米インディアナ州インディアナポリスにある空調設備メーカーの工場を視察するドナルド・トランプ次期米大統領(資料写真、2016年12月1日撮影)。(c)AFP/TIMOTHY A. CLARY〔AFPBB News〕
トランプ相場をレーガン相場になぞらえてはいけない 現在の米国株式市場は「根拠なき熱狂」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48600
2016.12.8 重見 吉徳 JBpress
ドナルド・トランプ氏の米大統領選挙での勝利というショックについて、筆者は、(何もかも買われる)金融相場から、(買われるものもあれば売られるものもある)業績相場への移行を促したという点で、一定の前向きな評価をしている。
しかし、買われている資産の代表格である現在の米国株式市場はおそらく「根拠なき熱狂」であろう。端的に言えば、まだ何も起こっていない。
ただし、市場は期待で動くため、「根拠なき熱狂」は相場につきものである。まして、前回のコラム(「トランプ勝利でデータ上は『逆リーマンショック』」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48452)で述べたように、データを遡ることができる1982年4月以来の「上向きのブラックスワン」であるから、熱狂も無理はない。
先日、「レーガン相場」を示したチャートを見る機会があった。S&P500指数で見れば、株価は8年間で約2倍になっている。確かに、ロナルド・レーガン元大統領が実施した経済政策と、ドナルド・トランプ次期大統領が掲げる経済政策には類似性がある。それゆえ、当時の上昇相場の再現を期待する向きもあるかもしれない。
ただ、当時と現在では、株価と景気のサイクルが全く異なる。過度な期待は禁物であろう。以下では、両者のサイクルの違いについて見ていこう。
■「レーガン相場」だけでは語れない
まず、「レーガン相場」の前には、「株式の死」と呼ばれた70年代の長い低迷があった。米国株式は70年代を通じて横ばい推移が続き、73年につけた高値を80年まで超えることはできなかった。
さらに重要なこととして、70年代の株価は名目ベースでは横ばいでも、物価で調整した実質ベースでは半分未満に下落している(ピークからボトムまで約54%の下落)。つまり、80年代の「レーガン相場」は、70年代の「超弱気相場」からの回復局面であった。
株式市場には、強気相場と弱気相場のサイクルがある。来るべき「トランプ相場」がどのようなものになるかを占う方法の1つは、70年代を振り返ったのと同様に、最近の10年がどのような相場であったかを振り返ることであろう。それは強気相場(回復局面)であった。実質ベースの株価は、2009年3月のボトムから、(トランプ・ラリーを除く)2016年10月までに約2.5倍上昇している。
トランプ次期大統領の就任を目前に控える直近2016年10月を、レーガン大統領就任直前の80年10月と重ね、実質ベースの株価を並べたものが、下図である。今回はもうすでに、リカバリーもラリーも十分に進んでいる感が否めない。
加えて、当然のこととして、CAPE(景気循環と物価を調整した株価収益率)も同様の状況を示唆する。80年10月は9.4倍であり、対する(トランプ・ラリーを含まない)2016年10月は26.6倍である。1880年からの136年間で見て、80年10月は最低水準に近く、2016年10月はかなりの高水準である。
最後に、景気循環については、もはや筆者が多くを述べるまでもない。82年の失業率の高さや需給ギャップのマイナス幅はいずれも、リーマン・ショック後の最悪期を上回っており、当時は深刻な景気後退であった。現在の完全雇用状態とはサイクルが異なり、財政出動のインプリケーションも異なる。
株価や景気にサイクルの存在を肯定すれば、ここからの株価の上昇幅は限られるか、上がってもその水準を維持できる期間はそう長くならない可能性を見ておくべきだろう。
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