金融市場異論百出
2016年12月23日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]
上海で人気沸騰の“IT自転車”
1日1万社超の起業大国・中国
中国・上海で大人気となっている、貸自転車「mobike」は、ITを駆使した新サービスだ Photo:AP/アフロ
中国・上海では最近、「mobike」という貸自転車が大人気となっている。
街のあちこちに置いてあるこの自転車には、QRコードが付いている。これをスマートフォンのカメラで読み取れば、利用開始情報がセンターに届き、鍵は自動的に解除される。
乗り終わったら、どこに乗り捨ててもOKだ。鍵をロックした時点で利用終了となる。支払いは、中国アリババ集団が展開するスマホ決済システム「支付宝(アリペイ)」などのモバイル決済で完了する。料金も安く、利便性は極めて高い。
ただし、当然のことながら、自分の家や店の前にmobikeが乗り捨てられていると、「邪魔だ」と怒り出す人もいる。日本企業であれば、こうしたクレームを想定して事前に議論を重ね、結果的に開業が遅れそうだ。しかし、中国ではリスクを顧みずに新しいビジネスがどんどん始まる。
また、中国・北京では配車サービスが急速な発展を見せている。
例えば、週末に北京国際空港から飛び立つ予定の人がいるとする。その人は安い料金で空港に行く手段はないかと考えている。
一方で、おおよそ同じ時間帯に空港に到着する家族を、車で迎えに行くつもりの人がいるとしよう。その人は、空港への往路は一人だから誰かを乗せて小遣いを稼ぎたいと思っている。
そういった両者のニーズをマッチングさせるアプリが最近人気だ。多少の時間のズレは当事者間で交渉して調整するが、これを使うと、タクシーなら空港まで通常120元(約2000円)支払うケースが、40〜50元で済む。
筆者を北京国際空港まで迎えに来た運転手は、実際それで小遣い稼ぎをしていた。
今年6月、中国・天津で開催されたダボス会議でも、IT関連の話題が出た。中国の李克強首相はその会議の場において、IT・ハイテク関連の消費が急成長しているとアピールした。そうしたブームを背景に、中国では毎日なんと1万3000社が起業しているという。
おそらくその大半は早々につぶれてしまうのだろうが、一獲千金を夢見て創業したがる人は、中国では実際にものすごく多い。世界最大のスマホ利用人口を抱えるだけに市場は巨大で、アプリでヒットを飛ばすことができれば、大もうけできるからだ。
IT産業とは無縁そうな筆者の北京の友人ですら、親しい仲間が集まって飲む際は「こういうアプリを作ったらもうかるんじゃないか」といった会話で延々と盛り上がるという。
電子商取引(Eコマース)の劇的な拡大やモバイル決済によるキャッシュレス化も含め、ITを使ったサービスの普及に関して、中国は日本よりはるかに進んでいる。安全性が日本ほど重視されないことや、当初は規制上グレーな商売でも利用者の支持が高まれば当局が追認することが多々ある、といったことも展開の速さの要因だ。
さらに、日本は既存のサービスの質が非常に高いため、ITを用いた新サービスの必要性があまり感じられない面がある。欧米や中国では、小売店や銀行の窓口の対応にいらつかされたり、タクシー運転手がだまそうとしたりするので、ITサービスの方がいいという人が多い。
今は素晴らしい日本のサービスだが、海外で続々と確立されている新サービスの標準に取り囲まれてしまうと、後が心配である。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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