やっぱり自宅で死にたい!名医が選んだ「看取られたい在宅医」150人 徹底調査:47都道府県別リストつき
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50540
2016.12.25 週刊現代 :現代ビジネス
人生で「一度きりで最後」の医者選び。良い在宅医の見分け方とは?
長年暮らした自宅で家族に囲まれながら最期を迎えたいと考える人は多い。だが現実に「理想の看取り手」を探すのはとても難しい。在宅の名医たちに「本当に信頼できる在宅医」を推薦してもらった。
■最期は自宅で迎えたいが…
「がんを患った母が、余命3ヵ月となって、『やはり自宅で最期を迎えたい』と言うようになった。家に帰ると世話が大変そうだし、逆におカネもかかるのではないかと心配でしたが、母の願いもかなえてあげたくて、医者を探し始めました。
家の近くに病院はいろいろあるのですが、実際、看取ってもらうとなると、どの先生に頼めばいいかわからない。最終的に、いちばん近所の内科の先生に診てもらうようにお願いしました。
しかし、いざ痛みが激しくなって苦しいといっても医者はなかなか来てくれず、家族もパニックになった。母は結局、救急車で運ばれて、3週間ほど入院し、病院で最期を迎えました。望みをかなえてあげられなかったことが悔やまれます」
こう語るのは、埼玉県に住む若杉真哉さん(仮名、65歳)。近年、若杉さんの母親のように、最期は自宅で迎えたいという高齢者が増えている。内閣府が'12年に行った調査によると、実に過半数の人が「最期を迎えたい場所」として「自宅」を希望している。
だが、現実は大きく異なる。1951年には82%の日本人が自宅で息を引き取っていた。しかし、その後の60年で病院で亡くなる人が右肩上がりで増え続け、現在では80%近い人が病院で亡くなっている。実際に慣れ親しんだ自分の家で、家族と共に最期を迎えることができる人は12%ほどに過ぎない(厚生労働省のデータ)。
現在の日本では、「死」という人生最後の重大事に関して、患者の希望と現実が大きく乖離しているのだ。
■一人暮らしでも大丈夫
今年7月に亡くなった大橋巨泉氏も、自宅で在宅医療を受けていた。
だが、もともと緩和ケアの専門家ではない皮膚科医がモルヒネを誤投与したことで、死期を早めることになってしまった。現在の日本では、理想的な在宅医を見つけるのがいかに難しいかを象徴する一件だった。
在宅医療の第一人者である長尾クリニック(兵庫県尼崎市)の長尾和宏氏が語る。
「国が在宅医療の普及を進めていることもあって、在宅医という言葉は知られるようになりました。しかし、その実情や利用のしかたを知らない人がまだまだ多い。
先日は、ある患者さんに『在宅医療は高いと聞いたのですが……』と相談されました。自宅で亡くなった芸能人の話を聞いて、お金持ちの芸能人だから自宅で死ねたのだろうと思ったそうです。しかし現実には、入院に比べて在宅のほうが医療費はずっと安くなることがほとんどです。在宅医療費は決して高価なものではありません」
他にも、がん患者が家で最期を迎えようとすると痛みに苦しむことになると誤解する人が多いという。
「病院ならナースコールですぐに看護師さんが来てくれるから安心だが、在宅では難しいと心配する人がいます。でも在宅では看護師や主治医の携帯電話がナースコールなのです。確かに同じ病院内にいるわけではないので、少し時間がかかると思いますが、痛みが出そうな患者さんには、前もって痛み止めを用意しておきます」(長尾氏)
最近では医療用麻薬も発達し、即効性の高いタイプや貼り薬など様々な種類があり、そのような薬を枕元に置いておけば、安心感につながる。東京都立川市で立川在宅ケアクリニックを開業する井尾和雄氏が語る。
「うちのクリニックは緩和ケアが専門です。基本的に在宅でできない医療はないと考えていますし、緩和ケアは病院よりも質の高いものが提供できる自信もあります。最近では脊髄を鎮痛標的にするクモ膜下鎮痛法を行うことが多いですが、こうした最新の麻酔技術も自宅で行えるのです」
また、一人暮らしの高齢者は在宅医療を受けるのは難しいとあきらめている人も多いが、それもまったくの誤解だと、長尾氏は言う。
「大都市で増えている独居の高齢者で、介護する家族がいない場合でも、最期までずっと家で過ごすことはできます。よいケアマネージャーを探して介護保険を上手に使うことで、末期がんでも最期まで自宅で楽しく生活している人もたくさんいるのです」
このように、近所に良い在宅医さえ見つかれば、自宅で逝くことは必ずしも難しくはない。では、どのようにすれば、良い在宅医を見つけることができるのか?
本誌は在宅医療の第一人者と言われる医師たちに取材を行い、良い在宅医の条件を聞きながら、実際に医師たちが「自分でも看取ってもらいたい在宅医」として挙げた名医150人のリストを作成した。
■「聞き上手」の医師が良い
東京都豊島区の要町ホームケアクリニックの吉澤明孝氏が語る。
「現在、私の病院の在宅医療の患者さんは180人。多くが末期がんの患者さんで、年間100人弱の看取りを行っています。私は在宅医療の目的は、最期の時を家族と一緒に楽しく過ごすことだと思っています。
うちでは、血圧が下がり点滴が外せないような状態で他の病院では在宅は難しいと言われてしまうような患者さんでも、在宅を望む人はできるだけ家に帰してあげられるようにしています」
そんな吉澤氏が信頼できる在宅医に挙げる一人が、鈴木央氏(東京都大田区の鈴木内科医院)だ。
「在宅医療のレジェンドと呼ばれる鈴木荘一先生のご子息です。自転車で患者さんの家を回っている、昔ながらの赤ひげ先生です。日本における在宅医療の一つのモデルだと思います」(吉澤氏)
その鈴木氏に、在宅医の探し方の基本を聞いた。
「最も公式な方法としては、各市区町村に置かれている地域包括支援センターに問い合わせてみることです。ここには在宅医療を行っている医療機関の情報が集まってくるからです。ただ、それで本当に信頼関係の築ける医者に出会えるかどうかはわかりません。
やはり、長年のかかりつけの医者に相談してみるのが一番だと思います。おそらく、いいかかりつけ医であればあるほど、『いままで診てきたわけだし、自分がやりますよ』と言ってくれるでしょう」
医療法人アスムスの太田秀樹氏も「かかりつけ医が在宅医になるのが理想」だと語る。
「だからいずれ在宅医になってもらうつもりで、信頼できるかかりつけ医を探しておくことが大切なのです。代々クリニックを開業しているような伝統的なところは、けっこう往診に対応してくれます。逆にビルの中の診療所で、先生も遠くから通っているようなところは往診してもらうのは難しい場合が多いでしょう。
往診専門のグループを作って在宅医をやっているところもあります。ただそうなると、医療側の都合で担当が日替わりになることも多い。担当医がころころ替わると信頼関係が築きづらいですね」
頼りになるかかりつけ医がなかなか見つからない場合、もし介護保険を受けているのならケアマネージャーに聞いてみるのも手だ。
「ケアマネージャーは地域の医師をよく知っています。ケアマネージャーとうまく連携できている在宅医は最先端のレベルの高い医療を行っている場合が多い。また、訪問看護師も地域の医師の情報に通じているので、相談に乗ってくれるでしょう」(鈴木氏)
神奈川県横浜市のめぐみ在宅クリニックの小澤竹俊氏は、訪問看護ステーションに問い合わせることを勧める。
「在宅医にも得意分野があります。たとえば、がんを患っていて家に帰りたいケースと、脳梗塞など比較的ゆっくり、長期間の在宅医療を受けるケースではふさわしい先生も変わってくる。
そういった際、訪問看護ステーションに問い合わせると、『○○先生は痛み止めの使い方が上手い』『××先生は昼間は来てくれるけれど、夜は来てくれませんよ』といった情報を得られると思います。
おそらく在宅医を選ぶのに、いろいろな先生に会って探す余裕は患者さんにもその家族にもないはずです。結婚式の会場はたくさん下見しても、葬儀会場を選んでいる余裕はないのと同じことです。ですから、口コミ情報が集まる場所を利用すべきなのです」
小澤氏が、自分が診てもらう場合に重視する医者の資質は「よく話を聞いてくれること」だという。
「これまでの医学教育では、説明ができる医者がいい医者だとされてきた。それも大切なことですが、間もなくお迎えが来る方に説明してもあまり意味がない。在宅医療に限らず、苦しんでいる人は、自分の気持ちがわかってくれる人が嬉しいものなのです。
例えば、岩手県のホームケアクリニックえんの千葉恭一先生は、いかに患者さんと寄り添うかをいつも考えている非常に誠実な先生です。優秀な看護師がいるのもポイントです。スタッフも含めて暖かい雰囲気です」
■自宅死亡者が少ない医院は要注意
良い在宅医の条件は他にもさまざまある。前出の長尾氏は次のような項目を在宅医選びのポイントして挙げている。
(1) 自宅から近いこと。近いほど往診もしやすく、お互いにいいことばかり。
(2) 在宅の看取りの数が多く、自宅看取り率が高いこと。
(3) 医師と患者の相性が良いこと。
(4) 訪問診療だけでなく、24時間体制で往診してくれること。
(5) 緩和ケアの技術が高いこと。
(6) 訪問看護師やケアマネージャーと上手に連携が取れていること。
(7) 携帯電話に出ないような医者は×。
(8)「なにかあれば救急車を呼んでください」という医師は、自分で看取る気がないから×。
(9) できれば外来もやっていて、複数の医師がいるところ。そのほうが相談機能や往診機能が充実している。
このうち(2)は、上記のリストのうち自宅での死亡者数、自宅看取り率の数字を見れば確認できる。在宅医の看板を掲げているのに、自宅死亡者数がほとんどいないところ、自宅看取り率がわずか数%と極端に低いところは基本的に避けたほうが無難だろう。
■在宅医療で大切なのは「医師の覚悟」
新田クリニック(東京都国立市)の新田國夫氏は、こんな在宅医はやめたほうがいい、と言う。
「良くない在宅医は営利企業のようになっており、他の業者と癒着していることが多い。事務所はあるけれど、4畳半に電話しかないようなところもあります。いざ患者さんが緊急事態になっても『救急車を呼んでください』としか言わない。医療の企業化はすべてが悪いわけではありませんが、質が担保されないケースが見受けられます」
効率的に儲けるために、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)専門で在宅医療を行う医師もいるという。そうした医師は地域の医師会にすら所属していない。国が在宅医療を推し進めていることもあって、診療報酬を狙った質の悪い在宅医も次々と生まれているのだ。
前出の井尾氏は、在宅の看取りには三つの覚悟が必要だと言う。
「『家で死にたいという本人の覚悟』、そして『家で看取りたいという家族の覚悟』、さらに『家で最期まで支えるという医者、医療者の覚悟』です。最終的に死亡確認をする医者が、そこを支えてくれなければ在宅医療は成立しません。家族、本人の覚悟よりも医療者の覚悟のほうが重要なのです」
ここで紹介した医師150人は、間違いなくそのような覚悟を持った医師たちだ。人生の最期を預ける相手を探すのに、きっと役立つだろう。