アップルと鴻海も狙っている(左下から、クック米アップルCEOと鴻海の郭台銘会長)/(C)AP
売られる会社に買う会社 社員19万人の生活はどうなる? 崖っぷちの「東芝社員」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/200450
2017年2月28日 日刊ゲンダイ P11 文字お越し
やっぱり“国策”か。そんなうがった見方が相次ぐのが、経営再建で揺れる東芝だ。買収した米原子力子会社・ウェスチングハウス(WH)の損失リスクは最大7000億円とされていたが、24日に米国で進める原発建設の工期延長が要請されたと報じられ、損失がさらに膨らむ恐れが濃厚になっている。営業利益の8割を稼ぐ半導体事業や有望なグループ企業を切り売りしながら、借金垂れ流しの原発事業を残す不思議。“解体”のトバッチリを受けるのがグループ19万人の社員の生活だ。
半導体事業は4月1日付で「東芝メモリ」として分社化される。東芝から約9000人、関連会社から約1000人が新会社へ。「東芝」の名前は残っても、売却される株式は当初の20%から50%超に引き上げられたことから、複数の海外勢が引受先の候補に挙がっているという。
「メモリ分野で東芝と協力関係にある米ウェスタンデジタル、同業の米マイクロン・テクノロジーが色気を見せていて、米アップルや米マイクロソフトも関心を寄せています。さらにシャープを買収した台湾の鴻海や韓国のSKハイニックスなども入札に応じる可能性が高い」(証券関係者)
引受先はともかく、東芝は株式売却で1兆円を調達。今年3月末に約2000億円とされる債務超過を穴埋めし、資本増強に充てる方針だが、WHの損失がどれくらい拡大するかによっては“V字回復”にはなりそうにない。
弱り目にたたり目なのが、液化天然ガス(LNG)事業の損失だ。4年前に米国のLNG会社と2019年から20年にわたって、毎年220万トンのLNGを調達する契約を結んだが、東芝の目算が狂って販売交渉が難航。天然ガスが一切売れなかった場合、20年間の最大損失リスクは9713億円と決算資料に記されている。
「LNG事業の雲行き次第では、グループ会社の切り売りはもっと加速せざるを得ません。売却候補? 上場グループ会社では、POS事業を手掛ける東芝テック、発電設備を建設する東芝プラントシステム、半導体製造装置のニューフレアテクノロジー、工作機械の東芝機械などで、これらの企業の株式時価総額はそれぞれ100億〜900億円ほどです。非上場では、東芝エレベータやスマートメーターのランディス・ギア、照明器具の東芝ライテック、さらに不動産として東芝病院の売却も取り沙汰されていますが、1兆円の補填は難しい」(前出の関係者)
■倒産した山一とダブる社員の今後
東芝は昨年、医療機器子会社をキヤノンに6655億円、白物家電を中国企業に514億円でそれぞれ売却している。すでに1兆円分の資産をたたき売り、3万人をリストラ。もう売れる物は限られている。東芝とその社員はどうなるのか。経済評論家の山崎元氏が言う。
「不採算の原発事業の“止血”もせずに事業を継続するのは原発外交を続ける政府の意向があるように見えなくもない。しかし、それで有望関連企業を切り売りしても、現状は“死に体”ですから解体は避けられないでしょう。そうなると“社員は悪くない”のですが、最後まで残った社員は倒産後の山一と同じような状況を余儀なくされます。労働市場に東芝の履歴書があふれるため、転職が難しくなる。それまでのリストラに伴う給与カットを挽回するどころか、“第二の人生”が危うくなりかねません」
逃げるが勝ちか。