勤務時間の繰り上げ・繰り下げをしたりすると、同僚や部下、得意先からの信頼を失うことにもなりかねません。復帰後の勤務状況に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
とくに、介護休業制度を利用する場合は、長期間休むことになるので自分の都合だけで決めるようなことは避け、まずは職場の上司に相談しましょう。介護休業は労働者の権利ですが、職場から1人少なくなることで、周囲の負担が増大することも忘れてはなりません。この場合も「介護」と「仕事」の二者択一で考えるのではなく、双方がウィン・ウィンになることを目指すべきです。譲歩できることとできないことを明確にしたうえで、休業を始める時期や期間、業務の引き継ぎ、復帰後の勤務形態などをしっかり話し合って決めましょう。また、上司との相談が済んだら同僚や部下、場合によっては得意先にもきちんと伝えましょう。
前に介護はチーム体制を築くことが大切だといいましたが、仕事についても同じです。そもそも、仕事こそチーム体制で行うべきもので、1人で悩んでいると能率が下がり、やがて職場全体に影響してきます。世間では、高齢化や介護をめぐる問題は特別なことではないという認識が広まりつつあります。介護生活のスタートが決まったらなるべく早い段階で報告し、今後、迷惑をかけることを伝えておけば、周囲からの理解や同意も得やすくなるし、思わぬトラブルが起きた時でも快く協力してくれることでしょう。
西岡修(にしおか・おさむ)
社会福祉法人白十字会白十字ホーム・ホーム長。1978年大正大学卒業後、白十字ホームに生活指導員(現生活相談員)として就職。1995年白十字ホーム副ホーム長。2001年から現職。東京都高齢者福祉施設協議会会長。大正大学非常勤講師。NPO法人YWCAヒューマンサービスサポートセンター理事