3月8日に「ジーズアカデミーTOKYO」で行われた記者会見の様子。SOMPOホールディングスの中林紀彦氏(左から3番目)と人材育成プログラムで講師を担当するデータサイエンティストの面々。募集要項は公式サイト「DATA SCIENCE BOOTCAMP...
日本はビッグデータを生かせない…「データ分析」人材不足の“厳しい現状”〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170323-00000103-sasahi-soci
dot. 3/28(火) 16:00配信
数年前から頻繁に耳にするようになったビッグデータ解析やIoTといった言葉。メディアが喧伝し続けた結果、多くの人々がこうした技術によってもたらされる“明るい未来”のイメージを共有するに至った。目的地まで自動的に連れて行ってくれる運転者不在の車、食材が不足したら自動的に注文してくれる冷蔵庫、住人の嗜好(しこう)を把握して快適な環境を保ってくれる自動空調システム……まるでSFのような未来は確かに目前だ。
だが、それを実現するために日本の企業が超えなければならないハードルの高さは、意外と共有されていない。“明るい未来”は、自動的には来ないのだ。
●日本の企業は何をするべきなのか
「既存のあらゆる産業が、デジタル化によって破壊される危機を迎えている。だからこそ、自ら先駆者を目指す。データサイエンティストを大至急育成し、事業内容をデジタル化時代に適合した形に転換していく」
2017年3月8日、都内で行われた記者会見で、SOMPOホールディングス執行役員グループCDO・楢崎浩一氏はこう熱弁した。楢崎氏が語る「デジタル化」こそ、ビッグデータ解析やIoTなどをベースとしたビジネスの隆盛。こうした変化に対応するため、同社は同年4月より「DATA SCIENCE BOOTCAMP」と銘打った人材育成プログラムをスタートさせるという。ビッグデータ解析をビジネスに取り入れるために不可欠なデータサイエンティストを確保するためだ。
こうした動向は何を意味するのか。今回、先述の育成プログラムを主導する同社のチーフ・データサイエンティストである中林紀彦氏に話を聞いた。かつて日本IBMでマーケティングマネジャーを務めた経歴を持ち、技術領域とビジネス領域の双方に精通する同氏の話からは、日本企業が直面する課題、そしてとるべき行動が浮かび上がる。
●ビッグデータを真の意味で活用できている日本企業はまだまだ少ない
本題に入る前に、ビッグデータやIoTがどんなものであるのかを整理しておきたい。まず前提として、今世界は産業革命に比肩するほどの技術変革の波を迎えている。その原動力こそ、コンピューターの処理速度の向上によって可能となったビッグデータの解析だ。
ビッグデータとは文字通り膨大な情報の集合体で、例えば商店で消費者がどんな組み合わせで品物を買ったか、検索エンジンでどんなキーワードが検索されたか、GPSによって計測される人やモノの移動履歴などがそれにあたる。
Amazonで買い物をすると「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と教えてくれるが、これは各消費者の購入履歴を分析することで可能になったサービスだ。Googleに間違った検索ワードを打ち込むと「もしかして……」と正しいワードを教えてくれるのも、過去の膨大な打ち間違いを分析した成果である。
こうしたビッグデータの活用を大幅に後押しするのがIoTだ。IoTが鳴り物入りで登場したとき、その活用例としてスマホで外出先から家電を操作できたり、電力の消費量をスマホで確認できたりすることなどが紹介されたが、多くの人は「そんなものか」と失望に似た感慨を抱いたのではないだろうか。
実際のところ、IoTの本質は全く異なるところにある。それは車や家電など、身の回りの道具にセンサーを組み込むことによって、これまで計測できなかったデータが計測可能になることだ。そのデータを活用することで未踏のイノベーションが実現する。対物センサーとGPSを車に組み込むことで可能になった自動運転はその好例だろう。
すなわち、いまやデータは「ヒト・モノ・カネ」と並び、企業にとって最も重要なリソースのひとつ。これを活用することがあらゆる領域のビジネスにとって前提となりつつあるわけだが、中林氏によると日本の現状は楽観視できるものではないという。
「ビッグデータという言葉がメディアに盛んに登場し、多くの企業が関心を向けるようになりました。しかし、データを事業にどのように役立てるか、ビジョンを持てないまま使っている企業が少なくありません。その背景にある要因のひとつがデータサイエンティストの不足であり、これが、我々がデータサイエンティストの育成に着手した動機です」
●データサイエンティストは将来25万人も不足する?
データサイエンティストとはどんな人々なのか。中林氏は「その業務内容は極めて広範で、定義が難しいが」と断った上で、「レストランにおける料理人のような存在」と語る。
「ひとつの企業をレストランと考えると、ビジネスの成果(プロダクツやサービス)は料理、ビッグデータやIoTは素材に例えることができます。データサイエンティストは分析ツールやAIなどの道具を用いて、ビッグデータという素材から料理をつくっていく人というイメージです」(中林氏)
しかし、データサイエンティストの育成は進んでいない。ビッグデータを分析するために必要な統計学などを修めた大学卒業者は年間4000人と、アメリカの2万5000人に比べかなり限られている。さらに重要なのは、データサイエンティストは単なるビッグデータを分析できるエンジニアではないということだ。分析結果をビジネスに応用するスキルが問われる。こうした人材となると、現在の日本には1000人程度しかいないといわれ、米調査会社ガートナーによると将来的に25万人のデータサイエンティストが不足するという。
この状況は、料理人を用意せずにレストランを始めるのと同じくらい危険なことだ。中林氏は「データサイエンティストの不足をこのまま放置すれば、日本経済の凋落はますます顕著なものになる」と指摘する。
「バブル期の時価総額上位の企業はほとんど日本が独占していましたが、現在ではトップ30に残っているのはトヨタのみ。高度成長期の成功体験に引きずられ、1990年代から始まったIT化の波に乗ることができず、産業構造の転換が図れなかったためです。そして今ビッグデータというさらに大きな波が来ている。これに再び乗り損なえば、10年後、日本の新卒者にとって日本企業という選択肢はなくなっているかもしれない。それくらいの瀬戸際にあると考えています」(中林氏)
だが同時に、中林氏は「まだ間に合う」とも語る。
「ビッグデータを活用すれば、全く新たなビジネスモデルを生み出すことができます。例えば、SOMPOホールディングスの場合、現在の中心に据えている保険事業は今後収縮していくのは明らかなので、ウェアラブルを使った健康支援サービスなどを伸ばしていく。今ならば、日本の各企業がこうした転換を少しずつでもできていけば、盛り返すことができるはずです」(中林氏)
Googleも、Facebookも、Amazonも生み出せなかった日本。今まさに到来しているデジタル化の波を乗りこなし、国際社会で生き残るためにも、データサイエンティストの育成が急がれる。(ライター・小神野真弘)