2017年3月15日 本川 裕 [統計データ分析家]
日本人ほど人生が自由にならないと思っている国民はない
人生は自由になる面とならない面とが
半々と考える日本人
5年毎の世界価値観調査では、毎回、「あなたは、ご自分の人生をどの程度自由に動かすことができると思いますか」という問に10段階で答える設問を継続している。データが入手できる最新のデータは、2010年から2014年にかけて60ヵ国で実施された2010年期の調査結果である。
図1上には、まず、日本の2010年期の結果を10段階ごとの回答率で示した。回答結果は5、すなわち「人生は全く自由にならない」と「人生は全く自由になる」の真ん中に票が集まっている。つまり、人生は自由にならない面と自由になる面とが半々と考える日本人が多いことを示している。また、5より小さい方より5より大きい方の回答の方が多くなっているが、ほぼ、標準的な“山型”をしている。
◆図1 「人生は自由になるか」の回答分布(日本)
http://diamond.jp/mwimgs/5/d/-/img_5d23e6e1a9593332147890c83bb480d7344072.jpg
これだけ見れば、日本人であれば、何の不思議もない結果だと思うであろう。ところが、世界の中では、これは非常に特異な回答結果なのである。
この点について触れる前に、世界価値観調査がはじまった1981年以降のこの設問の結果推移を見ておこう。図1下には、平均点で推移を示した。バブル経済が破綻し、失われた10年といわれた1990年〜2000年の時期でも、実は、人生の自由度は上昇したという回答結果となっている。この時期、人々の不自由感が増したわけではなさそうである。
その後、2005年も平均点は若干上昇したのち、2008年のリーマンショック、2009年の民主党への政権交代をはさんで、2010年には平均値が低下している。この急降下の理由は気になるところだが、今回の論考ではそこには触れない。
なお、男女別には、男が女を上回る年もあれば下回る年もあるという結果となっており、ほぼ男女の差はないといってもよかろう。
各国社会の自由度ではなく
各国民の人生態度をあらわす結果
図2に調査対象である60ヵ国の平均点の結果を大陸別に示した。これを見れば、「人生が自由にならない」と考える程度について日本人が世界で最高であることは一目瞭然である。
◆図2 人生は自由になるか(2010年期60ヵ国)
http://diamond.jp/mwimgs/f/9/-/img_f9f9b2f4d286cf3d35a63fb2845312af240936.jpg
この調査結果が発表された際、「日本ほど抑圧的で自由のない国はないことをこの結果が示している」と論評するネット記事が出回ったことがある。
しかし、国別の自由度の比較をここから導き出すのは無理がある。例えば、この調査の結果から、北米・中南米で、メキシコは自由の国で、チリは不自由の国、米国はその中間などということに何か意味があるだろうか。ヨーロッパ・中央アジアについて、ルーマニアはもっとも自由な国でロシアは最も不自由な国というのも空しい。
この調査結果は、各国社会の自由度や抑圧度をあらわしているのではなく、むしろ、各国民の人生態度をあらわしているに過ぎないと考えるのが妥当だ。
ラテンアメリカ人のうち、メキシコ人は何でも明るく考えるがチリ人は少し深刻に人生を考える傾向にある。しかし、ラテンアメリカ人は、他の大陸の国民と比較すると、人生に対して概して明るく考える傾向がある。人生態度としては、ラテンアメリカで最もシリアスなチリ人でも、アフリカや南アジアで最も楽天的な国民と同程度の感じ方にすぎない。
こんな風に結果をとらえると、この調査結果も、なかなか味わいがあるということになろう。
確かに日本人の人生態度は、よく言えば慎重、悪く言えば暗いと言わざるを得ない。自分の人生を自由に動かせると思っていて、後で、うまく行かなくて嘆くよりも、最初から、うまく行かないと思っていれば、何かの幸運でトントン拍子に行けば、これほどうれしいことはないと思える。こんな人生態度なのではないだろうか。
人生態度において日本人に
最も近いのはロシア人?
平均点に集約される前の1から10までの段階の回答分布を最も悲観的な日本と最も楽天的なメキシコ、及びその中間のドイツと米国という4つの国について見ておこう(図3参照)。日本の場合は、5が約25%と最も多くの回答を集めているのに対し、ドイツは7が最も多く、米国は8が最も多く、メキシコは圧倒的に10が多くなっている。日本でも過半数は5以上なのであり、自由にならないと悲観しているばかりでもないのであるが、他国は、それ以上に、楽観的な人々が多いのである。
◆図3 「人生は自由になるか」の回答分布(2010年期)
http://diamond.jp/mwimgs/9/5/-/img_95fc1c7e30e633a0bd10307eccb7928a356284.jpg
さらに、図3では、日本の回答分布を日本の隣国である中国、韓国、ロシアとも比較している。日本と一番近いのはロシアであり、偶然であろうが、不思議なほどよく似ている。次に、韓国も回答分布パターンが日本と似ているが、韓国の場合は、楽天的な方向にシフトしている。一番似ていないのは中国であり、中国の場合は8の回答が一番多いのが特徴である。中国は、実は、米国とよく似ており、日本、ロシア、韓国のようにちょうど中間の5に回答が集まる(中庸を好む)ことのないパターンである点で共通している。
男性と比べ人生の自由を
感じにくいイスラム諸国の女性
日本の場合、「人生は自由になるか」に関し男女差はほとんどないということを上で見たが、世界の諸国民ではどうであろうか。図4には世界各国の男女差をグラフにした。
◆図4 「人生は自由になるか」の男女格差(2010年期)
©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載
http://diamond.jp/mwimgs/5/d/-/img_5de053b8bc59cbdba8b2ccf21c7b86cd246970.jpg
ゼロに近い国は男女差がない国民であるが、多くの国(60ヵ国中45ヵ国)では、男が女を上回っていることが分かる。世界全体では、なお、女性が相対的に不自由な地位にあるといっても間違いなかろう。
東アジアの中では、マレーシア、中国で男性が女性をかなり上回っているが、日本は、タイ、韓国、フィリピンとともに男女同等に近い位置にある。アジアの中では、台湾、シンガポール、香港などは、女性の方が男性より人生は自由だと感じている。
世界の中で男性が女性を大きく上回っている点で目立っているのは、パキスタン、パレスチナ、アルジェリア、イエメン、アゼルバイジャンなどのイスラム諸国である。イスラム諸国を除くとアルメニアやインドで同様の状況にある。
逆に、女性の方が男性より、人生の自由を感じている国民としては、アメリカ大陸では、米国、ヨーロッパでは、ドイツやスウェーデン、そしてオセアニアのニュージーランド、オーストラリアといったプロテスタント国が目立っている。やはり、レディーファーストの生活習慣が影響しているのであろうか。
(統計データ分析家 本川 裕)
http://diamond.jp/articles/-/121247
2017年3月15日 本川 裕 [統計データ分析家]
日本人ほど人生が自由にならないと思っている国民はない
人生は自由になる面とならない面とが
半々と考える日本人
5年毎の世界価値観調査では、毎回、「あなたは、ご自分の人生をどの程度自由に動かすことができると思いますか」という問に10段階で答える設問を継続している。データが入手できる最新のデータは、2010年から2014年にかけて60ヵ国で実施された2010年期の調査結果である。
図1上には、まず、日本の2010年期の結果を10段階ごとの回答率で示した。回答結果は5、すなわち「人生は全く自由にならない」と「人生は全く自由になる」の真ん中に票が集まっている。つまり、人生は自由にならない面と自由になる面とが半々と考える日本人が多いことを示している。また、5より小さい方より5より大きい方の回答の方が多くなっているが、ほぼ、標準的な“山型”をしている。
◆図1 「人生は自由になるか」の回答分布(日本)
http://diamond.jp/mwimgs/5/d/-/img_5d23e6e1a9593332147890c83bb480d7344072.jpg
これだけ見れば、日本人であれば、何の不思議もない結果だと思うであろう。ところが、世界の中では、これは非常に特異な回答結果なのである。
この点について触れる前に、世界価値観調査がはじまった1981年以降のこの設問の結果推移を見ておこう。図1下には、平均点で推移を示した。バブル経済が破綻し、失われた10年といわれた1990年〜2000年の時期でも、実は、人生の自由度は上昇したという回答結果となっている。この時期、人々の不自由感が増したわけではなさそうである。
その後、2005年も平均点は若干上昇したのち、2008年のリーマンショック、2009年の民主党への政権交代をはさんで、2010年には平均値が低下している。この急降下の理由は気になるところだが、今回の論考ではそこには触れない。
なお、男女別には、男が女を上回る年もあれば下回る年もあるという結果となっており、ほぼ男女の差はないといってもよかろう。
各国社会の自由度ではなく
各国民の人生態度をあらわす結果
図2に調査対象である60ヵ国の平均点の結果を大陸別に示した。これを見れば、「人生が自由にならない」と考える程度について日本人が世界で最高であることは一目瞭然である。
◆図2 人生は自由になるか(2010年期60ヵ国)
http://diamond.jp/mwimgs/f/9/-/img_f9f9b2f4d286cf3d35a63fb2845312af240936.jpg
この調査結果が発表された際、「日本ほど抑圧的で自由のない国はないことをこの結果が示している」と論評するネット記事が出回ったことがある。
しかし、国別の自由度の比較をここから導き出すのは無理がある。例えば、この調査の結果から、北米・中南米で、メキシコは自由の国で、チリは不自由の国、米国はその中間などということに何か意味があるだろうか。ヨーロッパ・中央アジアについて、ルーマニアはもっとも自由な国でロシアは最も不自由な国というのも空しい。
この調査結果は、各国社会の自由度や抑圧度をあらわしているのではなく、むしろ、各国民の人生態度をあらわしているに過ぎないと考えるのが妥当だ。
ラテンアメリカ人のうち、メキシコ人は何でも明るく考えるがチリ人は少し深刻に人生を考える傾向にある。しかし、ラテンアメリカ人は、他の大陸の国民と比較すると、人生に対して概して明るく考える傾向がある。人生態度としては、ラテンアメリカで最もシリアスなチリ人でも、アフリカや南アジアで最も楽天的な国民と同程度の感じ方にすぎない。
こんな風に結果をとらえると、この調査結果も、なかなか味わいがあるということになろう。
確かに日本人の人生態度は、よく言えば慎重、悪く言えば暗いと言わざるを得ない。自分の人生を自由に動かせると思っていて、後で、うまく行かなくて嘆くよりも、最初から、うまく行かないと思っていれば、何かの幸運でトントン拍子に行けば、これほどうれしいことはないと思える。こんな人生態度なのではないだろうか。
人生態度において日本人に
最も近いのはロシア人?
平均点に集約される前の1から10までの段階の回答分布を最も悲観的な日本と最も楽天的なメキシコ、及びその中間のドイツと米国という4つの国について見ておこう(図3参照)。日本の場合は、5が約25%と最も多くの回答を集めているのに対し、ドイツは7が最も多く、米国は8が最も多く、メキシコは圧倒的に10が多くなっている。日本でも過半数は5以上なのであり、自由にならないと悲観しているばかりでもないのであるが、他国は、それ以上に、楽観的な人々が多いのである。
◆図3 「人生は自由になるか」の回答分布(2010年期)
http://diamond.jp/mwimgs/9/5/-/img_95fc1c7e30e633a0bd10307eccb7928a356284.jpg
さらに、図3では、日本の回答分布を日本の隣国である中国、韓国、ロシアとも比較している。日本と一番近いのはロシアであり、偶然であろうが、不思議なほどよく似ている。次に、韓国も回答分布パターンが日本と似ているが、韓国の場合は、楽天的な方向にシフトしている。一番似ていないのは中国であり、中国の場合は8の回答が一番多いのが特徴である。中国は、実は、米国とよく似ており、日本、ロシア、韓国のようにちょうど中間の5に回答が集まる(中庸を好む)ことのないパターンである点で共通している。
男性と比べ人生の自由を
感じにくいイスラム諸国の女性
日本の場合、「人生は自由になるか」に関し男女差はほとんどないということを上で見たが、世界の諸国民ではどうであろうか。図4には世界各国の男女差をグラフにした。
◆図4 「人生は自由になるか」の男女格差(2010年期)
©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載
http://diamond.jp/mwimgs/5/d/-/img_5de053b8bc59cbdba8b2ccf21c7b86cd246970.jpg
ゼロに近い国は男女差がない国民であるが、多くの国(60ヵ国中45ヵ国)では、男が女を上回っていることが分かる。世界全体では、なお、女性が相対的に不自由な地位にあるといっても間違いなかろう。
東アジアの中では、マレーシア、中国で男性が女性をかなり上回っているが、日本は、タイ、韓国、フィリピンとともに男女同等に近い位置にある。アジアの中では、台湾、シンガポール、香港などは、女性の方が男性より人生は自由だと感じている。
世界の中で男性が女性を大きく上回っている点で目立っているのは、パキスタン、パレスチナ、アルジェリア、イエメン、アゼルバイジャンなどのイスラム諸国である。イスラム諸国を除くとアルメニアやインドで同様の状況にある。
逆に、女性の方が男性より、人生の自由を感じている国民としては、アメリカ大陸では、米国、ヨーロッパでは、ドイツやスウェーデン、そしてオセアニアのニュージーランド、オーストラリアといったプロテスタント国が目立っている。やはり、レディーファーストの生活習慣が影響しているのであろうか。
(統計データ分析家 本川 裕)
http://diamond.jp/articles/-/121247
【第71回】 2017年3月15日 渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
若い世代に元気がないのは当然といえる心理学的理由
70際前後の「団塊の世代」が
とにかく元気なのはなぜか
筆者の住むマレーシアの国教はイスラム教だが、マラッカ王国のころから、世界の貿易ハブだった歴史的経緯もあり、他宗教にも寛容だ。イスラムのモスクはもちろん、ヒンドゥー寺院、仏教寺院、キリスト教会もいたるところにある。
先日、筆者の自宅近くのキリスト教会でジャズライブがあるというので、誘われて行った。実はそのライブ、日本人のアマチュアミュージシャンによるボランティアコンサートだった。マレーシアは日本ほど音楽産業が盛況ではない。もともとヨーロッパ、とくにイギリスの植民地だったため、アメリカ生まれのジャズはマレーシア人にとっては、いまひとつなじみの薄いジャンルである。
そんな中、どのような経緯かはよく知らないが、日本人のアマチュアからセミプロのジャズ愛好家が、無償でライブをやってくれると聞いたので観に行ったのだった。教会の大ホールは日本の学校の体育館より広く、相当の大きさだったが、そこがほぼ満席になっていた。後で聞くと入場者は685名で、その教会でこれまで行われたコンサートイベントの最多記録だったそうだ。
コンサートは日本から来たミュージシャンたちに加え、地元の音楽をやっている日本人、そしてマレーシア人のサキソフォニストやバイオリニストもゲスト参加した本格的なライブだった。演奏もプロ顔負けで、ジャズの有名曲を次々と披露、2時間たっぷりと演奏してくれた。詰めかけた観客たちも皆喜んでいた。
驚いたのは、そこにボランティアで来てくれた日本人ミュージシャンたちが皆70歳前後のご高齢だったことだ。しかもコンサート前日の朝にマレーシアに着き、その日に現地ミュージシャンと練習して、翌日夜に2時間たっぷりライブを行うという強行スケジュールだった。英語も堪能で、MCでも観客は大いに盛り上がっていた。伺うと、元は一流企業の役員クラスの方たちだという。
翌日、こちらで日本人ツアー客を相手に現地案内をしている方から伺ったのだが、客の中で最も元気なのが、60〜70歳代の方々だそうだ。日本から早朝の飛行機で着いたら、すぐにゴルフに繰り出し、フルで回って、夜はおいしい店を探して飲み食いし、翌朝早くからまたゴルフ。合間に車で数時間かかる観光地も訪問するという。
こういった例に限らず、日本人は高齢者のほうが、その下の世代より元気だという話はよく聞かれる。70歳くらいを中心としたいわゆる「団塊の世代」は、日本の高度成長期に最も働いた世代の人々だ。彼らから見ると、今の若い世代は「元気がない」という。事実、筆者が体験したように、自腹でマレーシアまで来て「趣味の」楽器演奏を2時間、700人近い聴衆を前にやってしまうのだから、その元気さにはびっくりするばかりだ。
彼らが元気なのはなぜか。逆に言えば、若い世代に元気がないのはなぜか。経済的なゆとりが違うのはもちろんだが、実は心理的な不安が関係している。
人間の欲求には5つの段階
高次まで満たされている高齢者
マズローの欲求理論によれば、人間の欲求には低次から高次へと5つの段階があるという
http://diamond.jp/mwimgs/3/c/400/img_3c1ae43985a4157ae0bd907541560bdb27168.jpg
それは有名な「マズローの欲求階層論」を使えばよくわかる。マズローの欲求理論は、古典的な理論で、批判も多いものの、組織心理学などでは基本中の基本としてよく取り上げられるので、知っている読者の方も多いだろう。
図にあるように、マズローは人間の欲求には低次から高次へと5つの段階があるとしている。それは低次から順に、
(1) 生存欲求(生理的欲求)
(2) 安全欲求(安全に対する欲求)
(3) 所属欲求(愛情と帰属に対する欲求)
(4) 承認欲求(自尊心に対する欲求および社会的地位や評判に対する欲求)
(5) 自己実現欲求
となる。生理的なメカニズムに基づく欲求は最も低次で、その後、安全であるための欲求、愛情、所属場所を求める欲求というように高次のものとなっている。マズローは、人間はまず低次の欲求を満たそうとし、それが満たされるとより高次の欲求を満たそうとするとしている。
上記の「元気な高齢者」の方々が、自腹でマレーシアまで来て、体力的にもきついライブをやる理由をマズローのモデルに当てはめると(4)の承認欲求や(5)の自己実現欲求がその原動力になっているといえるだろう。
会社である程度の地位まで昇り、退職して、金銭的に特に困っておらず、趣味で続けてきた音楽で聴衆を楽しませ喝采を浴びる。ジャズ後進国のマレーシアでジャズの啓蒙もできる。彼らは承認され、自己実現できるのだ。
彼らが高次の欲求を満たす行動ができるのは、逆にいえば、より低次の欲求はすでに満たされていることを意味する。企業を勤め上げ、定年を迎えた彼らは年金をもらっているか、別の収入源があるだろう。家族もおり、家も持っていることが多い。
要は、安全欲求、所属欲求を満たすだけの、お金、家族、人脈等がすでにあるために、高次の欲求追求ができるのである。これを可能にしたのは、ご本人たちの努力はもちろんだが、一方で、終身雇用、年功序列を基礎にした高度成長期の日本型組織のシステムによるところも大きい。
若い世代は低次の欲求すら
将来も満たされるか不安
翻って、今の40歳代以下の世代は、安全、帰属の欲求を満たすことさえ難しい人が多い。結婚率は下がり、少子化は続いている。家族に帰属することのできる人の数は減っている。職場でも終身雇用は減り、派遣や契約社員などで、長期的に安全な生活が送れる保証はない。一流企業の正社員だって安心できない。シャープや東芝の例でも明らかだ。
現在どんなに稼いでいても、将来が読めない以上、できるだけ安全欲求、帰属欲求を満たそうとする。つまり、それらが脅かされた時に備えて、できるだけ貯蓄しようとする動機が働くのだ。「もし宝くじで高額当選したらどうするか」というアンケートの1位は「貯蓄」、2位は「家、マンションを買う」である。そしてこの傾向は若い世代ほど高い。
これは低次欲求が満たされていないこと、いや正確に言えば、「将来、低次欲求が満たされなくなること」への恐れが現れた結果なのだと筆者は考えている。
したがって、「今の若者は元気がない、もっと元気出せ」という、一部の高齢者からの批判は的外れだ。元気がないように見えるのは、日本型組織システムが、長期的な安全、帰属欲求を満たせなくなっているからだ。若い世代は、その欲求を満たすために働くので精一杯で、自己実現や承認欲求まで持つことができないだけである。彼らの持つバイタリティやエネルギーは、低次欲求のために消費されてしまっている。
そして、その高齢者たちも、控えめにいってかなりの部分、日本型組織システムの恩恵によって低次欲求を満たすことができたのは事実だろう。もし彼らが若返って、今の日本で働きなおすならば、今の若者と同じメンタリティになるだろう。
安倍内閣は、一億総活躍社会を謳っている。一億総活躍の実現のためには、行政には低次欲求をきちんと満たせる、少なくともいまより不安を低減できるシステム作りが要求される。
その一方で、40歳代以下の世代には、その上の世代にはなかったメンタル部分のタフネスが要求される。つまり長期的に以前ほど完璧に低次欲求が満たされなくても、自己実現に向けた高次欲求を持てるというタフネスである。それはつまり「夢」を持てるかどうかを意味する。夢を持つためには、タフなメンタルが必要だ。
そのための近道はなにか。人によって異なるが、ひとつだけ共通するものがある。よく食ってよく寝ることだ。「よく食う」とは、健康を害さないようにできるだけ効率よく栄養摂収すること、「よく寝る」ことは、しっかりリラックスして質の高い睡眠をとることである。これらは、一言でいえば自己管理だ。最近のマインドフルネスブームや「意識高い系」が目立つ(揶揄されることの方が多いが)のも、その表れだと筆者は感じている。
(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授 渡部 幹)
http://diamond.jp/articles/-/121248
家計の貯蓄率、15年ぶり高水準 節約志向なお強く
2017/3/15 0:37
家計の貯蓄率が上昇している。総務省の家計調査によると、貯蓄率を示す2016年の「黒字率」は27.8%と前年より1.6ポイント上がった。水準は01年以来15年ぶりの高さとなった。雇用改善で所得は緩やかに増えたが、高い年齢層の世帯を中心に節約志向が根強いことが浮き彫りになった。
黒字率は家計の可処分所得から消費支出を引いた「黒字」を可処分所得で割った数値。対象は勤労者世帯。貯蓄率は高齢化に伴い199…
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14085480U7A310C1EE8000/
家計調査(二人以上の世帯)平成29年(2017年)1月分速報 (平成29年3月3日公表)
年平均(前年比 %) 月次(前年同月比,【 】内は前月比(季節調整値) %)
2014年 2015年 2016年 2016年10月 11月 12月 2017年1月
【二人以上の世帯】
消費支出(実質) ▲2.9 ▲2.3 ▲1.7 ▲0.4
【▲1.0】 ▲1.5
【▲0.6】 ▲0.3
【▲0.6】 ▲1.2
【0.5】
消費支出(除く住居等※)(実質) ▲2.5 ▲2.0 ▲1.2 ▲0.1
【▲1.5】 ▲1.9
【▲0.7】 ▲1.5
【▲2.1】 0.3
【3.2】
【勤労者世帯】
実収入(名目,< >内は実質) ▲0.7
<▲3.9> 1.1
<0.1> 0.2
<0.3> 0.1
<▲0.1> 1.6
<1.0> 2.7
<2.3> 1.6
<1.0>
※ 「住居」のほか,「自動車等購入」,「贈与金」,「仕送り金」を除いている。
また,実質化には消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)を用いた。以下同じ。
≪ポイント≫
二人以上の世帯
・消費支出は,1世帯当たり 279,249円
前年同月比 実質1.2%の減少 前月比(季節調整値) 実質0.5%の増加
名目0.6%の減少
・消費支出(除く住居等※)は,1世帯当たり 239,634円
前年同月比 実質0.3%の増加 前月比(季節調整値) 実質3.2%の増加
名目0.9%の増加
・勤労者世帯の実収入は,1世帯当たり 441,064円
前年同月比 実質1.0%の増加
名目1.6%の増加
詳細については,以下をご覧下さい。
• 今月の結果(概要及び統計表)(PDF:276KB)
• (追加参考図表)(PDF:11KB) 消費支出の対前年同月実質増減率に寄与した主な品目等
過去分につきましては,「過去の結果(月報)」に掲載しています。
の項目は,政府統計の総合窓口「e-Stat」掲載の統計表です。
※ 『e-Stat』とは?
※ 統計データベースの利用方法
統計表
• 第1表 主要家計指標-二人以上の世帯(エクセル:77KB)
• 第2表 1世帯当たり1か月間の収入と支出-二人以上の世帯(エクセル:98KB)
• 第3表 主要項目の季節調整値-二人以上の世帯(時系列データへのリンク)(エクセル:189KB)
• 参考表 世帯主の年齢階級別の動き(3か月後方移動平均)(エクセル:39KB)
詳細結果表(月)へ
• 二人以上の世帯
時系列データ
• 収入及び支出金額・名目増減率・実質増減率
• 消費水準指数
• 主要項目の季節調整値
• 基礎的支出・選択的支出
• 世帯主の年齢階級別世帯分布
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.htm
家計消費指数 結果表(2015年基準)
【 世帯区分 】
二人:二人以上の世帯
二勤:二人以上の世帯のうち勤労者世帯
総 :総世帯(「二人以上の世帯」と「単身世帯」を合わせた世帯)
総勤:総世帯のうち勤労者世帯
単身:単身世帯
集計区分 調査対象区分 世帯区分
家計消費指数(エクセル:284KB)(月,四半期,年)
二人以上(農林漁家世帯を含む) 二人・二勤
家計消費指数(エクセル:109KB)(四半期,年)
総世帯 総・総勤
家計消費指数(エクセル:67KB)(四半期,年)
単身世帯 単身
http://www.stat.go.jp/data/gousei/soku15/index.htm
家計調査17年1月〜ヘッドラインは弱いが、実態は持ち直しの兆し
• 経済研究部 経済調査室長 斎藤 太郎
•
1.ヘッドラインは弱いが、実態はやや強め
総務省が3月3日に公表した家計調査によると、17年1月の実質消費支出は前年比▲1.2%(12月:同▲0.3%)と11ヵ月連続で減少し、減少幅は前月から拡大した。事前の市場予想(QUICK集計:前年比▲0.4%、当社予想は同0.2%)を下回る結果となった。前月比では0.5%(12月:同▲0.8%)と4ヵ月ぶりの増加となった。月々の振れが大きい住居、自動車などを除いた実質消費支出(除く住居等)は前年比0.3%(12月:同▲1.5%)と9ヵ月ぶりの増加、前月比では3.2%(12月:同▲1.6%)の高い伸びとなった。
実質消費支出の動きを項目別に見ると、家具・家事用品(前年比7.4%)、教育(前年比5.0%)などが増加、住居(前年比▲6.7%)、保健医療(前年比▲7.6%)などが減少した。10項目中5項目が増加、5項目が減少した。
実質消費水準指数(除く住居等、季節調整値)は前月比1.5%(12月:同▲0.7%)と4ヵ月ぶりに上昇した。同指数は16年7-9月期が前期比▲0.4%、10-12月期が同▲1.5%と2四半期連続で低下したが、17年1月の水準は16年10-12月期を0.6%上回った。
ヘッドラインとされる消費支出全体(前年比)は弱い数字だが、月々の振れの大きい住居等を除けば16年4月以来の増加、季節調整値では消費支出、消費水準指数(除く住居等)ともに前月比でプラスとなった。単月の結果だけで基調が変わったとまでは言えないが、年末にかけての非常に弱い動きから脱する兆しと捉えることは可能だろう。
2.供給側の統計は引き続き底堅い動き
家計調査以外の1月の個人消費関連指標を確認すると、商業動態統計の小売販売額は前年比1.0%(12月:同0.7%)と3ヵ月連続の増加、季節調整済・前月比では0.5%(12月:同▲1.6%)と2ヵ月ぶりに増加した。物価上昇分を割り引いた実質ベースの季節調整済・販売額指数(当研究所による試算値)は16年7-9月期、10-12月期ともに前期比1.2%と高めの伸びとなった後、17年1月は前月比0.8%と堅調を維持した。
百貨店売上高(日本百貨店協会)は前年比▲1.2%(店舗調整後)と11ヵ月連続の減少となったものの、16年12月の同▲1.7%から減少幅が縮小した。外国人観光客向けの売上高が12月の前年比8.3%から同24.8%と伸びを大きく高めた。
また、自動車販売台数(軽自動車を含む)は16年11月以降前年比で増加を続けており、17年2月には前年比8.2%の高い伸びとなった。さらに、外食産業売上高は前年比2.4%と5ヵ月連続で増加した。客単価は前年並みにとどまっているが、客数の伸びが売上高の増加につながっている。供給側の消費関連指標の多くは底堅い動きが続いている。
家計調査の消費支出は昨年夏場から年末にかけて弱い動きとなったが、その間も販売側(供給側)の統計は底堅さを維持しており、1月は需要側、供給側のいずれも良好な結果となった。雇用所得環境の改善傾向が続いていることと合わせて考えれば、個人消費は持ち直しの動きが続いていると判断される。
ただし、物価上昇に伴う実質所得の低下が消費の抑制要因となっていることには注意が必要だ。昨年末にかけて消費を下押ししていた生鮮野菜の価格高騰は一服しているが、今後はエネルギー価格の上昇が消費者物価の押し上げ要因となる。引き続き物価上昇による実質所得の低下が個人消費を下押しすることが懸念される。
________________________________________
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は 情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
全文ダウンロード(PDF)
このレポートの関連カテゴリ
• 経済・金融フラッシュ
• 日本経済
• 家計調査
経済調査室長 経済研究部
斎藤 太郎 (さいとう たろう)
研究・専門分野
日本経済、雇用
レポートについてお問い合わせ
03-3512-1836
(2017年03月03日「経済・金融フラッシュ」)
関連レポート
• 消費者物価(全国17年1月)〜コアCPI上昇率は15年12月以来のプラス
• 法人企業統計16年10-12月期〜企業収益の急回復を受けて設備投資も持ち直し、10-12月期の成長率は上方修正へ
• 2017・2018年度経済見通し(17年2月)
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55201?site=nli
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/209.html